Published 17 Nov 2025

株の損失を次年度に繰り越す「損失繰越控除」活用法

株の損失を次年度に繰り越す「損失繰越控除」活用法

損失繰越控除の基本的な仕組みから、1000万円以上の資産を持つ投資家ならではの高度な活用戦略、そして意外と知られていない注意点まで、圧倒的な情報量と具体例を交えて徹底的に解説します。

1000万円以上の資産を運用する投資家の皆様にとって、株式投資は資産形成の力強い柱となる一方、市場の変動による損失リスクは常に隣り合わせの存在です。


しかし、被った損失を単なる「負け」で終わらせず、将来の税負担を軽減する「武器」に変える制度があることをご存知でしょうか。


それが「損失繰越控除(じょうとそんしつのくりこしこうじょ)」です。


この制度を正しく理解し、戦略的に活用することで、予期せぬ損失を将来の利益創出へと繋げトータルでの投資パフォーマンスを大きく向上させることが可能です。


本記事では、損失繰越控除の基本的な仕組みから、1000万円以上の資産を持つ投資家ならではの高度な活用戦略、そして意外と知られていない注意点まで、圧倒的な情報量と具体例を交えて徹底的に解説します。


この記事を読み終える頃には、あなたは損失繰越控除を自在に操り、より賢く、したたかに資産を運用するための確かな知識を手にしていることでしょう。


第1章:損失繰越控除とは?制度の基本を徹底解説

損失繰越控除は、株式投資などで発生した年間の損失を、翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺できる制度です。 


この制度を活用することで、将来得られる利益にかかる税金を抑えることができます。

1-1. 損失繰越控除と損益通算の関係

損失繰越控除を理解する上で欠かせないのが「損益通算」というもう一つの制度です。


  • 損益通算とは?
    同じ年内の利益と損失を相殺することです。 例えば、A株で50万円の利益が出て、B株で30万円の損失が出た場合、損益通算によってその年の利益は20万円となり、この20万円に対してのみ課税されます。

  • 関係性
    損益通算を行ってもなお相殺しきれない損失が残った場合に、その損失を翌年以降に持ち越すのが「損失繰越控除」です。



制度名

内容

損益通算

同一年内の利益と損失を相殺する制度

損失繰越控除

損益通算しても残った損失を、翌年以降最大3年間にわたって繰り越し、将来の利益と相殺する制度

1-2. 対象となる金融商品

損失繰越控除および損益通算の対象となるのは、主に以下の金融商品を売却して生じた損益です。


  • 上場株式

  • 公募株式投資信託

  • 特定公社債(国債、地方債、外国債、社債など)

  • 公募公社債投資信託


【重要】

これらの損益は「申告分離課税」として、給与所得や事業所得など他の所得とは分けて税金が計算されます。


そのため、株式投資の損失を給与所得と損益通算することはできません。


第2章:【具体例で学ぶ】損失繰越控除のメリットと節税効果シミュレーション

損失繰越控除の最大のメリットは、将来の税負担を軽減できる点にあります。


ここでは具体的なシミュレーションを用いて、その絶大な節税効果を見ていきましょう。

2-1. シミュレーション:300万円の損失を繰り越した場合

ある投資家が、2025年に300万円の譲渡損失を出し、その後3年間で利益を上げたケースを考えます。(税率は復興特別所得税を含め20.315%として計算)

【損失繰越控除を利用しない場合】

譲渡損益

繰越損失

課税対象額

納税額

(概算)

2025年

▲300万円

-

0円

0円

2026年

+150万円

-

150万円

約30.4万円

2027年

+200万円

-

200万円

約40.6万円

2028年

+100万円

-

100万円

約20.3万円

合計納税額




約91.3万円


【損失繰越控除を利用した場合】


譲渡損益

繰越損失の利用

課税対象額

納税額

(概算)

残りの繰越損失

2025年

▲300万円

-

0円

0円

300万円

2026年

+150万円

▲150万円

0円

0円

150万円

2027年

+200万円

▲150万円

50万円

約10.1万円

0円

2028年

+100万円

-

100万円

約20.3万円

0円

合計納税額




約30.4万円


<シミュレーション結果>

このケースでは、損失繰越控除を利用することで、3年間の合計納税額約91.3万円約30.4万円となり、約60.9万円もの節税に繋がりました。


このように、損失繰越控除は単なる気休めの制度ではなく、将来のキャッシュフローに直接的なインパクトを与える強力なツールなのです。

2-2. 精神的な安定というメリット

損失繰越控除は、金銭的なメリットだけでなく、投資家の精神的な安定にも寄与します。


  • 長期的な視点の維持: 一時的な損失が出ても、「この損失は将来の税金を減らしてくれる」と考えることで、狼狽売りなどの短期的な感情に流された行動を抑制し、長期的な投資戦略を維持しやすくなります。

  • 積極的な投資への挑戦: 損失が出た場合のリスクヘッジ手段があるという安心感は、新たな投資機会へ積極的に挑戦する後押しとなります。


第3章:【初心者でも安心】損失繰越控除の手続き完全ガイド

損失繰越控除の恩恵を受けるためには、必ず確定申告が必要です。 


株式投資で損失が出た場合、確定申告の義務はありませんが、この制度を利用するためには自主的に申告を行う必要があります。

STEP1:確定申告の準備

まずは確定申告に必要な書類を準備します。


  • 特定口座年間取引報告書: 証券会社から翌年1月頃に交付されます。その年1年間の取引損益がすべて記載されています。

  • マイナンバーカード(または通知カード+本人確認書類): e-Tax(電子申告)を利用する場合に必要です。

  • 源泉徴収票(給与所得者など): 給与所得など、他の所得がある場合に必要です。

STEP2:確定申告書の作成

国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の案内に従って入力するだけで簡単に申告書を作成できます。

【主な入力・作成書類】

  1. 申告書 第一表・第二表: 氏名や住所、所得の内訳などを記入する基本の書類です。

  2. 申告書 第三表(分離課税用): 株式等の譲渡所得はこちらに記入します。

  3. 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書: 「特定口座年間取引報告書」の内容を転記し、年間の損益を計算します。

  4. 所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用): 損失額を翌年以降に繰り越すために最も重要な書類です。


これらの書類を作成し、e-Taxで送信するか、印刷して所轄の税務署に提出すれば手続きは完了です。

STEP3:損失を繰り越す期間中の手続き【最重要ポイント】

損失繰越控除を適用するためには、損失が発生した年だけでなく、その損失を繰り越している期間中取引の有無にかかわらず毎年連続して確定申告を行う必要があります。


例えば、2025年に発生した損失を2027年の利益と相殺したい場合、2025年、2026年、2027年の3年間、毎年確定申告が必要です。


もし2026年に株式取引を一切行わなかったとしても、2026年分の確定申告で「繰り越した損失があります」という申告をしなければ、繰越控除の権利が消滅してしまいますので、くれぐれもご注意ください。


第4章:【富裕層向け】1000万円以上保有する投資家のための損失繰越控除・応用戦略

損失繰越控除の基本を理解した上で、さらに一歩進んだ、1000万円以上の資産を運用する投資家向けの応用戦略をご紹介します。

戦略1:配当金との損益通算で源泉徴収された税金を取り戻す

上場株式の配当金は、受け取る際に所得税・住民税(合計20.315%)が源泉徴収されています。


通常、確定申告は不要ですが、譲渡損失がある年にあえて配当金を「申告分離課税」で確定申告することで、譲渡損失と損益通算ができます。


<例>

  • 年間の株式譲渡損失:▲50万円

  • 年間の配当金収入:20万円(源泉徴収税額:約4万円)


この場合、確定申告で損益通算を行うと、
20万円(配当所得)- 50万円(譲渡損失) = ▲30万円
となり、課税所得は0円になります。


その結果、配当金から源泉徴収されていた約4万円が全額還付されます。 


さらに、残った30万円の損失は翌年以降に繰り越すことができます。

戦略2:年末の「損出し」で税負担をコントロールする

「損出し」とは、年末に含み損を抱えている銘柄を一度売却して損失を確定させ、すぐに買い戻す(または別の銘柄に乗り換える)ことで、その年の利益を圧縮したり、繰り越してきた損失を有効活用したりするテクニックです。

<活用例1:その年の利益を圧縮する>

  • 今年の実現利益:+100万円

  • 保有銘柄の含み損:▲80万円


このまま年を越すと100万円に対して約20.3万円の税金がかかります。


しかし、年末に含み損のある銘柄を売却(損出し)すれば、その年の利益は20万円(100万円 - 80万円)に圧縮され、納税額を約4万円に抑えることができます。

<活用例2:繰越損失を有効活用する>

  • 3年前に発生し、今年が期限の繰越損失:▲100万円

  • 今年の実現利益:+30万円

  • 保有銘柄の含み益:+70万円


このままでは、繰越損失のうち70万円分(100万円 - 30万円)が使われずに消滅してしまいます。


そこで、含み益のある銘柄を売却して利益を確定(利確)させることで、実現利益は合計100万円となり、繰越損失を全額使い切って納税額を0円にすることができます。

戦略3:NISA口座との賢い使い分け

NISA(少額投資非課税制度)口座は、利益が非課税になるという大きなメリットがありますが、NISA口座内で発生した損失は、損益通算および損失繰越控除の対象外という重要なルールがあります。


NISA口座での損失は、税務上「なかったもの」として扱われるのです。


この特性を理解し、課税口座(特定口座や一般口座)とNISA口座を戦略的に使い分けることが重要です。


  • NISA口座に適した投資: 長期的な成長が期待でき、安定したリターンが見込める銘柄。値上がり益や配当金を非課税で受け取るメリットを最大限に活かす。

  • 課税口座に適した投資: 値動きが大きくハイリスク・ハイリターンな銘柄。万が一損失が出た場合に、損益通算や繰越控除によって他の利益と相殺し、税負担を軽減するリスクヘッジを効かせる。


第5章:意外と知らない?損失繰越控除の注意点とよくある質問

損失繰越控除は非常に有用な制度ですが、知らずに損をしてしまう可能性がある注意点も存在します。

5-1. 注意点

注意点1:確定申告を忘れると権利が消滅する

前述の通り、損失を繰り越す期間中は、取引がない年でも毎年確定申告が必要です。


 一度でも申告を忘れると、その時点で繰越控除の権利は失われます。

注意点2:繰越期間は最大3年間

損失を繰り越せるのは、その損失が発生した年翌年以降3年間です。 


4年以上前の損失は利用できません。

注意点3:扶養控除や国民健康保険料への影響

損失繰越控除を適用するために確定申告を行うと、合計所得金額の計算に影響が出る場合があります。


  • 扶養控除・配偶者控除: 控除の判定に使われる合計所得金額は、繰越控除を適用する前の金額で計算されます。 そのため、多額の利益が出ていて、それを繰越損失で相殺したとしても、判定上の所得金額は高いままとなり、扶養から外れてしまう可能性があります。

  • 国民健康保険料: 国民健康保険料も、前年の所得を基に算定されます。 自治体によって算定基準が異なりますが、同様に繰越控除前の所得で計算される場合があり、保険料が想定より高くなる可能性があります。


特に「源泉徴収ありの特定口座」で取引している場合、本来は確定申告が不要です。


損失繰越控除のメリットと、扶養や社会保険料への影響というデメリットを十分に比較検討してから申告するかどうかを判断する必要があります。

5-2. よくある質問(Q&A)

Q1:海外の株式の損失も対象になりますか?

A1: 日本の証券会社を通じて取引している上場株式であれば、国内・海外を問わず損益通算および繰越控除の対象となります。

Q2:確定申告を忘れてしまった場合はどうなりますか?

A2: 申告期限を過ぎてしまった場合でも、「期限後申告」として手続きをすることは可能です。 


また、一度確定申告をした後で誤りに気づいた場合は、「更正の請求」という手続きで修正できる場合があります。 


ただし、条件が複雑なため、詳細は所轄の税務署に確認することをお勧めします。

Q3:FXや仮想通貨の損失と損益通算できますか?

A3: できません。


株式等の譲渡所得と、FX(先物取引に係る雑所得等)や仮想通貨(雑所得)は所得の区分が異なるため、損益通算することはできません。


まとめ

「損失繰越控除」は、株式投資における損失を、単なるマイナスではなく、未来の税負担を軽減するための戦略的なカードに変えることができる制度です。


特に、大きな金額を動かす1000万円以上の資産を持つ投資家にとって、この制度を使いこなせるかどうかは、長期的な資産形成に大きな差を生み出します。


【本記事の重要ポイント】

  • 損失は最大3年間繰り越し、将来の利益と相殺できる。

  • 利用するには、損失が出た年から連続して毎年の確定申告が必須。

  • 配当金との損益通算や、年末の「損出し」といった応用戦略で節税効果を最大化できる。

  • NISA口座の損失は対象外。課税口座との戦略的な使い分けが重要。

  • 確定申告により、扶養控除や国民健康保険料に影響が出る可能性に注意が必要。


相場が好調な時は利益を最大化することに目が行きがちですが、優れた投資家は、市場が不調な時のリスク管理、そして損失をいかにして次に繋げるかを常に考えています。


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