1000万円以上の資産を保有する方々を対象に、なぜ家族信託が「次世代の資産防衛術」と呼ばれるのか、その仕組みから具体的な不動産節税への活用法、さらには知っておくべき注意点まで、徹底的に解説します。
「人生100年時代」と言われる現代、親世代の資産をいかに円満に、そして賢く次世代へ引き継いでいくかは、多くのご家庭にとって喫緊の課題となっています。
特に、資産の大部分を不動産が占める場合、その対策はより複雑かつ重要になります。
従来の相続対策といえば、遺言書の作成や生前贈与が一般的でした。
しかし、認知症による資産凍結リスク、二次相続以降の資産承継先の指定ができないといった課題も浮き彫りになっています。
そこで今、富裕層や不動産オーナーの間で急速に注目を集めているのが「家族信託」という制度です。
本記事では、1000万円以上の資産を保有する方々を対象に、なぜ家族信託が「次世代の資産防衛術」と呼ばれるのか、その仕組みから具体的な不動産節税への活用法、さらには知っておくべき注意点まで、徹底的に解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたの資産と家族の未来を守るための、新たな選択肢が明確になっているはずです。
第1章:そもそも家族信託とは?:制度の基本をゼロから理解する
まず、家族信託という言葉自体に馴染みのない方も多いかもしれません。
この章では、制度の根幹となる仕組みや登場人物、そして従来の制度との違いを分かりやすく解説します。
1. 家族信託の仕組みと3人の登場人物
「家族信託」とは、一言で言えば「自分の財産を、信頼できる家族に託し、自分が決めた目的のために管理・運用・承継してもらう」ための法的な仕組みです。
この仕組みには、主に3人の登場人物がいます。
委託者(いたくしゃ):財産を託す人(=財産の所有者)
受託者(じゅたくしゃ):財産を託され、管理・運用する人(=信頼できる家族)
受益者(じゅえきしゃ):信託された財産から生じる利益を受け取る人
例えば、父親(委託者)が、所有する収益アパートの管理を長男(受託者)に託し、アパートから得られる家賃収入は引き続き父親(受益者)が受け取る、といった形が典型例です。
この契約を結ぶことで、父親が将来認知症になっても、長男がアパートの修繕や売却といった管理を遅滞なく行えるようになります。
2. なぜ今、家族信託なのか?:他の制度との徹底比較
家族信託のメリットを深く理解するために、従来の相続対策である「遺言」や「成年後見制度」と比較してみましょう。
この表から分かるように、家族信託の最大の特徴は「生前の対策」と「死後の対策」を一体的に、かつ柔軟に設計できる点にあります。
特に、遺言では実現できなかった「二次相続以降の資産承継先の指定」ができる点は、家系を絶やさずに資産を引き継いでいきたいと考える方にとって画期的な仕組みです。
第2章:【本題】家族信託が不動産節税に絶大な効果を発揮する3つの理由
家族信託が単なる財産管理の仕組みに留まらないことは、ここまでの説明でお分かりいただけたかと思います。
本章では、いよいよ本題である「不動産節税」の側面に焦点を当て、その具体的なメカニズムを解説します。
理由1:相続税対策:”数世代先”を見据えた究極の資産承継
通常の相続では、親から子へ、子から孫へと財産が移転するたびに相続税が課税されます。
しかし、「受益者連続型信託」という仕組みを活用することで、この課税をコントロールすることが可能になります。
受益者連続型信託とは?
これは、当初の受益者(例:父親)が亡くなった後、次の受益者(例:母親)を指定し、さらにその次の受益者(例:長男)まで、あらかじめ信託契約で定めておくことができる仕組みです。
<具体例>
父親(委託者)が、長男(受託者)に不動産を信託。
第1受益者:父親
父親の死後、第2受益者:母親
母親の死後、第3受益者:長男
この場合、父親から母親へ、母親から長男へと受益権が移る際には相続税が課税されますが、不動産の所有権そのものは受託者である長男にあるため、所有権移転に伴う不動産取得税や登録免許税は発生しません。
さらに重要なのは、「誰に資産を渡すか」を数世代先までコントロールできる点です。
例えば、「長男の次は、孫の〇〇に」と指定することで、意図しない人物(例えば、子の配偶者の再婚相手など)に資産が流出するリスクを防ぎ、一族の資産として守り抜くことが可能になります。
理由2:所得税・住民税対策:収益不動産の「損益通算」を最大化
収益アパートやマンションを所有している場合、家族信託は所得税・住民税の節税にも繋がります。ポイントは「損益通算」です。
不動産所得が赤字になった場合、その赤字分を給与所得など他の黒字の所得と相殺(損益通算)することで、課税対象となる所得を圧縮し、結果的に所得税や住民税を軽減できます。
家族信託の活用法
例えば、高所得の現役世代である子(受託者兼受益者)に、親(委託者)が所有する古い収益物件を信託します。
その物件で大規模修繕などを行い、意図的に不動産所得を赤字にすることで、子の高い給与所得と損益通算させ、所得税の還付を受けるといったスキームが考えられます。
【注意点】
このスキームは、信託する不動産の収益性や子の所得状況などを総合的に判断する必要があり、税理士や弁護士などの専門家との綿密なシミュレーションが不可欠です。
理由3:贈与税対策:「暦年贈与」との組み合わせで効果を倍増
家族信託は、生前贈与、特に年間110万円まで非課税となる「暦年贈与」と組み合わせることで、より効果的な節税を実現します。
信託受益権の贈与
不動産そのものを毎年少しずつ贈与(分筆して持分を移転)するのは、手続きが煩雑で現実的ではありません。
しかし、家族信託を使えば、不動産を信託財産とし、その「受益権」を分割して毎年110万円の非課税枠内で子や孫に贈与していくことが可能です。
これにより、不動産の管理・運用の権限は受託者である親や長男が持ち続けたまま、実質的な財産価値(受益権)だけをスムーズに次世代へ移転させ、将来の相続財産を計画的に圧縮することができます。
これは、不動産という分けにくい資産を、まるで預金のように柔軟に承継させる画期的な方法と言えるでしょう。
第3章:【実践編】ケース別に見る家族信託の不動産活用術
理論だけでなく、具体的な活用イメージを持っていただくために、よくあるお悩みを基にした活用事例を4つご紹介します。
ケース1:認知症による資産凍結を防ぎたい
登場人物:父(80歳・アパートオーナー)、母(78歳)、長男(50歳)
課題:父が認知症になると、預金口座が凍結され、アパートの修繕や売却ができなくなる恐れがある。
解決策:
委託者:父
受託者:長男
受益者:父
信託財産:アパート、当面の生活費や管理費を入れた預金
効果:父が認知症と診断された後も、受託者である長男が信託契約に基づき、アパートの管理(家賃収入の受領、修繕契約の締結)や預金の引き出しを合法的に行える。これにより、資産凍結を回避し、安定した賃貸経営を継続できる。
ケース2:共有名義不動産の「負」動産化を回避したい
登場人物:長男(55歳)、次男(52歳)、長女(50歳)
課題:実家を3人の共有名義で相続したが、意見がまとまらず、売ることも貸すこともできない「塩漬け状態」になっている。
解決策:
委託者:長男、次男、長女
受託者:信頼できる長男(または外部の専門家)
受益者:長男、次男、長女(持分に応じて)
効果:意思決定の窓口が受託者である長男に一本化される。これにより、賃貸に出す際の契約や、将来売却する際の手続きがスムーズに進む。家賃収入や売却代金は、受益者である3人が持分に応じて受け取るため、公平性も保たれる。
ケース3:障がいのある子に安定した生活を残したい
登場人物:父(65歳)、母(63歳)、長男(40歳・障がいあり)
課題:自分たちが亡くなった後、障がいのある長男が財産を適切に管理できるか、また悪徳業者に騙されないか心配。
解決策:
委託者:父
受託者:信頼できる親族(甥など)や専門家
受益者:長男
信託監督人:弁護士や司法書士
効果:受託者が長男のために財産(自宅、生活費)を管理し、毎月定額を生活費として長男の口座に振り込む。信託監督人が受託者の業務をチェックすることで、財産の不正利用を防ぎ、両親が亡くなった後も長男の安定した生活を守ることができる。
第4章:家族信託を始めるための5ステップと費用の目安
実際に家族信託を始めたいと考えた場合、どのような手順を踏むのでしょうか。
ここでは、具体的なステップと費用の目安を解説します。
【家族信託開始までの5ステップ】
STEP1:専門家への相談
家族信託はオーダーメイドの契約であり、高度な専門知識が求められます。
まずは、家族信託に精通した司法書士、弁護士、税理士に相談しましょう。
専門家選びのポイント:実績が豊富か、メリットだけでなくリスクも説明してくれるか、家族の想いを丁寧にヒアリングしてくれるか、を見極めることが重要です。
STEP2:信託の目的と内容の決定
「誰が」「誰に」「どの財産を」「何のために」託すのか、家族会議を開き、目的を明確にします。
将来起こりうる様々な事態を想定し、受託者の権限や財産の処分方法などを細かく決めていきます。
STEP3:信託契約書の作成
決定した内容を基に、専門家が信託契約書を作成します。
非常に重要な書類であり、文言一つで将来の効果が大きく変わるため、内容を十分に理解・確認することが不可欠です。
多くの場合、公正証書として作成し、その証明力と安全性を高めます。
STEP4:信託口口座の開設
信託された金銭を管理するため、受託者名義の「信託口口座」を金融機関で開設します。
この口座は受託者個人の財産とは明確に区別して管理されます。
STEP5:不動産の信託登記
不動産を信託財産とする場合、法務局で「所有権移転」および「信託」の登記を行います。
これにより、その不動産が信託財産であることを第三者に対しても主張できるようになります。
【費用の目安】
家族信託にかかる費用は、信託する財産の価額や契約内容の複雑さによって大きく変動しますが、一般的な目安は以下の通りです。
合計で、最低でも50万円~100万円以上の初期費用がかかると想定しておくと良いでしょう。
これは決して安い金額ではありませんが、将来の相続トラブルや資産凍結によって失われる可能性のある金額を考えれば、有効な「未来への投資」と捉えることができます。
第5章:知らなければ損をする!家族信託の落とし穴と注意点
多くのメリットがある家族信託ですが、万能ではありません。
導入を検討する際には、以下の注意点を必ず理解しておく必要があります。
注意点1:損益通算ができないケースがある
2020年度の税制改正により、信託された不動産から生じた損失は、原則として他の所得と損益通算ができないことになりました。
ただし、一定の要件を満たす場合は例外的に損益通算が認められるケースもあります。
この点は非常に専門的であり、税理士への確認が必須です。
注意点2:受託者のなり手がいない・負担が重い
財産管理という重責を担う受託者には、強い責任感と実務能力が求められます。
信頼できる家族がいない、あるいは高齢で負担をかけたくない、といった場合には、司法書士や信託会社などの専門家を受託者とすることも選択肢となります。
注意点3:家族信託ではできないこと
家族信託は財産管理の仕組みであり、「身上監護(介護施設への入所契約や病院での手術の同意など)」を行うことはできません。
これらの行為が必要な場合は、別途「任意後見契約」を併用して対策する必要があります。
注意点4:税務上の申告義務が発生する
信託財産から年間3万円以上の収益がある場合、受託者は「信託の計算書」および「信託の計算書合計表」を税務署に提出する義務があります。
税務に関する手続きが別途発生することは覚えておきましょう。
まとめ
本記事では、家族信託を活用した不動産の節税・資産承継について、その仕組みから具体的な活用法、注意点までを網羅的に解説しました。
【本記事の重要ポイント】
家族信託は、生前の資産管理と死後の資産承継を、柔軟に一体で設計できる画期的な仕組みである。
「受益者連続型信託」により、二次相続以降の承継先を指定し、円滑な資産承継を実現できる。
収益不動産の損益通算や受益権の暦年贈与により、所得税・贈与税の節税に繋げることが可能である。
認知症による資産凍結や共有名義不動産のトラブル回避にも絶大な効果を発揮する。
制度設計には高度な専門知識が不可欠であり、信頼できる専門家との連携が成功のカギとなる。
変化の激しい時代において、ただ資産を持っているだけでは、その価値を守り抜くことはできません。
インフレ、増税、そして家族構成の変化など、あらゆるリスクを想定し、先手を打って対策を講じることが求められます。
家族信託は、あなたの大切な資産を、そして何よりも大切な家族の未来を守るための、極めて有効なツールです。
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