活況を呈する日本の未上場株市場の最新動向を徹底解説するとともに、エンジェル投資家が必ず押さえるべき法的注意点とリスク管理術を網羅的にお伝えします。
エンジェル投資家の皆様にとって、未来のユニコーン企業を発掘する未上場株への投資は、大きなリターンが期待できる魅力的な選択肢です。
しかし、その裏には上場株とは比較にならないほど複雑な法的リスクと情報格差が存在します。
本記事では、活況を呈する日本の未上場株市場の最新動向を徹底解説するとともに、エンジェル投資家が必ず押さえるべき法的注意点とリスク管理術を網羅的にお伝えします。
はじめに:なぜ今、未上場株取引が熱いのか
近年、日本のスタートアップ・エコシステムは大きな変革期を迎えています。
政府が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、「スタートアップ育成5か年計画」を策定したことで、リスクマネーの供給が加速しています。
この計画では、スタートアップへの投資額を5年で10倍にするという野心的な目標が掲げられ、エンジェル税制の大幅な拡充など、個人投資家を後押しする施策が次々と打ち出されています。
国内のスタートアップ資金調達額も堅調に推移しており、2024年の調達総額は7,793億円に達し、前年比で増加傾向にあります。
2025年上半期もほぼ横ばいの水準を維持しており、投資家の選別姿勢は続きつつも、実績を示す企業には着実に資金が集まっています。
このような市場の活性化に伴い、エンジェル投資家が未上場株にアクセスする手段も多様化し、かつてないほど投資の門戸が広がっています。
しかし、その一方で、未上場株取引には特有のリスクが伴います。
本記事を通じて、最新の市場動向と具体的な投資手法を理解し、法的リスクを適切に管理することで、皆様のエンジェル投資が成功へと繋がる一助となれば幸いです。
第1章:日本における未上場株取引の最新動向
日本の未上場株市場は、新たなプレイヤーの参入と法整備によって、ダイナミックに変化しています。
エンジェル投資家が知っておくべき3つの大きなトレンドを見ていきましょう。
1. 市場規模の拡大と新たなプレイヤーの登場
国内スタートアップへの投資額は着実に増加しており、市場の厚みが増しています。
この成長を支えているのが、新たな取引プラットフォームの登場です。
株式投資型クラウドファンディング(ECF)の普及
インターネットを通じて多くの個人投資家から少額ずつ資金を集める仕組みです。 これまで一部の富裕層やベンチャーキャピタルに限られていた未上場企業への投資機会を、広く個人に開放しました。矢野経済研究所の調査によると、株式投資型クラウドファンディング市場は法整備を追い風に参入企業が増加し、今後の市場拡大が期待されています。
セカンダリーマーケットの台頭
未上場株の流通市場、すなわち「セカンダリーマーケット」の整備も進んでいます。 これまではIPOやM&Aといった「EXIT」まで資金を回収することが難しかった未上場株ですが、FUNDINNO MARKETのような個人間での売買を可能にするプラットフォームが登場したことで、流動性が向上しつつあります。 これにより、エンジェル投資家はEXITを待たずして株式を売却したり、逆に有望な企業の株式を既存株主から取得したりする新たな選択肢を得ました。
2. 政府による強力な後押し:「スタートアップ育成5か年計画」
政府は「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、エコシステムの強化に全力を挙げています。
エンジェル投資家にとって特に重要なポイントは以下の通りです。
エンジェル税制の大幅な拡充:スタートアップへの投資を行う個人投資家に対する税制優遇措置が強化されています。 令和7年度(2025年度)の税制改正では、株式譲渡益が発生した年の翌年にスタートアップ投資を行った場合でも、譲渡益から控除できる繰戻し還付制度が創設されるなど、投資家にとっての利便性が向上しています。 これにより、エンジェル投資家はより柔軟なタイミングで税制優遇を活用できるようになります。
多様な支援策:上記の税制優遇に加え、スタートアップビザの拡充による海外起業家・投資家の誘致や、オープンイノベーションの推進など、多角的な支援策が講じられています。
3. 注目される投資領域
現在、特に資金が集まっているのは、AI、ディープテック、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)といった、日本の国際競争力を高める可能性を秘めた領域です。
エンジェル投資家としては、こうしたマクロなトレンドを把握し、自身の専門性やネットワークを活かせる分野を見極めることが重要になります。
第2章:エンジェル投資家が未上場株を取得する具体的な方法
エンジェル投資家が未上場株を手に入れる方法は、主に以下の4つに大別されます。
それぞれにメリット・デメリットがあり、自身の投資スタイルやリスク許容度に応じて最適な手法を選択することが肝要です。
1. 直接交渉(相対取引)
創業者や経営陣と直接コミュニケーションを取り、株式譲渡の合意に至る、最も伝統的な方法です。
投資契約の内容を柔軟に設計できる一方、投資先の探索からデューデリジェンス、契約交渉まで、すべて自分で行う必要があります。
2. 株式投資型クラウドファンディング(ECF)
近年、市場が急拡大している手法です。FUNDINNOやイークラウドといったプラットフォームが、厳選したスタートアップの情報を提供し、投資家はオンラインで手軽に投資判断から申し込みまでを完結できます。
【代表的なECFプラットフォーム】
3. セカンダリーマーケットの活用
既存株主(創業者、他の投資家、ストックオプションを保有する従業員など)から株式を譲り受ける方法です。
IPOが近づいているレイターステージの有望企業に投資できる可能性がある一方、企業からの正式な情報開示が少ないため、より慎重な判断が求められます。
4. 投資事業有限責任組合(LPS)への出資
ベンチャーキャピタル(VC)が運営するファンドに出資者として参加する方法です。
プロのファンドマネージャーが複数のスタートアップに分散投資するため、個別の企業を選定する手間が省け、リスク分散効果も期待できます。
第3章:【最重要】未上場株取引における法的注意点とリスク管理
未上場株取引は、大きなリターンの可能性がある一方で、法的な落とし穴も少なくありません。
安易な取引は、思わぬトラブルや損失に繋がります。
ここでは、エンジェル投資家が絶対に知っておくべき法的注意点を徹底的に解説します。
1. 株式譲渡制限:最大のハードル
日本のほとんどの未上場企業は、定款によって「株式の譲渡制限」を設けています。
これは、会社にとって好ましくない第三者が株主になることを防ぐための仕組みです。
承認プロセス:譲渡制限株式を売買する場合、原則として会社の承認(取締役会設置会社では取締役会、それ以外は株主総会)が必要です。
売り手と買い手が合意
売り手が会社に対して「株式譲渡承認請求」を行う
会社が取締役会または株主総会で承認決議を行う
承認された場合、正式に株式譲渡契約を締結し、株主名簿の書き換えを行う
不承認のリスク:会社が譲渡を承認しない場合、その取引は無効となります。 会社は自らその株式を買い取るか、他の買取人を指定する義務を負いますが、当初の買い手は株主になることができません。
2. 金融商品取引法(金商法)上の規制
投資家の保護を目的とする金商法は、未上場株の取引にも適用されます。
特に「勧誘」に関する規制は重要です。
「私募」と「公募」の理解:
公募:「多数の者(50名以上)」に対して有価証券の取得勧誘を行うこと。厳格な情報開示(有価証券届出書の提出など)が義務付けられます。
私募:公募に該当しない、少人数(49名以下)を対象とした勧誘。 エンジェル投資家が関わる取引の多くは、この私募に該当します。
投資家への注意喚起:売り手は、私募によって株式を取得する投資家に対し、公募のような開示書類が提出されていないことや、転売に制限があることを明確に伝える義務があります(ただし、調達額が1億円未満の場合は免除されることがあります)。
無登録営業の禁止:他人のために未上場株の売買を「業として」仲介・斡旋する場合、原則として金融商品取引業の登録が必要です。 登録のない業者からの勧誘は詐欺的なケースも多く、絶対に避けるべきです。
3. 契約書の重要性:自分を守るための生命線
口約束での取引は論外です。
必ず専門家のレビューを受けた上で、書面による契約を締結してください。
特に重要なのが「株式譲渡契約書」と「株主間契約書」です。
これは、株式の売買そのものを定める契約です。最低限、以下の項目は必ず盛り込む必要があります。
複数の株主(特に創業者と投資家)が存在する場合に、会社運営や株式の取り扱いに関するルールを定めるために締結します。
投資家の権利を守り、将来のトラブルを防ぐために極めて重要です。
4. デューデリジェンス(DD):投資前の徹底調査
未上場企業は上場企業と異なり、情報開示が限定的です。
投資判断を下す前に、企業の価値やリスクを徹底的に調査する「デューデリジェンス」が不可欠です。
【エンジェル投資家のためのDDチェックリスト】
事業DD
ビジネスモデルは明確で、スケールする可能性があるか?
ターゲット市場は十分に大きく、成長しているか?
競合に対する優位性(技術、ネットワーク、ブランドなど)は何か?
経営チームは信頼でき、事業をやり遂げる情熱と能力があるか?
財務DD
過去の財務諸表(BS/PL/CF)は健全か?
事業計画の売上や利益の予測は現実的か?
資金繰りに問題はないか?(Burn Rateは適切か?)
資本政策(過去の増資履歴、株主構成)は適切か?
法務DD
定款、登記簿に問題はないか?
重要な契約(顧客、取引先、従業員)に不利な条項はないか?
許認可は適切に取得しているか?
知的財産権(特許、商標など)は適切に保護されているか?
潜在的な訴訟リスクはないか?
第4章:成功するエンジェル投資家のための実践的アドバイス
法的知識を身につけることはスタートラインに過ぎません。
ここでは、投資の成功確率を高めるための実践的なヒントをいくつかご紹介します。
情熱と専門性を持つ「人」に投資する
アーリーステージのスタートアップにとって、最大の資産は「経営チーム」です。事業計画以上に、創業者や経営メンバーのビジョンへの共感、困難を乗り越える力、誠実さを見極めることが重要です。ハンズオン支援を惜しまない
エンジェル投資家は単なる資金提供者ではありません。自身の経験や知識、人脈を活かして、投資先の成長を積極的に支援(ハンズオン)することで、企業価値の向上に貢献できます。この伴走こそが、VCにはないエンジェル投資の醍醐味です。ポートフォリオを構築し、リスクを分散する
スタートアップ投資はハイリスク・ハイリターンです。1社への集中投資は避け、複数の企業に分散投資することで、ポートフォリオ全体でのリターンを目指しましょう。業界やステージを分散させることも有効です。信頼できる専門家ネットワークを築く
弁護士、会計士、税理士など、スタートアップ投資に精通した専門家とのネットワークは必須です。契約書のレビューやDDなど、専門的な判断が必要な場面では、迷わず彼らの助言を求めましょう。
まとめ
日本の未上場株市場は、政府の強力な後押しを受け、エンジェル投資家にとってかつてないほどのチャンスが広がっています。
株式投資型クラウドファンディングやセカンダリーマーケットといった新たな投資手法の登場により、未来の成長企業を初期段階から応援できる環境が整いました。
しかし、その魅力的なリターンの裏には、株式譲渡制限、金商法上の規制、複雑な契約関係といった特有の法的リスクが潜んでいます。
成功するエンジェル投資家とは、これらのリスクを正しく理解し、デューデリジェンスを徹底し、万全な契約によって自らを守ることができる投資家です。
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