投資回収までの期間が長期化する中で、「もっと早く、柔軟に資金を回収する方法はないのか」「ポートフォリオを機動的に見直したい」といった課題を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
エンジェル投資家の皆様は、投資したスタートアップの成長を日々実感し、将来の大きなリターンを期待されていることでしょう。
そのエグジット戦略として、一般的に想起されるのが「IPO(新規株式公開)」と「M&A(合併・買収)」です。
しかし、IPOまでの道のりは長く、全ての企業が実現できるわけではありません。また、M&Aも相手先との巡り合わせが重要となります。
投資回収までの期間が長期化する中で、「もっと早く、柔軟に資金を回収する方法はないのか」「ポートフォリオを機動的に見直したい」といった課題を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
その新たな選択肢として、今まさに注目を集めているのが「未上場株セカンダリー市場」です。
本記事では、エンジェル投資家が知っておくべき未上場株セカンダリー市場の全貌について、その仕組みからメリット・デメリット、具体的な取引方法、そして法務・税務上の注意点まで、圧倒的な情報量で徹底的に解説します。
この記事を読めば、あなたの投資戦略はさらに多様化し、より戦略的な資産運用への道が拓けるはずです。
1. 未上場株セカンダリー市場とは?
未上場株セカンダリー市場とは、その名の通り、まだ証券取引所に上場していない企業の株式(未上場株)が、株主間で売買される市場のことです。
「セカンダリー(Secondary)」は「二次的な」という意味で、企業が新しく株式を発行して資金調達を行う「プライマリー(Primary)市場」に対し、既に発行された株式が流通する市場であることから「セカンダリー市場(流通市場)」と呼ばれます。
従来、未上場株の売買は、当事者間での相対取引が中心で、買い手を見つけるのが難しく、価格の妥当性評価も困難でした。
しかし近年、このセカンダリー市場に変化が起きています。
プライマリー市場とセカンダリー市場の違い
まずは、基本となるプライマリー市場との違いを明確に理解しておきましょう。
2. なぜ今、未上場株セカンダリー市場が注目されているのか?
セカンダリー市場が活況を呈している背景には、スタートアップエコシステムの変化が大きく関係しています。
スタートアップの大型化とイグジットまでの期間の長期化:近年、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)に代表されるように、スタートアップは上場せずに大型の資金調達を行い、長期間にわたって成長を目指す傾向が強まっています。 米国では、創業からイグジットまでの期間が平均7年から14年に延びたというデータもあります。 これに伴い、創業者や従業員、そしてエンジェル投資家のような初期の投資家が、保有する株式を早期に現金化したいというニーズが高まっています。
投資家の多様なニーズ:ベンチャーキャピタル(VC)にはファンドの満期(通常10年程度)があり、償還期限が近づくと投資回収を急ぐ必要があります。 また、エンジェル投資家やストックオプションを持つ従業員にとっても、IPOを待たずに個人のライフイベント(住宅購入、子供の教育資金など)に合わせて資金を確保したいという需要が存在します。
新たな投資機会の創出:これまで未上場株への投資は、創業期に関わる一部の投資家に限られていました。しかし、セカンダリー市場が整備されることで、レイターステージの有望企業に、後からでも投資したいと考える機関投資家や事業会社など、新たな買い手が参入しやすくなりました。
法整備とプラットフォームの登場:政府も「スタートアップ育成5か年計画」の中でセカンダリー市場の重要性に言及しており、規制緩和が進められています。 これを追い風に、日本国内でもFUNDINNO MARKETのような取引プラットフォームが登場し、市場の透明性と利便性が向上しつつあります。
3. エンジェル投資家がセカンダリー市場を活用するメリット
エンジェル投資家にとって、セカンダリー市場は単なる売却手段にとどまらない、戦略的な価値を持っています。
メリット1:早期の投資回収と流動性の確保
最大のメリットは、IPOやM&Aを待たずに投資を回収できる点です。
スタートアップ投資は、回収までに5年、10年とかかることも珍しくありません。
セカンダリー市場を利用すれば、必要なタイミングで保有株式の一部または全部を売却し、資金を手にすることができます。
これにより、再投資の機会を逃すことなく、資金効率を高めることが可能になります。
メリット2:ポートフォリオの戦略的なリバランス
複数のスタートアップに投資しているエンジェル投資家にとって、ポートフォリオの管理は極めて重要です。
特定の企業への投資比率が大きくなりすぎた場合や、事業の成長性に対する見方が変わった場合に、セカンダリー市場で株式を売却することで、リスクを分散し、ポートフォリオを最適な状態に調整(リバランス)できます。
メリット3:利益の早期確定
投資先の企業価値が順調に高まっているものの、IPOまでにはまだ時間がかかると判断した場合、一部を売却して利益を確定させるという戦略も有効です。
全ての株式を持ち続けるのではなく、段階的に利益を確定させることで、将来の市場変動リスクを低減できます。
メリット4:新たな投資家層への橋渡し
エンジェル投資家が保有する株式を、レイターステージからの投資を狙うVCや事業会社などに売却することは、そのスタートアップにとって新たな資金調達や事業連携のきっかけにもなり得ます。
初期のリスクを取ったエンジェル投資家から、企業のさらなる成長を支援する次のステージの投資家へと、円滑なバトンタッチを促す役割も担えるのです。
4. 知っておくべきデメリットとリスク
一方で、セカンダリー市場には特有のデメリットやリスクも存在します。
これらを正確に理解し、対策を講じることが成功の鍵となります。
デメリット・リスク1:情報の非対称性
上場企業とは異なり、未上場企業の財務情報や事業の進捗状況は限定的にしか開示されていません。
売り手(既存株主)と買い手との間には、情報の量や質に差がある「情報の非対称性」が存在します。
買い手は、売り手よりも情報が少ない中で、投資判断を下さなければならないリスクがあります。
デメリット・リスク2:価格算定の難しさ
市場価格が存在しないため、株価は当事者間の交渉によって決まります。
企業の成長ステージ、財務状況、類似企業の評価額など、様々な要素を考慮して価格を算定する必要がありますが、客観的で公正な価格を見出すことは容易ではありません。
不適切な価格で取引してしまうリスクがあります。
デメリット・リスク3:流動性の低さ(取引相手探し)
プラットフォームが登場したとはいえ、上場市場のように常に買い手や売り手が存在するわけではありません。
特に、ニッチな分野のスタートアップや、規模の小さい企業の株式は、希望するタイミングや価格で売買の相手を見つけるのが難しい場合があります。
デメリット・リスク4:譲渡承認手続きの必要性
日本の多くの未上場企業は、定款で株式の譲渡を制限する「譲渡制限株式」を発行しています。
これは、経営陣が望まない第三者に株式が渡るのを防ぐためです。
したがって、株式を売却する際には、原則として発行体企業の取締役会または株主総会の承認を得る必要があります。
この手続きが円滑に進まない可能性もリスクとして認識しておくべきです。
5. 未上場株セカンダリー取引の具体的な流れ
では、実際にセカンダリー市場で取引を行うには、どのような手順を踏むのでしょうか。
主に「プラットフォームを利用する場合」と「相対取引の場合」の2つの方法があります。
プラットフォームを利用する場合の一般的な流れ
プラットフォームへの登録:投資家情報を登録し、審査を受けます。
案件の探索・申し込み:プラットフォームに掲載されている売買案件(売り注文・買い注文)を探し、条件に合うものに申し込みます。
マッチング・交渉:プラットフォームを介して、売り手と買い手のマッチングが行われます。価格や条件の交渉も、プラットフォームが仲介することが多いです。
発行会社への譲渡承認請求:売り手は、発行体企業に対して「株式譲渡承認請求書」を提出し、売却の承認を求めます。
契約締結:企業の承認が得られたら、売り手と買い手との間で「株式譲渡契約書」を締結します。
代金の決済と株主名簿の書き換え:買い手は売買代金を支払い、売り手は企業に対して株主名簿の名義を買い手に書き換えるよう請求します。 これにより、取引が完了します。
相対取引(直接交渉)の場合
プラットフォームを介さず、投資家仲間や紹介などを通じて直接、売買の相手を見つける方法です。
基本的な流れは上記と同様ですが、マッチングや交渉、契約書の作成などを全て当事者間で行う必要があります。
信頼できる相手であることが大前提となり、法務や税務の専門家を交えて慎重に進めることが不可欠です。
6. 国内外の主要なセカンダリー市場プラットフォーム
セカンダリー市場の活用を検討する上で、どのようなプラットフォームが存在するのかを知っておくことは重要です。
海外ではすでに巨大な市場が形成されており、日本でも法改正を追い風に、今後さらに多様なプラットフォームが登場することが期待されます。
7. エンジェル投資家が注意すべき法的・税務的側面
取引を成功させるためには、法務と税務の知識が不可欠です。
専門家への相談を前提としつつ、基本的なポイントは押さえておきましょう。
法務上の注意点:株式譲渡承認手続き
前述の通り、ほとんどの未上場株は譲渡制限が付いています。
売却を検討する際は、まず対象企業の定款を確認し、譲渡承認のプロセスを理解することが第一歩です。
承認機関:取締役会設置会社であれば取締役会、そうでなければ株主総会が承認機関となるのが一般的です。
承認請求:誰に、どの種類の株式を、何株譲渡するのかを明記した「株式譲渡承認請求書」を会社に提出します。
みなし承認:会社は、請求から2週間以内に承認・不承認の通知をしなければならず、通知がない場合は承認したものとみなされます。
不承認の場合:会社が譲渡を承認しない場合、会社自身または会社が指定する買取人がその株式を買い取ることになります。
この手続きを疎かにすると、当事者間で契約を締結しても、法的には譲渡の効力が認められない可能性があるため、細心の注意が必要です。
税務上の注意点:譲渡益にかかる税金
個人であるエンジェル投資家が未上場株を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、その利益に対して申告分離課税として税金が課されます。
税率:所得税15%、復興特別所得税0.315%(所得税額の2.1%)、住民税5%を合わせた、合計20.315%の税率がかかります。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 - (取得費 + 譲渡費用)取得費: 株式を取得するために要した費用(出資した金額など)。
譲渡費用: 売却のために直接要した費用(プラットフォーム手数料など)。
注意点:
損益通算の制限:未上場株の譲渡で生じた損失は、原則として上場株の譲渡益と相殺(損益通算)することはできません。
時価とかけ離れた価格での取引:親族間などで、適正な時価よりも著しく低い価格で売却した場合、「みなし贈与」として贈与税の対象となる可能性があります。
確定申告が必要となるため、取引を行った際は必ず税理士や弁護士などの専門家に相談し、適切な納税手続きを行ってください。
まとめ:セカンダリー市場を制し、エンジェル投資を次のステージへ
未上場株セカンダリー市場は、IPOやM&Aという従来のイグジット戦略を補完し、エンジェル投資家の皆様に「時間」と「選択肢」という新たな価値をもたらす、可能性に満ちた市場です。
そのメリットは、早期の投資回収、ポートフォリオの最適化、機動的な利益確定など多岐にわたります。一方で、情報の非対称性や価格算定の難しさ、法務・税務上の手続きといった、乗り越えるべきハードルも存在します。
重要なのは、これらのリスクを正しく理解し、信頼できるプラットフォームや専門家の力を借りながら、戦略的に市場を活用することです。
スタートアップの成長を初期から支えるエンジェル投資家だからこそ、その果実を適切なタイミングで、最大化する方法を知っておくべきです。
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