資産形成が軌道に乗り始めた「資産1000万円」以上の層にとって、「いくら投資に回し、いくら現金を残すべきか」というキャッシュポジション(現金比率)の決定は、パフォーマンスを左右する最重要課題です。
2026年1月現在、私たちの資産を取り巻く環境は、数年前とは大きく様変わりしました。
かつて「現金こそが安全資産」と言われた時代は終わりを告げ、インフレによる貨幣価値の目減りが現実的なリスクとして生活を直撃しています。
一方で、過度なリスクテイクによる資産減少も避けなければなりません。
特に資産形成が軌道に乗り始めた「資産1000万円」以上の層にとって、「いくら投資に回し、いくら現金を残すべきか」というキャッシュポジション(現金比率)の決定は、パフォーマンスを左右する最重要課題です。
この記事では、資産規模(1000万円・3000万円・5000万円)ごとの最適な現金比率とポートフォリオ戦略について、最新の経済情勢を踏まえて徹底解説します。
第1章:2026年の「現金」が持つ意味とは?
まず、具体的な比率の話に入る前に、2026年現在における「現金」の立ち位置を再定義する必要があります。
1. インフレリスクの顕在化
2024年以降、日本国内でも物価上昇が定着しました。
銀行預金の金利は以前より上昇傾向にあるとはいえ、物価上昇率(インフレ率)に追いついていなければ、実質的な資産価値は目減りし続けています。
「現金で持っていること=リスクゼロ」という認識は、もはや過去のものです。
現金を過剰に保有することは、「資産を目減りさせるリスク」をあえて取っていることと同義です。
2. 「暴落時の買付余力」としての価値
一方で、現金には「最強のオプション」としての機能があります。
株式市場が暴落した際、現金を保有していれば安値で資産を買い増すことができます。
フルインベストメント(全力投資)は上昇相場では強いですが、下落相場では精神的な余裕を奪い、狼狽売りの原因となります。
適切な現金比率は、メンタルを安定させるための「精神安定剤」でもあるのです。
3. 新NISA枠の最大活用
2024年に始まった新NISA(少額投資非課税制度)は3年目に突入しました。
1800万円の非課税保有限度額を、いかに「最短かつ安全」に埋めていくかが、資産規模1000万円以上の層にとっての共通課題です。
現金を遊ばせておくことは、この非課税メリットを放棄することに他なりません。
第2章:まずは「生活防衛資金」を確保する
資産規模に関わらず、すべてのベースとなるのが「生活防衛資金」です。
これは、病気、失業、災害などのトラブルがあった際に、生活を守るための聖域です。
【生活防衛資金の目安】
会社員(独身): 生活費の3ヶ月~6ヶ月分
会社員(子持ち世帯): 生活費の6ヶ月~1年分
自営業・フリーランス: 生活費の1年~2年分
例えば、月の生活費が30万円の会社員家庭であれば、最低でも180万円~360万円は、流動性の高い銀行預金(普通預金や短期定期)として確保しておく必要があります。
これを除いたお金が、いわゆる「リスク資産」と「待機資金(あえて投資しない現金)」に振り分けられるべき「運用可能資産」となります。
第3章:資産規模別・最適な現金比率のシミュレーション
ここからは、生活防衛資金を確保した上での、資産規模別の最適な戦略を見ていきましょう。
※以下のシミュレーションにおける「現金」は、生活防衛資金を含んだ総資産に対する比率を指します。
■ケース1:資産1000万円(アッパーマス層への入り口)
【テーマ:資産拡大のための「攻め」のフェーズ】
資産1000万円は、資産形成の最初の大きな壁です。
ここを突破した人は、基礎的な家計管理能力と貯蓄習慣が身についています。
この段階では、「守り」よりも「資産を増やす」ことに重点を置くべきです。
推奨現金比率:20%~30%(200万円~300万円)
投資比率:70%~80%(700万円~800万円)
戦略のポイント
1000万円のうち200万円~300万円を現金として確保すれば、大抵のトラブルには対応できます。
残りの700万円以上は、インフレに勝つために株式(全世界株式や米国株式)などの期待リターンの高い資産に振り向けるのが合理的です。
20代~30代であれば、人的資本(将来稼ぐ力)が大きいため、現金比率を20%程度まで下げて、新NISAの「つみたて投資枠」と「成長投資枠」をフル活用し、複利効果を最大化させましょう。
■ケース2:資産3000万円(アッパーマス層)
【テーマ:リスク管理と成長の「バランス」フェーズ】
資産3000万円を超えると、世間的には「アッパーマス層」と呼ばれ、配当金や運用益の実感が大きくなります。
一方で、例えば株価が30%暴落した場合、900万円もの資産が一瞬で溶ける計算になり、精神的な負荷が大きくなります。
推奨現金比率:30%~40%(900万円~1200万円)
投資比率:60%~70%(1800万円~2100万円)
戦略のポイント
この段階では、「コア・サテライト戦略」を意識し始めます。
資産の半分以上は引き続き、株式インデックスで成長を狙いつつ(コア)、現金比率をやや高めに維持するか、あるいは現金の一部を「債券」などの低リスク資産に置き換えて、ポートフォリオ全体の変動幅(ボラティリティ)を抑える工夫が必要です。
また、1000万円程度の現金があれば、不動産投資の頭金や子供の教育資金の一括払いなど、ライフイベントの選択肢が広がります。
「使うための現金」と「守るための現金」を色分けして管理することが重要です。
■ケース3:資産5000万円(準富裕層)
【テーマ:資産寿命を延ばす「保全」フェーズ】
資産5000万円、「準富裕層」に到達すると、労働収入だけでなく資産収入が生活の支えになり得ます。
ここでの失敗(大きなドローダウン)は、リタイア計画を数年単位で遅らせる致命傷になりかねません。
「大きく増やす」ことよりも「減らさない」ことの重要性が増します。
推奨現金比率:40%~50%(2000万円~2500万円)
投資比率:50%~60%(2500万円~3000万円)
※ただし、現金を「債券」等の安全資産に置き換える場合は、現金比率を下げても可。
戦略のポイント
5000万円の資産があれば、年利4%の運用で年間200万円(税引前)の不労所得が生まれます。
この段階では、「カウチポテト・ポートフォリオ(現金と株式を半々にする)」のようなシンプルな分散投資が非常に有効です。
2026年の金利環境下では、現金をただ銀行に置くだけでなく、米国債や社債など、インカムゲインを生む安全資産へ一部シフトすることも検討すべきです。
現金2500万円を持っていることの「機会損失」が大きくなるため、「債券+現金」で守りの資産クラス(全体の40%~50%)を構築するのが正解に近づきます。
第4章:2026年最新版・現金管理の3つの鉄則
資産規模ごとの目安が分かったところで、実際に現金を管理する上での「鉄則」をお伝えします。
鉄則1:現金は「日本円」だけに依存しない
「現金比率」といっても、全てを日本円で持つ必要はありません。
円安リスクをヘッジするために、外貨預金や米ドルMMF(マネー・マネージメント・ファンド)を活用し、通貨分散を行うのが2026年のスタンダードです。
証券口座内の待機資金を米ドルMMFで置いておけば、比較的高い利回りを受け取りつつ、株式購入のチャンスを待つことができます。
鉄則2:個人向け国債(変動10)を「最強の現金」とみなす
日本の「個人向け国債(変動10年)」は、元本割れリスクがなく、金利上昇時には受取利子も増えるため、インフレ時代に非常に強い金融商品です。
中途換金も容易(発行から1年経過後)であるため、これを「利子のつく現金」とみなし、生活防衛資金の一部や、無リスク資産の置き場として積極的に活用しましょう。
鉄則3:リバランスを自動化、またはルール化する
もっとも重要なのが「リバランス(資産配分の調整)」です。
株価が上昇して、資産5000万円のうち株式比率が70%(3500万円)まで膨らんだとします。
この時、増えた分の株式を売却し、現金(または債券)に戻して、元の比率(例えば株式60%:現金40%)に戻す作業が必要です。
株高の時: 利益確定をして現金を増やす
株安の時: 豊富な現金で安くなった株を買う
このシンプルなルールを徹底することで、感情に左右されず、「安く買って高く売る」を実践できます。
年に1回、あるいは資産比率が5%以上乖離したタイミングで必ず実施してください。
第5章:年代別・リスク許容度の微調整
資産規模だけでなく、年齢によっても最適な現金比率は異なります。
一般的な「100-年齢=株式比率(%)」という法則は古いと言われますが、一つの目安にはなります。
■20代・30代(資産形成期)
スタンス: 労働による収入回復力が高い。
現金比率調整: 提示した目安より「-5%~10%」現金を減らしてもOK。
理由: 暴落しても、長期積立を続けることで回復できる時間が十分にあるため。
■40代・50代(資産成熟期)
スタンス: 教育費や住宅ローンなどの出費がかさむ時期。
現金比率調整: 提示した目安通り、またはライフプランに合わせて現金を厚めに。
理由: 直近5年以内に使う予定のあるお金(大学入学金など)は、絶対に投資に回してはいけません。これを「別枠」で確保した上で、ポートフォリオを組みます。
■60代以降(資産取り崩し期)
スタンス: 資産を守りながら使うフェーズ。
現金比率調整: 提示した目安より「+10%~20%」現金を増やす。
理由: 「シーケンス・オブ・リターン・リスク(運用の序盤で暴落に見舞われると、資産寿命が極端に短くなるリスク)」を避けるため、3年~5年分の生活費は現金で確保すべきです。
まとめ:あなたの「安眠できる比率」が正解
「現金比率の正解」に、万人に共通する唯一の答えはありません。
しかし、資産規模が大きくなるにつれて、守りの姿勢(高い現金・安全資産比率)の重要性が増すという原則は変わりません。
【本記事の要点まとめ】
1000万円層: 攻めの時期。現金は20~30%に抑え、新NISAで株式への投資効率を最大化する。
3000万円層: バランスの時期。現金30~40%を目安に、暴落時のメンタル維持と買い増し余力を確保する。
5000万円層: 保全の時期。現金(+債券)を40~50%持ち、資産を減らさない運用へシフトする。
共通ルール: 日本円だけに固執せず、個人向け国債や外貨も活用し、定期的なリバランスを行う。
2026年現在、マーケットは常に変動しています。最も大切なのは、「夜、安心して眠れるかどうか」です。
もし、日々の株価変動が気になって仕方がないのであれば、それはリスクを取りすぎています。
その場合は、資産規模のセオリーに関わらず、現金比率を高めてください。
最適なキャッシュポジションを維持し、長期的な視点で資産形成を続けていきましょう。
それが、不確実な未来に対する最大の防御策となります。