Published 09 Oct 2022

【大石純平】富裕層の資産運用のプロとしてスタートアップに投資するエンジェル投資家

【大石純平】富裕層の資産運用のプロとしてスタートアップに投資するエンジェル投資家

はじめに

現代、世の中のあらゆる課題に対して問題意識を抱き、より良い未来のために勇気と覚悟を持って挑戦する者たちがいる。いわゆる「スタートアップ」だ。

そして、スタートアップの裏側には、その誕生と成長を支える個人がいる。いわゆる「エンジェル投資家」だ。彼ら彼女らは、自らの経験と資金をもってして、創業間もない、場合によっては創業前のスタートアップをサポートする「現代版のパトロン」だ。日本のエンジェル投資家は、著名人としてはサッカー選手の本田圭佑などがいるが、まだまだ全体としては謎に包まれている。

そこで、本企画では、日本の知られざるエンジェル投資家を取材し、彼らのバックグラウンドを解き明かしていきたい。今回のゲストは、大石純平。

日本の資産家に対して「ファミリーオフィスサービス」を提供する投資家だ。大石は、富裕層ファミリーの資産を中期的かつ総合的に見守る資産管理に従事している。彼自身が富裕層ファミリーにおけるCFOのようなポジションでバックアップし、資産運用を支援するのだ。元阪神タイガースの岩田稔に対してもプロスポーツ選手のセカンドキャリアを現在支援をしている。大石は、地方の優良なスタートアップの発掘から投資まで、コミュニティを形成しながらサポートするエンジェル投資家でもある。そんな大石にオンラインでインタビューを実施した。

大石の過去

大石は、兵庫県高砂市で育つ。幼少期より、父親から「人間として真面目に生きなさい」と礼儀作法に厳しく育てられた。その甲斐あってか、小学校時代から文武両道を掲げ、学問と部活動に精を出すようになる。小学5年生になると、生徒会副会長に就任し、皆の先頭に立ち志を掲げる生徒会長の「伴走者」として、彼の思いを全学年に伝えながら巻き込む経験を積んだ。この経験が、大石の人生形成の全ての始まりであった。

中学校に進級してもなお、変わらず文武両道を貫いた。成績優秀、部活動においてもソフトテニス部キャプテンと、模範生徒として学校生活を送る大石。大石は中学卒業後も、当然のように県内トップレベルの加古川東高校に進学し、今までに増して勉学部活ともに全力を注ぎ込む。

県内トップレベルの名に相応しい、勉強という分野に秀でた同級生のいる環境で学生生活を送る中で、大石は、得意分野であった「勉強」では周りに勝てないことを肌で実感し、上には上がいることを学んだ。これが、大石の人生で初めての挫折となる。今後の方向性を深く考える機会となったのだ。当時を振り返り、大石はこう語る。

「今までの人生を振り返り、自分自身の強みについて考えました。小学校時代を思い出して、リーダーの『伴走者』として、チームを牽引し、結果を出すことが得意であると分かり、この強みを生かし、部活で結果を出すと決めました」

人生を省みて導いた自身の強み。大石は、それを生かした結果、高校の部活動では個人ダブルスとして県大会でベスト8と上位の成績を収め、近畿大会にも出場し、高校生活に幕を閉じた。

大石は、大学時代も体育会ソフトテニス部に所属して全力を注ぎながらも、その傍ら、学習塾のアルバイトを始めることになった。大石は、塾でも、生徒の目標達成のための伴走者として、勉強を教えることにやりがいを見出した。教員免許を取得し、教員の道へ進もうとした大石だったが、「教員になるのは社会人として経験を積んでからでも良いのではないか」と考え、一般企業への就職活動を行うに至った。

就職活動で自分が入社したい会社を選定する中で、大石は大学時代の部活動を思い出した。部活動において、実績と指導力のある監督、優秀な先輩、勝つための厳しい練習など、成長するための環境が揃っているからこそ、強いチームが生まれる。それを踏まえ、個人が圧倒的な成長するためには、「日本一の環境」が整った会社に入社する必要があると大石は考え、あらゆる業界で1番と呼ばれる会社にエントリーする。その結果、大石は多数の企業から内定を勝ち取り、キーエンスと野村證券のどちらに入社するか悩んだが、「参入障壁が高く、専門性の高い職種」という観点から野村證券への入社を決めたのだ。

大石は、野村證券に入社後、新卒ながら、富裕層個人や企業に対して新規営業をし顧客開拓の仕事を与えられる。同時並行で金融の資格取得を行うなど、志高く業務に取り込んだ。若手で受注までのハードルが非常に高い中、確実に結果を出す大石。証券マン時代を振り返り、大石はこう語った。

「野村證券には優秀な同期や先輩がたくさん働いています。その中で、結果を出すために、誰よりも勉強し、誰よりも行動する必要があります。自分は大学時代、金融について学んだ経験がなく、知識も経験も足りない。お客様から信用を勝ち取るためには、誰にも負けない圧倒的な知識量と行動量が必要です。それだけでなく、自身の得意領域を作ることが大切。結果を出すために、がむしゃらに働きました」

大石が資産をお預かりするということは「伴走者」としてお客様の信用を「知識と行動」で勝ち取った瞬間だった。その後、大石は、野村證券の第一線において7年間お客様のために奔走した末、次のキャリアプランについて考えた際、伴走者としてさらに深くお客様と向き合いたいという思いが強く湧き上がった。「外資系証券にて地域密着型でお客様とより強く結びつき、結果を出したい」と考えた大石は、転職を決意した。

大石は、自身のキャリアプランや理念に合致する、三菱UFJメリルリンチPB証券株式会社に入社する。大石はそこでも結果を出した。金融資産1億円以上の富裕層に対し、プライベートバンカーとして100世帯、150億円の資産管理に従事した。顧客の目標設定から結果を出すためのアプローチを考え抜いた。7年間、顧客の伴走者として働き続けたが、ある時、三菱UFJモルガン・スタンレーPB証券が合併することになり、思いがけず、会社を辞める選択肢が生まれた。大石は、その時の心境をこう語る。

「顧客の目標設定と目標達成のための仕組み作りを行い、実際に結果を出しました。一方で、仕組み自体は、会社でなくても作れるのではないかという考えが浮かびました。お客様と本当の意味で向き合うためには、会社で作られた商品を売るのではなく、自分でお客様との信頼を勝ち得ることが重要で、お客様ともっと向き合っていくために独立しようと決意しました」

大石の起業

2020年8月、大石はファミリーオフィス ・ジャパン株式会社を設立した。完全紹介制のファミリービジネスのトータルサポート事業を開始したのだ。富裕層ファミリーに対して、資本政策やM&A、事業継承、相続、財産保全、資産管理など、CFO的な立場で支援していく。独立しても変わらず、目標設定と結果を出すための仕組み作りを継続した大石は、想像以上のペースで資産を管理している。

また、上場企業のオーナーが行っていたエンジェル投資にも興味を持って勉強を始め、自身もエンジェル投資家として活動していくことを決意する。ちょうどその時に、エンジェル投資家として活動したいと考える人物と出会った大石は、彼らとともに「NAC」という名古屋のエンジェル投資家とスタートアップのコミュニティを立ち上げる。2ヶ月に1度の頻度で、スタートアップのためのクローズドなピッチイベントを開催し始めた。大石は、実際にイベントを通して出会った起業家に投資している。起業当初を振り返り、大石はこう語る。

「最初から上手くコミュニティが立ち上がったわけではありませんが、徐々にアメーバのようにコミュニティの輪が広がっていきました。現在では、投資家が20から30名ぐらい参加するイベントまで成長していて、社会的に必要とされているからこそ徐々にコミュニティが拡大するのを感じています。大阪や岐阜、豊橋と様々なスタートアップからは学ぶことが多く、毎回のイベントが楽しみで仕方がありません」

大石がエンジェル投資家として投資する上で最も重要視するのは、「ワクワク」するかどうかである。起業家の夢、そこに自分も同じ船に乗りたいかどうか。これが投資の決め手だという。最近ではYouTubeで人気を集める投資番組「令和の虎」にも出演するなど、大石はエンジェル投資家としての地位を着実に高めている。富裕層ファミリーに対してだけでなく、起業家の伴走者としても活動する大石。彼はこれからも夢追い人と伴走していく。