株式会社OZ1(以下、OZ1)は、日本のデジタルインフラを革新し、自治体や企業のデータ連携を円滑にするためのソリューションを提供する企業だ。独自のデータ連携基盤「JP-Link」を活用し、スマートシティの推進や行政・民間のデジタル化を支援している。今回のインタビューでは、OZ1の代表取締役である江川将偉氏に、同社の事業内容や目指す未来について伺った。インタビュアーはエンジェル投資家の福田和博氏が務める。
データ連携基盤「JP-Link」とは?
福田: まずは事業概要についてお聞かせいただけますか?
江川: OZ1では、日本のデジタルプラットフォームを提供することを目的とし、データ連携基盤をベースにさまざまなサービスを展開できるデジタルインフラの構築を進めています。我々が手掛けている「JP-Link」は、世界160カ国で採用されているX-Roadを日本向けに最適化したものです。
X-RoadはデータベースをN対Nで接続する仕組みですが、日本のITリテラシーに合わせ、誰でも使える形にしたのがJP-Linkです。これにより、自治体や企業が簡単にデータを連携し、住民向けのサービスや企業間データ活用を促進できるようになります。
スマートシティとデータ連携の役割
福田: スマートシティの文脈でJP-Linkを活用することで、どのような社会的なベネフィットが生まれるのでしょうか?
江川: 自治体単独で住民サービスを提供するのは難しく、多くのケースで民間企業との連携が必要になります。しかし、自治体と企業がデータを連携する仕組みがないため、各事業が独立してしまい、統合的な住民サービスが提供できていません。
SaaSのサービスは基本的にクラウド上で提供されるため、特定の自治体向けにカスタマイズして作ることは現実的ではありません。そのため、複数の自治体が共通で使える形にする必要があります。ただ、自治体ごとに一つ一つAPIを作って連携するとなると、かなり手間がかかり、管理も煩雑になってしまいます。そこで、N対Nでつなぐ仕組みを整えることで、よりスムーズにデータをやり取りできる環境を作ろうと考えています。これによって、自治体間のデータ連携がしやすくなり、住民サービスの向上や行政の効率化につながっていくのではないかと考えています。
データ連携が生み出すヘルスケアと交通の未来
福田:データはつながってこそ価値が生まれますよね。スマートシティの文脈で、具体的にどういった分野に応用されているのでしょうか?
江川:大きく2つあります。まず、ヘルスケアの分野ですね。少子高齢化が進む中で、健康寿命をどう延ばすかが課題になっています。でも、1社だけでヘルスケアサービスを完結させるのは難しい。例えば、ウェアラブルデバイスの企業と医療機関や自治体がデータを共有できれば、より正確な健康管理が可能になります。ただ、それぞれがバラバラにデータを持っていると、統合的なケアができません。そこで、データを連携することで、より効果的なサービスが提供できるようになります。
もう一つは交通事業です。運転手不足でバスの廃路が進んでいる中、複数の交通事業者が連携して、データを活用することが求められています。例えば、デマンド型のオーダーバスを導入するときに、事業者間で予約データや到着時間、位置情報を共有できれば、より効率的な運行が可能になります。利用者にとっても、シームレスな移動ができるので利便性が向上しますね。
福田:なるほど。今後、人口減少や社会保障費の増大といった課題がある中で、データを活用して効率化を図ることが、自治体や企業の大きなテーマになりそうですね。
御社の主な顧客は自治体が多いのでしょうか? 企業向けの展開も考えていますか?
江川: そうですね。日本のデジタル化が最も遅れているのは自治体と言われており、国も予算を投じて改善を進めています。そのため、まずは自治体向けにデジタルインフラを整え、データ連携の仕組みを構築することを優先しています。
その後、企業にも広げていく想定です。例えば、大手企業は子会社や関連企業を多数抱えていますが、それぞれの顧客データが分断されていて、連携できていないケースが多いので、企業のグループ内やパートナー企業間でもデータをつなげる必要性を理解してもらえると思っています。まずは自治体から展開していきますが、今後、企業向けの展開も積極的に進めていく予定です。
OZ1の強みと競争優位性
福田: スマートシティ分野には多くの企業が参入していますが、その中でOZ1の競争優位性はどこにあるのでしょうか?
江川: 最大の強みは、簡単に導入・展開できる点です。デジタル基盤は、ローコード・ノーコードを活用し、自治体のITリテラシーに依存しない設計になっています。例えば、ある自治体で導入したサービスを、そのままコピー&ペーストで他の自治体にも展開可能です。
一般的なスマートシティ事業では、自治体ごとにゼロからシステムを構築する必要がありますが、JP-Linkならば横展開が容易で、全国に素早く普及させることができます。
豊能町の成功事例と全国展開の可能性
福田: 大阪府豊能町の事例についてもお聞かせください。このプロジェクトがどのように進められたのか、また他地域への展開の可能性について教えていただけますか?
江川:豊能町の取り組みには、少し特別な経緯があります。私自身が大阪出身ということもあり、大阪府のスマートシティ戦略のスーパーアドバイザーを務めていた際、大手企業から「10万人以上の地域でないとビジネスにならない」という声を多く聞きました。しかし、人口10万人未満の自治体こそ財政的に厳しく、デジタル化が必要だと考え、アドバイザー事業として豊能町でのスマートシティ化を進めることにしました。
豊能町は人口減少が深刻な地域の一つです。この取り組みが評価され、福井県や茨城県笠間市など、同じ課題を抱える自治体から「豊能町の取り組みをそのまま導入したい」との相談を受け、他の地域にも展開する流れが生まれました。こうした「コピー&ペースト」できるスマートシティモデルを確立し、より多くの自治体に広げていくことを目指しています。
創業の背景と課題への挑戦
福田: ありがとうございます。なぜこの分野で起業し、事業を展開するに至ったのか、またその中で苦労された点があれば教えてください。
江川:もともと私はベンチャー企業を経営しており、自動運転やスマートホームの開発に取り組んでいました。IoT機器をつなぎ、AIを活用して最適化することを目指していたのですが、企業間でデータを共有することの難しさに直面しました。当時、多くの企業は「〇〇リンク」という形で独自の囲い込みを進めており、スマートホームを統合的に管理することが難しかったんです。データをつなぐことができなければ、本当の意味でのデジタル化は実現しないと痛感しました。
その後、G7のイノベーター会合で日本代表を務めた際に、とあるきっかけでエストニアのデータ連携基盤に興味を持つようになりました。エストニアはデータ連携が進んでおり、その仕組みを日本にも導入できないかと考え、自治体を中心にスマートシティ構想を進めることを決意しました。
2020年、大阪府が「大阪スマートシーパートナーズフォーラム」を立ち上げる際に相談を受け、関わらせていただたところ、自治体職員の多くが「スマートシティとは何か?」という状態であることを知りました。そこで、まずは分かりやすく説明し、自治体職員が「できる」と実感できる仕組みを作ることが重要だと感じました。
福田:実際に自治体と連携していく中で、どのような苦労がありましたか?
江川:自治体の職員の多くはITに詳しくなく、特に市町村レベルになるとデジタル化の知識がほとんどない状態でした。そのため、「ITが分からなくても使える」という実感を持ってもらうことが最初のハードルでした。つきっきりでサポートしながら、まずは一つの自治体で成功事例を作り、それを見た他の自治体が「自分たちもできるのでは?」と思えるような仕組みを作ることを意識しました。私はこれを「青い芝作戦」と呼んでいます。笑
資金調達と今後の事業展開
福田: 現在、資金調達を進めているとのことですが、その資金の使い道や今後の事業展開について教えてください。
江川: まずは、日本全国どこでも活用できるデジタル基盤を作ることが大きな目標です。現在、日本には1,741の自治体がありますが、現時点のOZ1では、それぞれの自治体に個別対応することは難しいのが現実です。そのため、資金調達を通じて、47都道府県の自治体が活用できるデジタル住民サービスを構築し、それを全国に展開していきたいと考えています。
まずは、都道府県単位での導入を進め、その後、市町村レベルへと広げていく形を取ります。この展開をスムーズに進めるために、現在、NTTグループや電通グループなどのパートナー企業と連携し、現場レベルでの対応を強化していく予定です。各自治体がスムーズにデジタル化を進められるよう、しっかりとした支援体制を整えていくことが、今後の事業展開の大きなポイントになると考えています。
また、日本はデータの利活用が進んでいないため、これを推進し、ユニコーン企業の創出につなげたいと考えています。例えば、エストニアは人口130万人ながら9社のユニコーンを生み出していますが、日本は1億3,000万人の人口を抱えながら同等の数しかありません。データ利活用を促進し、日本から世界で戦える企業を輩出することも、OZ1の目標の一つです。
福田:今回の資金調達について、すでにこれまでにも資金調達の実績があるかと思いますが、どのような経緯で進められてきたのでしょうか?
江川:これまでにシードラウンドでの資金調達を行っています。具体的には、三井住友海上キャピタル株式会社、株式会社サムライインキュベート、株式会社ゼンリンフューチャーパートナーズといったCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)にも出資いただき、一緒に事業を進めてきました。
今回の資金調達では、Aラウンドを目指しています。事業会社からか、VC(ベンチャーキャピタル)を中心に進めるのかはまだ議論の余地がありますが、私たちと同じように「日本のデジタルを変えていかなければならない」と強く思っておられる投資家の方にご協力いただきたいと強く願っています。
投資家や事業パートナーへのメッセージ
福田: 最後に、投資家や事業パートナーに向けて伝えたいメッセージがあればお願いします。
江川: 投資家様に加え、日本のデジタルを本気で変えようと考えている方々ともコラボレーションしていきたいと思っています。デジタル技術を活用し、日本の未来をより良くしたいと考えている方、共に変革に挑戦したい方と、ぜひ一緒に取り組んでいきたいと考えています。
福田: 本日は貴重なお話をありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。
インタビューを終えて
今回のインタビューを通じて、江川社長が目指す「日本のデジタルインフラを変革する」という強い意志を感じました。自治体や企業が持つデータをシームレスに連携させ、より効率的で持続可能な社会を実現しようとするOZ1の取り組みは、日本のデジタル化を大きく前進させる可能性を秘めています。これからの事業展開が非常に楽しみです。
【担当ライター】中西祐樹
株式会社OZ1事業概要
会社名:株式会社OZ1
設立:2019年5月
代表取締役社長:江川 将偉
本社:東京都渋谷区道玄坂1-12-1 渋谷マークシティW22階
事業内容:ソフトウェア開発及び販売
江川 将偉氏 プロフィール
株式会社OZ1 代表取締役社長
2017年G7(I7)にて日本代表イノベーターとしてDigital Transformation Teamに参加、SELTECH代表取締役を行い デジタル市場においてセキュリティ、データ連携、AIなど多岐に渡り市場を牽引し、2019年5月にOZ1を設立し代表取締役に就任
大阪府スマートシティ戦略 元スーパーアドバイザー、エストニア日本商工会議所 元理事、デジタル法人研究会 幹事、 重要生活機器連携セキュリティ協議会(CCDS) 元ストラテジックアドバイザーなど兼任一般社団法人コンパクトスマートシティプラットフォーム協議会 代表理事、関西国際大学 元非常勤講師
東京大学大学院工学系研究科(東大まちづくり大学院)特別講師
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
HP
TOMORUBA
https://tomoruba.eiicon.net/u/35366
まち・つくる通信
https://www.urban-ii.or.jp/kou2/_pdf/UII_letter_49.pdf
NIKKEI COMPASS
https://www.nikkei.com/compass/company/tZPFHQCDUA7RkFJXTAs4HE
【PROTOCOLプロフィールページ】
https://protocol.ooo/users/74833c25-4fcc-4b54-9e84-1d2566d25005
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
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