Published 30 Aug 2021

資金調達手段とその種類

資金調達手段とその種類

前記事のとおり、スタートアップの資金調達は「エクイティーファイナンス」と「デットファイナンス」の2つに分かれ ます。この記事ではそれぞれの種類の資金調達における具体的な方法について解説していきます。

デットファイナンス

貸借対照表の負債を増加させて資金調達を行うデットファイナンスは大まかに分けると「融資」と「社債」の二つに分かれます。



①融資

融資は主に金融機関から資金を借り入れ、金利を付けて返済する資金調達手段です。どの金融機関から借り入れるかによって金利や担保・保証の有無、審査のハードルは異なりますが、ここではスタートアップでも融資を受けられる可能性のあるいくつかの事例を紹介します。


②日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、日本政府が100%出資する金融機関であり、いくつかの融資制度がスタートアップを対象の一部としています。新創業融資制度は新たに事業を始める企業、もしくは事業開始後税務申告を2期終えていない企業が対象となり、最大3000万円まで融資を受けることができます。最大3000万円とはいえ、スタートアップが受けられる金額は最大1500万円程度だと考えたほうが現実的です。基準利率は2.41~2.80です。


③信用保証協会保証付融資

信用保証協会保証付融資は、信用保証協会を保証人として金融機関から融資を受けるという方法です。通常は企業への信用がないため、スタートアップは銀行などの金融機関からの融資を受けらませんが、信用保証協会から保証を得ることで、金融機関からの融資の審査が通りやすくなります。信用保証協会が保証する内容としては、返済が不可能になった場合に返済額の80%を肩代わりしてくれるというものになっており、その対価として保証料を支払うこととなります。保証料は企業の経営状況や保証の制度によりますが、0.45%~2.2%となります。融資限度額は創業融資であれば3500万円となります。日本政策金融公庫の新創業融資制度を利用して融資を受ける具体的な方法はこちらをご覧ください。

https://www.cgc-tokyo.or.jp/business/firstguide.html

https://www.cgc-tokyo.or.jp/business/guarantee_fee/system.html

日本政策金融公庫の新創業融資制度を利用して融資を受ける具体的な方法はこちらをご覧ください。

他にも日本政策金融公庫には融資制度がありますので、こちらの日本政策金融公庫のウェブサイトから融資制度一覧をご覧ください。

こちら部分→https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/index.html


④社債

社債とは、借入の一種であり融資と似ていますが、融資との違いは、融資は一般的に債権者が1人の契約であるのに対して社債は債権者が複数存在することが想定されている点です。社債にも様々な種類ありますが、スタートアップによる利用が現実的なものは以下に説明するコンバーチブルボンド(転換社債型新株予約権付き社債)です。


⑤コンバーチブルボンド

コンバーチブルボンドは前述のコンバーチブルエクイティのように一定の条件を満たせば発行体(発行企業)の株式に転換できる権利が付いた社債です。あらかじめ決められた株価で一定期間内に株式に転換する権利のついた債券です。

基本的にスタートアップ企業には信用がなく、資金を貸し付ける投資家にとっては貸し倒れのリスクが非常に高いということになります。そこで、一定の条件のもとで株式に転換できる権利を付けることにより、投資家は返済または株式への転換による資金の回収ができ、信用のなさによる貸し倒れリスクをカバーできることになります。

一般的なスタートアップのコンバーチブルボンドによる資金調達における転換条件は「XX年以内に時価総額XX円以上の評価で、XX円以上の資金を調達した場合、XX円(資金調達時の株価のXX%など)で株式に転換することができる」というようなものになります。


メリット

スタートアップによって、コンバーチブルボンドによって資金調達を行うことの最も特徴的な点は「バリュエーションを先送りにできる」という点になります。

前述の通り、コンバーチブルボンドの転換条件に「時価総額XX円以上の評価で、XX円以上の資金を調達した場合、XX円で株式に転換」という条項があることから、いくら以上の資金調達で、いくらの株価で転換するかということさえ決めておけば、コンバーチブルボンドの発行時にはバリュエーションを算定する必要がありません。次の資金調達ラウンドでの株価に応じて、その株価から決められた%を割り引いた価格が自動的に決まるということになります。

スタートアップのバリュエーションを決定することは簡単なものではなく、特にプロダクトがなかったり、プロダクトはあっても定量的な価値検証のための数値がなかったりするアーリーステージ以前のスタートアップでは困難を極めます。そのため、困難なプロセスを先送りにすることによるメリットには以下のようなものがあります。

  1. シードラウンドやシリーズAラウンドでのオーバーバリュエーションを防ぐことができる
  2. バリュエーションに関する交渉が少ないため、契約の締結・実行までをスピーディに行いやすい

1. シードラウンドやシリーズAラウンドでのオーバーバリュエーションを防ぐことができる

シードラウンドやシリーズAラウンドで、妥当なバリュエーションを算定できず、オーバーバリュエーションとなってしまうと、その後の資金調達時に実績がバリュエーションに伴わず、資金調達が困難となる可能性があります。最悪のケースでは、次の資金調達のラウンドでの株価が、前ラウンドの株価を下回るダウンラウンドとなってしまうこともあります。

2. バリュエーションに関する交渉が少ないため、契約の締結・実行までをスピーディに行いやすい

非常に困難なプロセスであるスタートアップのバリュエーション算定をせずに済むということはバリュエーション算定にかかるはずの時間を短縮できることを意味します。スピーディに資金調達を行うことができることは、事業の推進にスピードが求められるスタートアップにとっては非常に大きなメリットとなります。


デメリット

「バリュエーションを先送りにできる」という特徴により、以上のようなメリットを持つコンバーチブルボンドですが、当然デメリットも存在します。

  1. 返済義務がある
  2. 利息がかかる

1. 返済義務がある

株式に転換できるという権利が付いているとはいえ、コンバーチブルボンドはあくまで借金であり、返済義務のある貸借対照表上における「負債」です。

そのため、満期までに転換条件を満たす株式による資金調達ができなければ、当然返済しなければなりません。

通常の社債と比較すると株式への転換によって返済できるという点は魅力的ですが、株式による調達と比べて、返済義務があるためそのリスクを踏まえたうえでコンバーチブルボンドを選ぶ必要があります。

また、貸借対照表上の負債ということは債務超過(負債が資産の総額を超える財務的に状態不健全な状態)になる可能性もあり、最悪の場合破産してしまう可能性もあります。

2. 利息がかかる

上述の通り、返済義務のある負債のため返済に伴って利息を払う必要がありますので株式で資金調達する場合と比較すると注意しておくべき点となっています。

実際には株式への転換条件が付いているため、一般的には転換条件のない通常の社債と比較すると、利率は低く設定されているケースは多くなっています。


エクイティーファイナンス

貸借対照表の純資産を増加させて資金調達を行うエクイティファイナンスには「何と引き換えに資金調達を行うか」によっていくつかの種類に分かれます。大まかに分けると「株式」と「新株予約権」の2つに分かれ、株式は普通株式・種類株式の2種類に分かれます。



①普通株式

普通株式とは株主が持つ権利に制限や条件がない、標準的な株式です。


②種類株式

種類株式とは、会社法108条に基づき、剰余金の配当その他の事項について特別な権利や内容を持つ株式のことをいいます。

種類株式を発行するには、内容や発行可能種類株式総数などの事項を定款で定める必要があります。

ちなみに、種類株式とは2種類以上の株式を発行している場合のみに当てはまります。

具体的な種類株式の内容は以下の通りです。

    1. 剰余金配当規定付株式:剰余金の配当についての優先または劣後規定がついた株式

    2. 残余財産分配規定付株式:残余財産の分配についての優先または劣後規定がついた株式

    3. 議決権制限株式:株主総会における議決権の行使に関して制限規定がついた株式

    4. 譲渡制限株式:株式の譲渡について会社の承認が必要な規定がついた株式

    5. 取得請求権付株式:株主が発行体(発行会社)に当該株式の取得(転換)を請求できる規定のついた株式

    6. 取得条項付株式:一定の条件が満たされたときに発行体(発行会社)が株主から強制的に株式を取得(転換)できる規定のついた株式

    7. 全部取得条項付株式:発行体(発行会社)が株主総会の決議でその株式のすべてを強制取得できる規定のついた株式

    8. 拒否権付株式:株主総会での決議事項について、株主総会での決議に加えて拒否権付株式を持つ株主によって構成される種類株主総会の決議を必要とする規定のついた株式

    9. 役員選任権付株式:一定数の役員(取締役または監査役)を選任する権利のついた株式


③優先株式

上記の1. 剰余金配当規定付株式と2. 残余財産分配規定付株式の規定について優先規定のついた株式のことを優先株式といいます。基本的に、国内のスタートアップの資金調達における優先株式は2を基本に、複数の条項を組み合わせて設計します。譲渡制限については、日本のスタートアップはほぼすべて譲渡制限がついているため、譲渡制限のついていない株式を発行しない場合は、前述の通り、2種類以上の株式を発行していないことになるため、種類株式とする必要はありません。


④コンバーチブルエクイティー

コンバーチブルエクイティとは「一定の条件を満たしたときに特定の価額で株式に転換することができる権利のついた新株予約権」です。

コンバーチブルエクイティは、「一定の条件を満たした時に株式に転換することができる権利のついた社債」であるコンバーチブルボンドの仕組みを前提としています。そのため、コンバーチブルエクイティを理解する上では、こちらのコンバーチブルボンドについての解説を先にお読みください。

コンバーチブルエクイティは、上記の記事でコンバーチブルボンドのデメリットとして挙げられた負債の性質である「満期」と「利息」の概念を取り除いたものになっています。コンバーチブルボンドが社債である一方、コンバーチブルエクイティは新株予約権のため、貸借対照表(BS)上、負債ではなく純資産として扱われます。そのため、コンバーチブルボンドのデメリットの一つである、債務超過に陥りやすくなるという点も解消されています。

上述の通り、コンバーチブルエクイティは「一定の条件を満たしたときに特定の価額で株式に転換することができる権利のついた新株予約権」のため、これを設計するためには「一定の条件」と「特定の価額」を決定する必要があります。

「一定の条件」は、基本的にコンバーチブルボンドと同様「資金調達が行われる」ことになり、この資金調達のことを適格資金調達といいます。

「特定の価額」を決定するには主に以下の2つの条件があります。

  • ディスカウント
  • バリュエーションキャップ

一つずつ、説明していきます。

ディスカウント

ディスカウントとは、コンバーチブルエクイティの転換のトリガーとなる資金調達時の株価から一定の割合を割り引くことを指します。一般的に割引率は10%〜20%とされています。

例えば、投資家Aがある企業にシードラウンドで割引率20%のコンバーチブルエクイティによって1000万円投資したのち、その企業がシリーズAラウンドを実施し、投資家Bが1株あたり1万円で1000万円投資し、1000株取得したとします。このシリーズAラウンドでの資金調達を適格資金調達とします。

この時、投資家Aは以下の通り、

10,000 * (100 - 20)% = 8,000 (円)

また、

10,000,000 / 8,000 = 1250 (株)

により1株当たり8000円で1250株を取得することになります。

次のラウンドで決定される株価から決められたディスカウント率を割り引いた数が投資家Aが取得する株価で、その株価で投資額を除した数が新株予約権の行使後に取得する株式数になります。

バリュエーションキャップ

前提:バリュエーションキャップとディスカウントは併用されることはあっても、一般的に転換価額の低い方を採用するため、同時に効果を発揮するものではありません。

バリュエーションキャップとは、適格資金調達の際のバリュエーションの上限値をあらかじめ決定すること、そしてその上限値のことを指します。

適格資金調達の際のバリュエーションが高ければ高いほど、コンバーチブルエクイティで投資を行った投資家が取得する株数は少なくなります。コンバーチブルエクイティで投資を行った投資家は、適格資金調達時に投資する他の投資家よりリスクをとって早い段階から投資を行っているためバリュエーションキャップを設けることで、多くの株式を取得できるように設計することを目的としています。

例えば、投資家Aがある企業にシードラウンドでバリュエーションキャップ8000万円で1000万円投資したとします。その後、その企業がシリーズAラウンドを実施し、投資家Bが1株あたり1万円で1000万円投資し、1000株取得したとします。この時の発行株式総数を1万株とし、このシリーズAラウンドでの資金調達を適格資金調達とします。

この時のバリュエーションは1万円 * 1万株 = 1億円 です。

これは、バリュエーションキャップの8000万円より大きいため、バリュエーションキャップに基づき、転換価額は

80,000,000 / 10,000 (発行株式総数) = 8000 (円)

となり、1株あたり8000円を転換価額とすることになります。

つまり、

10,000,000 / 8000 = 1,250 (株)

よって投資家Aは転換後に8000円で1250株を取得することになります。

ここまでコンバーチブルエクイティの一般論を説明してきましたが、シード期のスタートアップが資金調達をするために上記のような条項を含んだ契約書を0から作るのは、リーガルコストや必要な時間を考えると現実的ではありません。

そのため、コンバーチブルエクイティによる投資契約書の雛形がVCから公開されており、シリコンバレーでスタンダードとなっている代表的なものSAFEとKISSというものがあります。KISSは日本では日本の会社法や税務などの実務に合わせて作られたJ-KISSというものが存在し、日本のシード期の資金調達のスタンダードとなっていますので、それぞれの雛形を紹介しておきます。

SAFE:https://www.ycombinator.com/documents/

J-KISS:https://coralcap.co/2016/04/j-kiss/


以上のように、エクイティファイナンスでは投資契約を結び、株式や新株予約権と引き換えに返済義務のない資金の提供を受けます。