インバウンドテクノロジー株式会社は、外国人材紹介とインバウンド観光事業を軸に成長を続ける企業だ。グローバル人材支援「World in Pro」「World in Freelance」、訪日客向け体験ツアー「Trip In」、伊豆のグランピング施設「Gran In」など、事業は多方面に広がってきている。創業から10年。雇用と観光の二軸で歩んできた同社の今とこれからを、エンジェル投資家の福田和博氏が話を聞いた。
外国人材の紹介から始まった10年
福田:まずはまじめに、御社の事業概要と創業のきっかけについてお聞かせください。
林:インバウンドテクノロジーは、「多様な価値観と共存できる世界をつくる」をビジョンに、外国人の技術人材の紹介からスタートしました。今では「雇用」と「観光」、この2つの軸で事業を展開しています。
人材の分野では、「World in Pro」でグローバルIT人材の紹介を、さらに「World in Freelance」では、フリーランスエンジニアとのマッチングを手がけています。観光の分野では、SNSや現地ネットワークを活用して訪日観光客を集めて、日本国内でのツアー企画や文化体験、地域ならではの特別な体験を提供しています。
チームは今、国内25名、海外も含めて40名規模になりました。日本と世界をつなぐ、“文化と経済のハブ”をつくっていきたいと考えています。
福田:外国人材ビジネスを始めたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
林:最初から「外国人材ビジネスでいこう」と決めていたわけではありませんでした。「世の中に意義のあるサービスをやりたい」という想いが先にあり、そのあとに出会ったのが、外国人アルバイト向けの求人メディア。これをたまたま譲り受けることになって、そこから始まりました。
最初に採用したのがベトナム出身の社員で、彼女がほんとうに熱意を持って働いてくれ、その姿勢に心を動かされました。命を懸けて日本に来て、懸命に働く彼の姿が、周囲の日本人社員にも良い刺激を与えてくれ、組織全体を活性化させてくれました。
その体験から、「外国人材が職場に与えるポジティブな影響」を実感し、これが今の外国人材紹介事業を始める原点となりました。
高度人材に特化した支援と定着支援の取り組み
福田:以前は、特定技能の領域にも取り組まれていたとのことですが、現在はどのような領域にフォーカスして人材紹介事業を展開しているのでしょうか?
林:事業は当初、外国人アルバイトの紹介からスタートしましたが、現在はエンジニアや通訳、営業職など、より専門性の高い「高度人材」の紹介へとシフトしています。特定技能分野の事業はすでに売却し、付加価値の高い人材に特化することで、より深い支援を目指しています。
オンラインインタビューの様子
福田: 定着支援まで含めて取り組まれている点もユニークだと感じましたが、なぜ今、高度人材にフォーカスしているのでしょうか?
林:背景にあるのは、「日本社会が本当に必要としている人材は誰か?」という問いです。たとえば、2030年にはITエンジニアが80万人不足すると言われています。私たちは、こうした構造的な社会課題に向き合いたいと考えました。
現在、日本にいる外国人は約350万人。これまでは、比較的小規模な事業の中で戦ってきましたが、今後は高単価かつ定着率の高い分野に経営資源を集中させることで、日本の成長産業を支える力になれると考えています。
実際、専門性の高い人材に対する企業ニーズは年々高まっており、成長産業を牽引する外国人材にフォーカスしていく戦略です。
福田:その中で、御社が展開している「World in Freelance」では、フリーランス人材のマッチングもされていますが、どういったサービスなのでしょうか?
林:「World in Freelance」は、フリーランスのITエンジニアと企業をマッチングするサービスです。元々は、紹介事業のクライアントから「柔軟な働き方を希望する人材ともつながりたい」というニーズがあって、立ち上げました。
雇用だけでなく業務委託も含め、多様な働き方を支援できる仕組みを提供することは、今後ますます重要になると考えています。社員に限らず、働き方の選択肢を広げられる社会インフラをつくっていきたいと思っています。
インバウンド事業へ。SNSとネットワークを活かした試み
福田:これまで主に人材紹介のお話をうかがってきましたが、御社では観光領域にも展開されていますよね。人材紹介事業から観光分野へと事業を広げられた背景には、どのような経緯があったのでしょうか?
林:もともと外国人材の紹介事業からスタートしましたが、「外国人」という領域には今後も軸足を置き続けたいと考えています。一方で、日本国内の外国人人口は約350万人と限られており、どうしても市場規模に天井があると感じていました。そこで、外国人領域を軸にしつつ、より大きな市場で価値を発揮できるフィールドとして注目したのが、インバウンド観光です。
インバウンドテクノロジーには、各国に精通した外国人スタッフが多数在籍しており、採用・調査・運用までを一貫して自社で対応できる体制があります。たとえばベトナムに進出する場合、一般的には現地の調査会社や人材会社に外部委託することが多いですが、私たちは市場調査から人材確保、実務運用までをすべて自社で行える。この体制により、スピード・コストの両面で他社に対して大きな優位性を持てるのが強みです。
そうした強みを活かし、訪日観光というよりスケールの大きなマーケットへの参入を決断しました。SNS運用力や各国とのネットワークを最大限に活用し、現地の旅行代理店と直接つながることで、他社とは異なる“外国人に選ばれる日本”の体験を設計できると考えています。
福田:具体的には、どのような仕組みでツアーを提供しているのですか?
林:訪日観光事業「Trip In」を立ち上げ、ベトナム・中国・台湾などの旅行代理店と連携し、日本へのツアーを企画・集客しています。現地には専属の開拓メンバーを配置し、旅行代理店とのリレーション構築や営業活動を行ってきました。
日本国内では、空港送迎、ガイド、ホテル、バス、飲食、体験コンテンツまで、すべてをワンストップでオペレーションしています。具体的には、ディズニーランドのチケット、着物体験、職人とのワークショップなど、“日本らしさ”を感じられる特別な体験をご用意しているのも特徴です。
また、ガイドの手配においても、自社の人材ネットワークを活かし、現地語に対応できる人材をアサインできる点は大きな強みとなっています。今後は、4月に取得予定の旅行業第二種免許を活用し、個人旅行客向けのツアー展開にも本格的に取り組んでいく予定です。
“日本らしさ”で差別化する旅行体験ツアーの戦略
福田:団体旅行に加えて個人旅行向けの展開も始められている、背景について聞かせてください。
林:これまでは、比較的リーズナブルな団体旅行を中心に展開してきましたが、今後は高付加価値な体験を求める個人旅行客へのサービス提供を強化していきたいと考えています。
たとえば、特別な料理を楽しんだり、着物を着て街を歩いたり、職人と一緒に工芸を体験したりと、白川郷などでの特別な宿泊体験なども含めて、「体験+食」などを組み合わせたオンリーワンの旅を設計していきます。こうした体験価値に重きを置くことで、価格競争から脱し、収益性の高い事業モデルを構築できると見込んでいます。
福田:なるほど。価格帯を上げつつ、「日本らしさ」をしっかりと価値に転換できるわけですね。そういった体験に、御社の“人材ネットワーク”も活かせそうですか?
林:おっしゃる通りです。私たちは外国人材ネットワークを持っているので、現地語で日本文化を深く伝えられるガイドの手配が可能です。単なる観光案内ではなく、知的な会話や背景知識を含めたガイド体験を提供できることは、まさに他社との差別化ポイントになります。特に、「良い体験にはしっかり対価を払いたい」と考える層に向けては、十分に価値のある提案ができると考えています。
福田:価格競争ではなく、体験価値で勝負する。それを可能にする要素が、すでにそろっているのが御社の特徴ですね。
林:この価値をどう磨き上げ、どう届けていくか。まさに今後の勝負どころだと考えています。
体験型宿泊施設「Gran In」に込めた構想。伊豆からはじめる地方創生
福田:ここまで“雇用”と“観光”について伺ってきましたが、最近は「地方創生」への取り組みにも力を入れていると聞きました。伊豆でスタートされた「Gran In」は、また異なるアプローチに感じますが、どのように捉えていらっしゃいますか?
林:静岡県伊豆エリアで「Gran In」というグランピング施設を運営しています。この事業は、友人から「余っている土地を活用できないか」と相談を受けたのがきっかけでした。ちょうどグランピング需要が高まっていたタイミングでもあり、事業再構築補助金を活用して、2023年に立ち上げました。
福田:なるほど。地元である伊豆とのご縁から始まったプロジェクトなんですね。
林:ただの宿泊施設ではなく、地域の暮らしや文化を“体験”できる場を目指しています。特に海外からのお客様にとって、日本のローカルな魅力を五感で感じられるような体験型施設にしたいと考えています。
また、私たちが考える「地方創生」は、「都市部から若者を地方に戻す」ような、一方向の発想ではありません。私たちは、ツアーオペレーションの中で、訪問先や移動ルート、体験内容までを自社で設計しています。つまり、“人の流れ”そのものを意図的にデザインできる立場にあるんです。
多くの外国人観光客は東京・大阪・福岡・札幌といった都市部に集中しがちですが、その流れを地方に向けることができるのが私たちの強みです。実際に、地方での文化や食、暮らしを体験してもらうことで、現地にお金が落ち、地域経済が回る。さらに、その流れから新たな雇用の創出にもつながると考えています。
福田:「雇用」「観光」「地方」。インバウンドテクノロジーの強みが、それぞれの事業に活かされながらも、一本の軸でつながっているのが伝わってきます。
林: ありがとうございます。私たちは、観光の側から**“人が動く理由”をつくり、そこから“経済が回る構造”を設計する**というアプローチをとっています。これまで外国人材紹介や観光事業で培ってきたノウハウやネットワークを、今度は地方の未来に活かしたい。人の流れを生み出すことが、地域の未来を変える。それが、私たちが描く「地方創生」のかたちです。
10年間の成長戦略と投資家へのメッセージ
福田:今後の成長戦略と、目指している姿について教えてください。
林:私たちは、訪日インバウンド市場でナンバーワンとなることを目指しています。インバウンドテクノロジーが掲げているのは、「垂直統合型」のビジネスモデル。強みであるグローバルタレント(外国人材)のネットワークを起点に、訪日観光客の集客から現地での体験設計・オペレーションまでを一気通貫で担う体制を構築しています。
いわば、「人が動く理由から、動いた後の体験まで」をすべて自社でデザインできるインフラ企業です。現在、日本の訪日観光客は年間約3,800万人。政府はこの数を2030年に6,000万人、ゆくゆくは1億人規模の観光立国へと引き上げる目標を掲げています。この成長市場のなかで、私たちは今後10年で、100か国・1万の旅行代理店とのネットワークを構築し、そのうち100万人の旅行者を自社経由で誘致することを目標に掲げています。
その実現に向けては、以下のような領域で統合的に事業展開を考えています。
・グローバルタレント事業(外国人材紹介)
・訪日インバウンド集客(SNS・旅行代理店ネットワーク)
・観光インフラの整備(宿泊・交通・飲食)
・体験型ツーリズム設計(地域体験・ガイド派遣)
これらの領域を有機的につなぎながら、「訪日体験の入口から出口まで」一貫して担う、垂直統合経営を目指しています。
福田:なるほど一気通貫で行うイメージですね。最後に、投資家に向けたメッセージをお願いします。
林:インバウンドテクノロジーは、「多様な価値観と共存できる世界をつくる」ことを掲げ、人が“日本を訪れる理由”から、“地域での滞在体験”、そして“経済の循環”までを設計するインフラ企業として、着実に成長を続けています。
一見すると「観光」「地方創生」「人材」は別々の事業のように見えますが、私たちはそれらをひとつの“人の流れ”という思想でつないでいる。社会性と収益性、どちらも両立できる戦略だと自負しています。
これから、ともに未来をつくっていける仲間や投資家の方々と出会い、日本の観光・雇用・地域のあり方そのものをアップデートしていきたいと考えています。
インタビューを終えて
「外国人材紹介」「観光」「地方創生」──それぞれ一見まったく異なる事業のように見えて、その本質には、“人の流れをデザインする”という一本の思想が通っていました。社会課題に向き合う視点、足元から着実に積み上げてきた実行力、そして10年後を見据えた構想力。林さんの言葉からは、起業家としての確かな強さが感じられました。「日本に訪れる理由をつくり、地域での体験を磨き、経済を回す」。そんな未来を、インバウンドテクノロジーはどのように描いていくのか。今後の展開に、ますます注目が集まりそうです。
【担当ライター】平野芹奈
会社事業概要
会社名:インバウンドテクノロジー株式会社
設立:2014年創業/2016年法人化
代表取締役社長:林 秀乃佑
本社:東京都中央区築地2-10-2 JP-BASE築地駅前ビル8階9階
事業内容:外国人材紹介、訪日観光事業、地方創生事業
林 秀乃佑氏 プロフィール
インバウンドテクノロジー株式会社 代表取締役
1986年、東京都生まれ。大学在学中の21歳で起業して以降、15年以上にわたりベンチャー経営に携わる。2014年にインバウンドテクノロジーを創業、2016年に法人化。「多様な価値観と共存できる世界をつくる」をビジョンに掲げ、外国人が日本で安心して暮らし、働けるインフラをワンストップで提供する事業を展開しています。若手中心の組織づくりを推進しながら、グローバル人材の活躍支援と、社会課題の解決に取り組んでいる。
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
・HP
・「World in Pro」グローバルタレント人材事業
https://worldinpro.ib-tec.co.jp/?utm_source=chatgpt.com
・「World in Freelance」SES事業(ITフリーランス人材のマッチング事業)
https://worldinfreelance.ib-tec.co.jp/
・「Trip In」訪日インバウンド事業
https://www.wantedly.com/companies/InboundTec-Inc/post_articles/943597?utm_source=chatgpt.com
・「Gran In」宿泊事業
https://www.glamping-shizuoka-izu.com/
・Wantedly
https://www.wantedly.com/companies/InboundTec-Inc
・note
https://note.com/ibt_diversity
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41