Published 16 Oct 2025

投資家必見!株式上場までの平均期間と投資回収のリアル

投資家必見!株式上場までの平均期間と投資回収のリアル

スタートアップ投資における株式上場(IPO)までの平均的な道のりと、投資家が最も気になる投資回収の実態について、最新のデータと事例を交えながら徹底的に解説します。

本記事では、スタートアップ投資における株式上場(IPO)までの平均的な道のりと、投資家が最も気になる投資回収の実態について、最新のデータと事例を交えながら徹底的に解説します。


投資家にとって、スタートアップへの投資は大きなリターンが期待できる魅力的な選択肢です。


しかし、その一方で、投資した資金をいつ、どのように回収できるのかという「出口戦略(イグジット)」には不確実性が伴います。


本記事では、主要な出口戦略である株式上場(IPO)に焦点を当て、その平均的な期間、プロセス、そして投資回収の現実を多角的に分析し、投資家が知るべきリアルな情報を提供します。

1. 株式上場(IPO)までの平均期間:長い道のりの実態

スタートアップが設立されてから株式上場に至るまでの道のりは、決して短くありません。各種データによると、その平均期間は約7.25年(中央値)という調査結果があります。


これは、2006年から2020年にかけて新規上場した企業267社を対象とした調査によるもので、あくまで一つの目安です。


実際には、業種やビジネスモデルによってその期間は大きく異なります。


  • 情報通信関連:平均で約7.9年(中央値:約7.5年)

  • バイオ・医療関連:平均で約7.8年(中央値:約7.8年)

  • 研究開発型(ディープテック)スタートアップ:事業化までに時間がかかるため、投資回収までの期間が10年以上と長期化する傾向があります。


近年、設立から10年以内でIPOを達成する企業も増えていますが、依然として多くの企業が上場までに長い年月を要しているのが実情です。

株式上場準備の具体的なスケジュール

株式上場を実現するためには、一般的に最低でも3年以上の準備期間が必要とされています。 


これは、上場審査で直近2期間分の監査証明が求められるためです。 


上場準備は、上場申請を行う期を「N期」として、以下のように段階的に進められます。


期間

主な準備項目

解説

N-3期以前

・上場意思決定

・監査法人の選定

・主幹事証券会社の選定

・プロジェクトチームの結成

・資本政策の策定

会社の意思統一を図り、IPOの専門家である監査法人や証券会社を選定します。

ショートレビュー(短期調査)を受け、上場に向けた課題を洗い出します。

N-2期

・内部管理体制の整備・運用

・会計監査の開始

・J-SOX(内部統制報告制度)への対応

上場企業としてふさわしい社内体制を構築・運用し、監査法人による本格的な会計監査が始まります。

この時期の対応が上場審査の基礎となります。

N-1期

・上場会社と同様の管理体制の運用

・申請書類の作成

・主幹事証券会社による引受審査

N-2期に整備した体制を1年間運用した実績が審査で問われます。

膨大な量の申請書類の作成も本格化し、主幹事証券会社による厳しい審査を受けます。

N期(申請期)

・証券取引所による上場審査

・上場承認・公表

・公募・売出し(ファイナンス)

主幹事証券会社の審査を通過後、証券取引所に上場申請を行います。

通常2〜3ヶ月程度の審査を経て、承認されれば晴れて上場となります。


このように、IPOは長期にわたる一大プロジェクトであり、全社的なコミットメントと専門家のサポートが不可欠です。

2. IPOかM&Aか?投資家目線での出口戦略の比較


投資家にとっての出口戦略は、IPOだけではありません。


近年、スタートアップのM&A(合併・買収)件数は年々増加しており、2024年には178件とIPOの61件を大きく上回りました。 これは、出口戦略の多様化を示唆しています。


投資家の視点から、IPOとM&Aを比較してみましょう。


比較項目

IPO(新規株式公開)

M&A(合併・買収)

リターンの大きさ

株価が上昇すれば、大きなキャピタルゲインが期待できる。

大型IPOでは初値売りで大きな利益が出ることも。

買収価格がリターンの上限となることが多い。

ただし、アーンアウト条項などにより追加の対価を得られる場合もある。

資金回収のタイミング

上場後、市場で株式を売却することで現金化。

ただし、ロックアップ期間など売却に制限がある場合も。

M&A成立時に、保有株式を現金化できる。

比較的短期間で投資回収が可能。

実現の可能性

上場審査は非常に厳しく、成功率は低い。

日本の法人全体のうち、上場している企業は0.1%以下とも言われる。

IPOに比べて実現可能性は高い。

近年、大企業によるスタートアップ買収が活発化。

経営への関与

上場後も経営陣は継続することが多く、企業の成長を長期的に支援できる可能性がある。

経営権が買い手企業に移るため、経営方針が大きく変わる可能性がある。

企業の成長

多額の資金調達が可能になり、事業成長を加速させることができる。

買い手企業の経営資源(販路、技術、人材など)を活用し、シナジー効果による成長が期待できる。


投資家にとってのメリット・デメリット

  • IPOのメリット:なんといっても、株価上昇による大きなリターンが最大の魅力です。成功すれば、投資額の数十倍、数百倍のリターンも夢ではありません。

  • IPOのデメリット:上場までの道のりが長く、不確実性が高い点です。また、上場後の株価は市場環境に大きく左右されます。

  • M&Aのメリット:比較的短期間で、かつ確実に投資回収ができる可能性が高い点です。IPOが難しいと判断された場合の現実的な出口戦略となります。

  • M&Aのデメリット:IPOほどの爆発的なリターンは期待しにくい点です。また、買収交渉次第では、期待したほどの売却額にならない可能性もあります。


どちらの出口戦略が最適かは、投資先のスタートアップの成長ステージ、事業内容、市場環境、そして投資家自身の投資戦略によって異なります。

3. 投資回収のリアル:期間とリターン(投資倍率)の実態

投資家が最も知りたいのは、「結局、いくら儲かるのか?」という点です。


ここでは、投資回収の期間とリターン(投資倍率)のリアルに迫ります。

ベンチャーキャピタル(VC)の投資回収

VCは、投資家から集めた資金をファンドとして運用し、スタートアップに投資します。


このファンドは、一般的に10年間の運用期間が設定されています。


  • 投資期間(前半5年):有望なスタートアップを発掘し、投資を実行する期間。

  • 回収期間(後半5年):資先企業を成長させ、IPOやM&Aによって株式を売却し、投資を回収する期間。


つまり、VCは投資してから5年〜10年での投資回収を目指していることになります。


リターンについては、日本のVCファンドの運用実績を見ると、ネットマルチプル(投資額に対して最終的に得られたリターンの倍率)で約1.0〜3.0倍程度というデータがあります。


もちろん、これはあくまで平均値であり、個別の投資案件ではこれを大きく上回る成功事例もあれば、投資額を回収できない失敗事例も多数存在します。


VCの投資先の約半数は投資額を回収できず、リターン全体の大半はごく一部の成功案件(10倍以上のリターン)によってもたらされると言われています。

エンジェル投資家の投資回収

エンジェル投資家は、創業初期のスタートアップに個人で投資を行うため、VCよりもさらにハイリスク・ハイリターンな投資と言えます。


投資回収期間に明確な決まりはありませんが、VCと同様にIPOやM&Aを待つため、数年から10年以上かかることも珍しくありません。

エンジェル投資家のリターンに関するまとまったデータは少ないですが、成功事例では数十倍から数百倍のリターンを得ることもあります。


例えば、過去にエンジェル投資家が出資した企業が大型M&AやIPOに至った事例も報告されています。 しかし、その裏では多くの投資が回収に至っていないのが現実です。

【事例】IPO・M&Aにおける投資回収のリアル

具体的なイメージを掴むために、いくつかの事例を見てみましょう。

  • 大型IPOの事例:知名度の高い企業がIPOする場合、公開価格に対して初値が数倍になることもあり、初期の投資家は莫大な利益を得る可能性があります。例えば、過去にはメルカリ(4385)が公開価格3,000円に対し初値5,000円をつけ、大きな話題となりました。

  • M&Aの事例:近年、大企業によるスタートアップの大型買収が増えています。例えば、米決済大手PayPalによるPaidyの3,000億円での買収は、日本のスタートアップM&A市場において画期的な出来事となりました。 このような大型案件では、初期の投資家も大きなリターンを得ることができます。


ただし、これらはあくまで成功事例です。


多くのスタートアップは、目標とする評価額での出口戦略を実現できずにいます。

4. 株式上場(IPO)を成功・加速させる要因と、遅延・失敗する要因

IPOまでの期間は、様々な要因によって左右されます。


投資家としては、投資先がスムーズにIPO準備を進められるかを見極めることが重要です。

IPOを成功・加速させる要因

  • 明確な成長戦略と事業計画:市場の成長性や自社の強みを踏まえた、説得力のある事業計画が不可欠です。

  • 強固な経営管理体制:内部統制やコンプライアンス体制が整備され、適切に運用されていることが絶対条件です。

  • 経験豊富な経営陣と専門人材:CFO(最高財務責任者)など、IPO準備をリードできる専門人材の存在が成功の鍵を握ります。

  • 早期からの準備:監査法人の選定などを早い段階から進めることで、課題を早期に発見し、対策を講じることができます。

IPOが遅延・失敗する主な要因

  • 内部統制の不備:業務のチェック体制が不十分であったり、ルールが形骸化していたりすると、審査を通過できません。

  • 業績の不振:上場審査の段階で業績が悪化すると、将来性を疑問視され、上場が延期・中止になることがあります。

  • 企業評価(レピュテーション)の低下:不祥事やコンプライアンス違反が発覚すると、投資家からの信頼を失い、IPOは困難になります。

  • IPO準備のガイドライン不足:正しい進め方が分からず、手探りで進めた結果、大幅な手戻りが発生するケースもあります。

5. スタートアップの生存率と成功確率

最後に、スタートアップ投資の厳しさを物語るデータを見てみましょう。


  • 創業後の生存率:中小企業白書のデータによると、創業5年後の生存率は約81.7%と比較的高く見えます。 しかし、これはあくまで事業を継続している企業の割合であり、投資家が期待するような急成長を遂げ、出口戦略にたどり着ける企業はごくわずかです。

  • 資金調達後の生存率:米国のデータでは、シードラウンドで資金調達したスタートアップのうち、シリーズDラウンドまで到達できるのは約6%という厳しい現実があります。

  • IPOの成功確率:年間に設立される会社のうち、IPOに至る確率は0.1%以下と言われています。 年間に資金調達を実施したスタートアップに絞っても、その確率は7%程度という分析もあります。


これらのデータは、スタートアップ投資がいかにハイリスクであるかを示しています。


しかし、その中から次世代を担うユニコーン企業が生まれるのもまた事実です。

まとめ:投資家として成功するために

本記事では、株式上場までの平均期間と投資回収のリアルについて、多角的に解説しました。


  • IPOまでの道のりは長く、平均で7年以上、準備には最低3年を要する。

  • 出口戦略はIPOだけでなく、近年はM&Aも有力な選択肢となっている。

  • 投資回収期間はVCで5年〜10年が目安だが、リターンには大きなばらつきがある。

  • IPOの成功には、周到な準備と強固な経営体制が不可欠。

  • スタートアップ投資は非常にハイリスクであり、成功確率は低い。


これらのリアルを理解した上で、投資家はどのような視点を持つべきでしょうか。


第一に、長期的な視点を持つことが重要です。短期的なリターンを求めるのではなく、企業の成長をじっくりと支援する姿勢が求められます。


第二に、出口戦略の多様性を念頭に置くことです。IPOだけに固執せず、M&Aなど、その企業にとって最適な出口戦略を経営陣と共に模索することが、結果的に投資回収の確度を高めることに繋がります。


そして最も重要なのは、経営陣を見極める目です


。厳しい道のりを乗り越え、企業を成長に導くことができる、情熱と能力を兼ね備えた起業家を見つけ出すことこそが、スタートアップ投資成功の最大の鍵と言えるでしょう。


本記事が、投資家の皆様の的確な投資判断の一助となれば幸いです。