Published 18 Nov 2024

【東光弘】ソーラーシェアリングで切り開く未来。再エネと農業を融合する起業家

【東光弘】ソーラーシェアリングで切り開く未来。再エネと農業を融合する起業家

株式会社TERRA(以下、TERRA)は、「地球温暖化を止めたい」という思いから、ソーラーシェアリング事業を中心に、再生可能エネルギーと持続可能な農業の融合に取り組む企業だ。畑の上部に太陽光発電パネルを設置し、下部では農作物の栽培を行う。電力と農業の二毛作を可能にしている。有機農業や不耕起栽培など環境保全型の農業手法にも力を入れ、温室効果ガスの吸収と削減の両立を可能としながら日本全国をはじめ海外への事業展開を行っている。太陽光発電と農業の関係性や地域への事業展開、これからの展望を代表取締役の東光弘氏に伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。

ソーラーシェアリングを活用した、電気と農業の二毛作。


福田:御社が展開する「ソーラーシェアリング」について、概要と特徴を教えてください。


東:畑の上部に太陽光発電パネルを設置し、農作物の栽培を行う「ソーラーシェアリング」に特化した事業展開を行っています。ソーラーシェアリングには、幅30〜40㎝、長さ約2mの細長い太陽光パネルを使用し、太陽光パネル1枚ごとに2つの空間を設け、十分に太陽光が入り込むよう工夫しています。



畑の上部に太陽光発電パネルを設置し、農作物の栽培を行う「ソーラーシェアリング」


福田:御社では、太陽光発電と農業を組み合わせているという点が特徴だと思うのですが、これらのメリットはどのようなことでしょうか。


東:一つの土地の中で、空中と地面の上、また土の中、複数レイヤーを活用し、GHG(Green House Gas:温室効果ガス)を減らしていこうという考え方で取り組んでいます。目的としては、空中に太陽光パネルを設置し人類が排出する炭素の量を削減することに加え、植物の光合成を通じて炭素を固定化することです。同時に、不耕起栽培という、土を耕さずに土壌や微生物の生態系を保つ農法で、炭素の固定化に取り組み多方面から地球温暖化対策を実施することができます。


一つの土地をどれだけ有効に活用し経済を生み出していけるかという点に着目しています。


福田:電気と農業の二毛作どころか、カーボンクレジットを含めた三毛作になりつつありますね。環境省も参加している、RE100(再生可能エネルギー100%)との関わりもあるのでしょうか?


東:そうですね。RE100は、企業が事業活動をする上で電力を100%再生可能エネルギーで賄うことです。企業の方々は、自然エネルギーを求めていますが、山林での発電所を作ることはできず、一方で農業側は、毎年のように従事者年齢が上昇、耕作地は広がりつつあり、この企業と農業のニーズがマッチする点がソーラーシェアリングの魅力だと思っています。

自然災害を見据えた構造とGHGを抑える不耕起栽培の挑戦

福田:大規模な設備や見通しの良い場所に設置する設備は、自然災害が付き物だと思いますが、レジリエンスというところで御社の設備はどのように解消しているのでしょうか。


東:現状、幅が40㎝のシリコンを使用した細いパネルです。新型のレンズ型は以前と比べて風荷重を1/3以下に抑えているため、強風にも耐えられる強いシステムになっています。自然エネルギーこそ、災害時に強い電源を確率することが信頼を得ていくために重要な点と考えています。


福田:地震は、保険が効かない唯一の自然災害だと伺いました。その点は、どのように捉えていますか。


東:地震にどう耐えられるかを長年研究してきたのですが、震度7の地震と風速50mの強風を比較した際、はるかに台風の風が大きいエネルギーだということがわかりました。風に強いシステムを作ることで、地震にも強いと考えています。また、保険会社からの信頼もあり事業の安定性が増すとこだわりを持っている領域です。


東氏へのオンラインインタビューの様子


福田:素晴らしいですね。御社の特徴的な構造である、太陽光パネルと空間が1対2というところも、風が抜けやすくなっているのでしょうね。有機農業とソーラーシェアリングを組み合わせている点も御社の独自性だと思いますが、どんな思いで取り組まれていますか。


東:化学肥料や農薬を作る際に化石燃料が多く必要であり、これらを使用して効率的に作物を栽培する方法が「慣行農業」です。一方で、環境への負荷を最小限の抑えた「有機農業」は、化学肥料や農薬を使用せず環境に配慮している点が優れた農法だと思っています。


福田:有機農業は、土壌中における炭素固定量にも変化を及ぼすのでしょうか。ほかにも、

農地を耕さないで作物を栽培する不耕起栽培にも力を入れていますが、どのような影響がみられますか。


東:まさにそうです。慣行農業は、農作物の収穫や畑を耕すことで畑の中の炭素が空気中に戻っていってしまいますが、有機農業ですと微増程度になります。


比べて不耕起栽培は、毎年約0.4%の炭素増加が見られるという計算があり、世界中の畑や牧草地を不耕起栽培に変えることで、年間のGHGを相殺できるくらいの炭素を地中に固定することができると言われています。

再エネの新たな脚光「ペロブスカイト太陽電池」とFIT

福田:新たなチャレンジとして、ペロブスカイト太陽電池の活用にも力を入れて実証実験を進めていると思いますが、ペロブスカイト太陽電池の特徴はどんなことでしょうか。


東:ペロブスカイト太陽電池については、4つの大きな特徴があります。

まず一つは、非常に軽いということ、二つ目はフィルム状になっているので曲がる特性を持っています。3つ目に、従来の太陽光パネルと違い常温で作ることが可能であり、サイズ自体も小さく極めて低価格での製造が可能です。最後に、曇っている日でも高い発電効率を発揮するなど、ソーラーシェアリングに適した特性を備えています。


福田:ペロブスカイト太陽電池は、これからの再生エネルギー導入の新たな手法になると感じますが、いつごろから、どのような関わりを持っているのでしょうか。


東:ペロブスカイト太陽電池を認知したころから営農型太陽光発電に活用できると確信していました。4年前にペロブスカイト太陽電池の活用方法に対する特許を申請し、昨年には日本国内での特許を取得、今年はアメリカと中国で特許を取得しています。現在は大手企業と実証実験を始めている段階です。


福田:断面がレンズ状のモジュールにペロブスカイト太陽電池を設置することで、風にも強く、太陽が動くにあたって、どの面からも当たりやすくなるため発光効率も上がるというお話を伺いました。いいところばかりで実用化が楽しみではありますが、導入はどのように進んでいくと考えていますか。


東:2025年度に再生可能エネルギーの電力を高価格で買取る固定価格買取制度(FIT)において、太陽光発電装置「ペロブスカイト型」だけを優遇する方針を経済産業省が出しました。これが導入の足がかりとなる大きなきっかけになると確信しております。


建設に関しても助成金メニューがたくさんあるので、各事業者さんにおすすめしているのは50キロ程度の小さめの設備からスタートし植物の育ちやお金の動きを確認したうえで、次の段階の投資に回していくことです。


ペロブスカイトの実証機に設置したペロブスカイト太陽光電池

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/perovskite_solar_cell_01.html


日本全国への拡大、そして海外へも。資金調達とビジョン


福田:千葉県須佐市を拠点にスタートされたあと、今まさに全国に展開していっている中でどのような地域拡大をお考えでしょうか。


東:環境問題に関心のある方々はすでに取り組んでくれている場合が多いので、環境分野から少し離れたアーティストやスポーツ関係者へのアプローチにより、マーケットを拡大したいと考えています。


例えば地域への参入に対しては、Jリーグとパートナーシップを構築することで地域のスポンサー企業との信頼関係を築き事業を拡大していくことが一つです。ほか、脱炭素先行地域に選ばれた自治体のソーラーシェアリングが軌道に乗るよう、コンサルタントとしての役割で事業展開をしていくなどの手法で、ソーラーシェアリングの全国展開を目指します。


福田:地域に根差した農法と自然環境を活用したエネルギーが広まっていくことを願っていますが、海外展開も視野に入れているのでしょうか。


東:はい、入れています。現在、日本から排出されているGHGの20〜30%が農業由来となっており、そのうち約1/4が水田由来のメタンと言われており、世界的に問題視されています。それに対して、田んぼの水を抜いて土を乾かす「中干し期間」の延長がメタンを減らすのに有効だとされていますが、一方でヤゴや水中生物などの生き物がいなくなってしまうので、生物多様性という観点ではあまり良くないのです。


そこでソーラーシェアリングを活用できないか、、メタンの排出を抑えるための中干し期間との掛け算や、中干しができない場所での適応についてベトナムの国立大学と実験を進めています。


福田:最後に、今後の資金調達や展望について聞かせてください。


東:今回、シリーズAのラウンドで、事業会社さんを含めて、合計10億円ほど調達したいと考えています。私たちは環境問題に対してストイックに取り組んでいるので、目先のリターンのみならず、長期的なパートナーシップでご一緒してくださる投資家さんは是非ご相談いただきたいです。

インタビューを終えて

ソーラーシェアリングは、有機農業をある意味サスティナブルにするツールの一つであり、電源の収入はもちろんのこと、地産地消型のような電源で農業を賄っている。炭素を吸収する農法を持続可能にするためのいいパートナーとして展開されているのだと感じました。

電気と農業と排出ガスのカーボンクレジットとの三毛作に収入が多元化されていくことで、これまで耕作放棄となっていた地方にもシステムパッケージが拡大していき、新規の就農チャレンジもしやすくなっていくと思います。世界的な環境問題、地域における人材問題、多面的な側面からアプローチ可能な事業展開と地球の温暖化を止めたいという熱意がどう飛躍していくか、今後の歩みに期待したいです。


【担当ライター】平野芹奈



株式会社TERRA 事業概要

ソーラーシェアリングに特化した自社発電所事業を中心に、再生可能エネルギーと持続可能な農業の融合に取り組む企業。電力と農業の二毛作が可能となり、温室効果ガスの削減にも貢献すると同時に、ペロブスカイト太陽電池の活用にも注力し、ソーラーシェアリングへの適用を進めています。国内の地方地域のみならず、海外へも展開しています。




会社名:株式会社TERRA

URL:https://terra-sence.jp/

設立:2021年5月13日

代表取締役社長:東 光弘

本社:千葉県匝瑳市飯塚1062

事業内容:ソーラーシェアリングに特化した自社発電所事業の展開と普及


・ソーラーシェアリングの概要と事業内容 https://terra-sence.jp/news/574/

・ペロブスカイト太陽電池の活用 https://terra-sence.jp/project/334/

・有機農業と不耕起栽培の取り組み


東光弘氏 プロフィール

約20年間、有機農産物・エコ雑貨の流通を通じて環境問題の普及に取り組み、2011年より地域再生型の再生エネルギー活動に専念。ソーラーシェアリングに特化した自社発電所事業および、EPC(設計・調達・建設)事業、専用部品開発、講演活動、各種環境プロデュース等を務め、2021年5月に海外事業や異業種と協業していくために新会社『㈱TERRA』設立。

市民エネルギーちば株式会社、株式会社ソーラーシェアリング総合研究所の代表取締役も勤めつつ、農地所有適格法人2社の役員を担いながらオーガニックな6次化と農泊事業などを手掛けている。


【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集

市民エネルギーちば株式会社

https://www.energy-chiba.com/terra/


ソーラーシェアリングは農家の未来像? 電気も農作物という考え方からPR策を考える

https://globe.asahi.com/article/15245986


太陽光を発電と農業に生かす。ソーラーシェアリングで 新しい社会を目指す

市民エネルギーちば

https://solar-energy-magazine.yinglisolar.co.jp/2021/04/26/solarsharing1/


Vol.87 ソーラーシェアリングの課題を解決!曲がる「ペロブスカイト太陽電池」の可能性

https://ene-fro.com/article/ef421_a1/

インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール


東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。

㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。

2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。

(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ 

iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授

NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41