Published 18 Nov 2024

【平瀬錬司】企業のデータを見える化。“ESGデータ”から社会を変える起業家

【平瀬錬司】企業のデータを見える化。“ESGデータ”から社会を変える起業家

サステナブル・ラボ株式会社(以下、サステナブル・ラボ)は、「すべての経済活動を、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)する」というビジョンを掲げ、“データ”の観点から社会の変革に取り組んでいる。あらゆる企業においてESG経営が重要とされる今、その取り組みを可視化するのが同社の提供する非財務情報データプラットフォーム「TERRAST」だ。その「TERRAST」の持つ役割やニーズ、事業に関する今後の展開などについて、代表取締役の平瀬錬司氏に伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。


開拓者の強みを活かし見える化する“ESGデータ”

福田:はじめに、御社の事業の概要を教えてください。


平瀬:当社は日本最大級の非財務情報のデータプラットフォーム「TERRAST」を運営しています。「TERRAST」のメインとなる顧客は主に金融機関やコンサルティングファームといった、非財務情報を「見たい側」であるプロフェッショナルファームです。また、当社では「TERRAST」以外にESGデータの開示・分析支援ツール「TERRAST for Enterprise(T4E)」も提供しており、こちらは、自社の非財務情報を「見せたい側(=開示したい側)」である事業会社に利用いただくSaaSプロダクトとなっています。



「非財務情報」とは、企業のE(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)に関連する情報のことで、非財務データやESGデータとも呼ばれます。例えば、企業の「CO2排出量」「廃棄物排出量」「女性従業員数」「平均残業時間」「取締役会の出席率」「取締役の多様性」など、財務以外に関する情報が非財務情報です。こうした情報は、企業が生み出す社会的なインパクトや、今後の成長などを測るための重要な指標となっており、ESG投融資判断には欠かせません。


そこで、「TERRAST」は統合報告書や有価証券報告書、サステナビリティレポート等の企業の開示情報またはオルタナティブデータをAI・機械学習で収集・統合し、金融機関や監査法人、コンサルティングファームに利用いただくことで、ESG投融資判断のためのリサーチや分析をより高精度かつ効率的に進めるお手伝いをしているのです。





福田:非財務情報を「集める」ことと「統合する」ことの2つが御社の優位性なのですね。データビジネスにおいて、御社はどのようにして競合優位性を保ってきたのでしょうか?


平瀬:いくつか軸があるのですが、特にポイントとなったのは「早さ」ですね。


当社はデータ領域において国内市場を開拓してきましたが、データビジネスはデータがたくさんあるところにデータが集まってくるんです。理由は、データが多ければ多いほど、分析する能力や精度が上がるからです。そのため、データ領域は先行者優位が非常に強いことが特徴の一つでもあります。


また、当社は大学や研究機関等のアカデミアや金融機関との共同研究や導入事例が多く、知見がどんどん深まってきているのも強みです


日本中で高まるニーズ。取り組む意義とは


福田:クライアントには銀行や証券などがいらっしゃると思いますが、集積された非財務情報を見たいニーズはどのようなところにあるのでしょうか?


平瀬:主なニーズは大きく2つあります。1つは、非財務情報を通じてダウンサイドリスクを見たいという与信にかかわる部分です。


例えば、何も対策をせずに二酸化炭素を排出し続けていると、いずれ炭素税のようなかたちでリスクが顕在化してきます。つまり、脱炭素経営に取り組んでいればいるほど、将来的な企業価値向上に繋がる可能性があるのです。また、人的資本も同様です。労働力を搾取するような企業であればあるほど、離職率があがって良い人材が集まりにくくなり、採用コストもかかって企業経営が困難になりますよね。さらに、取締役会が適切に運営されている等、ガバナンスがしっかりしていれば、不祥事が起こりにくくなるなど、リスクマネジメントにも良い影響をもたらします。こうした観点から、企業評価に非財務情報が活用されるのです。


2つ目が、世の中を良くしようとしている会社を応援することは、社会の持続的な発展につながり、それによって経済基盤が維持され、成長し続けるため、結果的に自分たちの商売にも好影響をもたらしていくという考え方に基づくニーズです。


例えば、脱炭素を加速するための施策や、地域社会にポジティブな影響を与えるための施策に融資するといった、「グリーンファイナンス」「サステナブルファイナンス」「インパクトファイナンス」等と呼ばれるものです。社会へのインパクトを生み出すには、与信とこうしたファイナンスの観点が重要なのです。


また、最近は規制によるニーズも高まってきています。国際社会においても国内においても、企業のサステナビリティへの取り組みが重要視され、ESGに関する様々な法規制や制度が生まれています。そのため、社会や環境にインパクトを生み出す企業への応援が、経済支援に繋がりやすくなっています。国際社会、国の政治も巻き込みながら、社会環境貢献と経済の両立を目指す世の中になってきているのです。


オンライン取材の様子


福田:逆に、非財務情報を「見せる側」である事業会社側のニーズも高まってきているのでしょうか。


平瀬:そうですね。グローバル企業や国内の大企業から広まってきています。


理由としてはやはり国際的な規制が大きいですね。ESG業界では、国際的なフレームワークや規制が多くあり、日本でもそれに準ずる企業が多くなっています。そのため、グローバル企業や大企業と取引をしているサプライヤーにも影響が広がってきており、規模にかかわらず様々な企業でESG経営に取り組むニーズが高まってきているのです。


加えて、非財務情報は投資判断だけでなく、取引先やサプライヤーの選定、融資判断にも使われます。さらには個人が就職先を選ぶ時や商品を選ぶ時に、企業や商品がどれぐらい社会にインパクトを与えているかも重視され始めている今、生活者にとっても重要な指標となっています。


今や国際的な規制に対応しなければならない企業だけではなく、あらゆる企業が、付加価値による差別化や、取引先や消費者から選ばれ続けるための経営努力としてESG経営に取り組み始めているので、業種や事業規模に関係なくニーズは高まっていますね。


福田:非財務情報を「見たい側」と「見せたい側」、どちらにとっても意義のあるもので、ニーズが高まってきているのですね。プレスリリースを拝見すると、岩手銀行や群馬銀行など地方との事業連携も進められていますね。地方という観点では、どのような意義を感じて取り組まれているのでしょうか?


平瀬:地方の取り組みは非常に大切だと考えています。社会全体が変化していくためには、トップダウンとボトムアップの両方が必要だからです。一部で何かをしていても、それが全体に波及するとは限りませんから。


日本の産業構造においては99%以上が非上場の中堅・中小企業です。つまり、社会を変えるためには、産業構造を支えている中堅・中小企業が重要なアクターとなります。


私は、その中にテスラやパタゴニアのような会社になる可能性を秘めた“種”がたくさん眠っていると思うんですね。テスラやパタゴニアは、まさにサステナビリティ的な価値で支えられて成長してきた企業です。それに値するような企業が、日本の中小企業にたくさんあると考えています。


よくある話ですが、自然資本や人的資本的に価値の高い経営をしていてもそれに気付いていない企業が多いんですよ。気づいていないからこそ、広報に取り入れられていなかったり、販売価格や株価、ファイナンスの向上にも全然効いていなかったりして、非常にもったいないんですよね。


こういった企業の取り組みをデータで可視化することで経済価値として還元することが、日本経済全体の底上げに繋がるため、地域金融機関や地方の経済圏は非常に重要だと考えています。


縦と横に広げたい。事業の軌跡とこれから


福田:平瀬さんは学生時代に宇宙飛行士を目指していた過去をお持ちだったり、別の事業にもチャレンジしたりされてきた中で、なぜこのサステナビリティやデータ領域で起業されたのでしょうか。


平瀬:もともとは宇宙飛行士になりたくて宇宙物理学を学ぶ大学に入ったのですが、自分の才能のなさから挫折しまして。でも、周りと同じように就職活動をするかというと、あまりそういう気持ちにもなれず……。そんな時、友達が学生起業するというので、面白そうだと思ってジョインしたのが、私の起業家人生の始まりでした。


でも、始まって間もなく「何のために頑張ってるんだっけ」という問いを持つようになって。やっぱり何事も最初は寝る間も惜しむほど頑張るじゃないですか。それはそれでやりがいがあって楽しかったのですが、青春の全てを費やしてまで何がしたいのかと考えることが増えてきたんですね。


その時に思い出したのが、子どもだった頃に抱いていた「世界を変えたい」という思いでした。そういうものだったら、自分の人生を懸けられるのではないかと感じたんです。それからますますその思いが強くなっていき、今でいうソーシャルアントレプレナー(社会起業家)こそ自分がやりたいことだと考えて、その世界に飛び込みました。


それから15年ほどさまざまな事業をしてきたのですが、周りも含めて社会的企業はほとんどがスモールビジネスなんですよ。理念は素晴らしいし、情熱もあるし、誰よりも頑張るし。でも全然儲からず、生活費は副業で稼がなければいけないという人もいたりして、なかなかスケールしないんですね。


これっておかしいなと思っていて、もっとうまく社会的企業と資本主義の良い部分を組み合わせれば、インパクトの拡大や再生産ができるはずだとずっと考えていたのですが、なかなかできずにいました。


その後、2015年ごろにSDGsやESGといったメガトレンドが訪れたことを機に、これが自分の人生を懸けることなんじゃないかと思ったんです。そして、データの観点から社会・環境貢献を叶えられるのではないかと考え、この事業モデルにたどり着きました。


どういう企業が社会インパクトを生み出しているかがある程度可視化されれば、ヒト・モノ・カネの流れが変わると思ったんです。そうすれば、社会や環境に良いことを行っている企業が主役になっていくだろうと。そうしたインフラを作るために、事業を起こしました。



福田:ソーシャルアントレプレナーと言われる方々がいろいろな挑戦をされていますが、資本主義の仕組みを使った課題解決に苦労されていると思います。そんな中で御社は成長と社会課題解決を同時にスケールしながら課題解決していくことを目指されているのですね。さらに今後どのようなチャレンジをしていきたいと考えていますか?


平瀬:いろいろな産業や企業、事業領域へ「縦」に広げていくことと、日本以外の地域へ「横」に広げていくことに挑戦したいです。


「縦」については、現在の主なクライアントは金融を含めたプロフェッショナルファームと上場企業ですが、先述のようにサプライチェーンや地方へも市場が広がりつつあります。これからは、幅広く価値を行き渡らせていきたいです。


また、「縦」の中でも領域を横断したいと考えています。今はファイナンスや投融資判断、リサーチで当社の「TERRAST」やデータを使っていただいていますが、それ以外にもサプライヤーや就職先の選定、商品選びなど複数のマネタイズ領域があります。今後は、そこも開拓していきたいですね。


そして、「横」については、現在は売上の約98%が国内です。手前味噌にはなりますが、世界全体を見渡しても、当社のようなコンセプトでここまで金融機関を巻き込んで事業を行っているプレイヤーはまだまだ少ないんですね。ですから、グローバル規模で見てもチャンスがたくさんあると考えています。


また、当社は一般社団法人サステナビリティデータ標準化機構というコンソーシアムを立ち上げ、中堅・中小企業が非財務情報開示に取り組みやすくなるためのガイドライン等を作っています。これによって、非財務情報を活用した中堅・中小企業への経営支援や融資審査がより効果的で便利になります。コンソーシアムには金融庁や環境省に加え、メガバンクを含む多くの国内銀行(預金残高ベースで国内92%のシェア)に参加いただいており、中堅・中小企業向けにここまで進めていることって、グローバルで見てもあまりないんですよ。


世界的に先行していて、プロダクトを輸出しやすいポジションにあるので、そうした強みも活かしながら横へも広げていきたいです。



福田:最近はLUUPのようにロビー活動を通じてルールを規制緩和をすることでビジネスチャンスを作り出すスタートアップが出てきているのと同時に、御社はルールメイクをすることでビジネスチャンスを生み出し、そのフォーマットごと輸出しようとしていると。面白いです。日本の新しいビジネスモデルになりうる可能性のあるアプローチだと感じます。最後に、投資家に向けたメッセージをお聞かせください。


平瀬:これから非財務情報は、投融資や取引先、就職先の選定など、様々な場面で利活用されるだろうと確信しています。当社は大手の金融機関や上場企業といった重要プレイヤーを抱えながら市場創造を行っているので、この領域におけるポジションを確立できてきたのではないかと思っています。


現在、さらに実行能力を高めて事業を推進しながら、組織としてサステナブルなかたちにしていくことに挑戦している最中にあります。ご支援いただける投資家の皆さん、VCの方々はもちろん、顧客基盤、リーチ力をお持ちであるCVCの方々と是非ご一緒したいです。


インタビューを終えて

自分の人生をかけて、少しでも良い社会を作るためにこの事業に取り組まれている平瀬さん。短い取材時間ではあったが、平瀬さんが事業にかける情熱や、データの活用によってより良い社会を作るための考え抜かれたロジックがあることが言葉の節々から感じられた。ESGやSDGsの取り組みは表面的になってしまうことも多い中、こうしてデータとして見える化されたり、評価されたり、蓄積されたりすること自体にも大きな意味があるのではないだろうか。データ領域におけるパイオニアとして、データプラットフォームを活用する人たちだけでなく、サステナブル・ラボも社会へのインパクトを生み出す存在となるだろう。

【担当ライター】安藤 ショウカ


サステナブル・ラボ株式会社事業概要

2019年創業。国内最大級の非財務データプラットフォーム「TERRAST(テラスト)」、非財務・サステナビリティデータの開示・分析支援ツール「TERRAST for Enterprise」等を開発・提供。非財務指標と財務指標の因果・相関分析も行い、ESG/SDGsに特化した非財務ビッグデータ集団として、社会・環境貢献と経済をシームレスに接続することを目指しています。


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/en/companies/f0e24d44-09f5-4287-b3e2-4230b91c9367




会社名:サステナブル・ラボ株式会社

所在地:〒100-0004

東京都千代田区大手町1丁目6-1

大手町ビル4階 FINOLAB 内

代表者:平瀬錬司

事業内容:ESG/SDGsに特化した企業の非財務情報プラットフォームの提供および非財務を含めた企業価値評価に係る研究開発

設立年月:2019年1月

URL:https://suslab.net/


事業内容:

・金融機関・コンサルティングファーム・経営企画向け、日本最大級の非財務データプラットフォーム「TERRAST(テラスト)」

https://www.terrast.biz/


・事業会社向け、ESG/SDGs経営業務を高度化するDXツール「TERRAST for Enterpirse 」

https://www.terrast.biz/t4e


・調達部・連結開示向け、ESGデータの集計・見える化をサポートする「TERRAST for Management」「TERRAST for Management」

https://www.terrast.biz/t4m


・日本で唯一の『サステナブル企業名鑑』を標榜する新たなWEBメディア「テラスTV」

https://terrast.tv/



平瀬 錬司氏プロフィール

大阪大学理学部卒業。在学中から環境、農業、福祉などサステナビリティ領域のベンチャービジネスに経営企画や環境エンジニアとして携わる。これら領域において2社のバイアウト(事業売却)を経験。(社)サステナビリティデータ標準化機構・代表理事や京都大学ESG研究会講師を務める。非財務ビッグデータに関する執筆・講演多数。


【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集

サステナブル・ラボ note

https://note.com/sustainablelab/


X

https://twitter.com/suslab1


PR TIMES

https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/52578


taliki.org 「宇宙飛行士を目指した青年は、なぜ社会起業家になったのか。サステナブル・ラボが目指す『強く優しい』社会」

https://taliki.org/archives/5384


Professional Online 「サステナビリティ情報の流通を滑らかにして、意思決定に改革を」

https://aporeru.com/articles/suslab


XTC JAPAN「【ピッチNo.8】サステナブル・ラボ株式会社 平瀬錬司」

https://www.youtube.com/watch?v=ZgBHvykFPro


【PROTOCOLプロフィールページ】

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インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール


東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。

㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。

2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。

(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ 

iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授

NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41