株式会社ひじかた(以下、ひじかた)は、ズッキーニやピーマンを生産する農業生産法人でありながら、高齢化が深刻化する農業生産法人や食品会社の事業承継をする農業支援事業を営む企業だ。農業未経験ながら、農業経験豊富で地元の人々の信頼も厚い会社の買収をするなど、積極的なロールアップを行い、現在は宮崎中央卸売市場では最多のズッキーニを卸している。そんな同社の代表取締役土方康平に、農業分野のロールアップを行う理由や今後の目標について伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。
創業当初は毎日100個のアイデアを出し合い、素人4人で農業を始める
福田:最初に、御社が展開する事業の概要を教えてください。
土方:大きく分けて2つあり、高効率の野菜の生産と農業界のサーチャーのような事業承継をしています。
農業生産事業を選んだ理由は、正直明確な理由はなく、創業メンバー4人で毎日100個のアイデアを出し合い1ヶ月くらい経った時に、「農業をやってみたい!」という答えに辿り着きました。
前職では、就活情報サイトの運営をしていたのですが、SEOなどのテクニカルな空中戦が肌に合わず、地上戦の一次産業がいいなと思ったのも理由の一つです。
現在の拠点としている宮崎県日南市は、創業メンバーの一人が宮崎県日南市の行政から業務委託を受けている人の知り合いで、日南市は地方自治体としてスタートアップ支援を積極的に行っていたため、2週間の滞在を経て移住に至りました。
福田:農業生産法人歴7年のズッキーニ部門を買収していますが、目をつけた理由はあるのでしょうか。
土方:ズッキーニ部門の法人の副社長を迎え入れたかったというのが大きな理由です。副社長である渡邉さんは、農業歴9年以上で地域の信頼も厚い方で、栽培の師匠も彼に紹介してもらいました。
農業に必要な土地を貸してもらうためには、信頼関係が重要です。私たちは素人4人で縁もゆかりもない土地で農業を始めているので、地域とのリレーション強化が大きな課題となっていました。
渡邉さんが入ってくれたことで、農業の理解度も一気に高まりましたね。
福田:今後も農業分野のロールアップを考えているのでしょうか。
土方:まさにロールアップのM&AやサプライチェーンのM&Aのために資金調達中のところです。業界として見るとマーケットは横ばいで、報道されているように後継者不足は実際に起こっています。
今も70代の方が運営している農業法人や60〜80代の方が運営している漬物会社など、後継者不足に悩んでいる農業分野のM&Aを進めています。
農業×バドミントンという異色の農業生産法人
福田:農業法人ながら、バドミントンのクラブチームも持っているのが大きな特徴かと思いますが、こちらはなぜ作られたのでしょうか。
土方:大きな理由としては採用強化のためです。元々中学時代は中国へバドミントン留学をするなど、バドミントンを長くやっていたこともあり、前職の際にもバドミントンチームを保有しました。そこでは月に3名ぐらい、クラブチームをきっかけとした問い合わせがあったので、現職でもクラブチームを持っています。
バドミントンを楽しみながら仕事できることに魅力を感じるバドミントンプレイヤーが多く、体力が必要となる農業とは親和性が高いのではないかなと考えています。
実際に、高校でバドミントンをやっていたというような人が応募してくることもありますし、週5バドミントンしながら農業をしている社員もいますね。
福田:ズッキーニの生産量一位、単独ズッキーニ流通量日本一という目標を掲げられていますが、進捗はいかがですか。
土方:現在、宮崎中央卸売市場では弊社が一番多く、2番目の倍以上出荷しており、おそらく宮崎では1番を取れたのではないかと思います。サイゼリヤや丸亀製麺など大手のクライアントもいますが、たまたまタイミングが合ったというのが大きく、単発での依頼が多い状況です。スーパーマーケットでは、多品目を一気に欲しいという要望が多いので、ズッキーニに限らず、様々な野菜を持つことで安定した販路が得られるかもしれないと考えています。
ズッキーニは春と秋に年間の収穫量を出す野菜なので、根菜類を育てるなど、それ以外の時期のやりくりを上手くやっていく調整をしているところです。
日南市の立地特性は中山間地であり、山があることで貯水機能があるので、地下水を活用可能なビニールハウスが発展しやすい地域です。しかし一方で根菜類は平べったい土地で北海道のような大型機械で育てる作物となるので、市をまたいだ農地が必要となってきて、地域の方と関係性を深めるためにも、その地域の農業法人のM&Aは必要となってくると考えています。
今後は事業継承問題にも貢献できる野菜メーカーへ
福田:最後に投資家の方々に向けて一言お願いします。
土方:今後は、圧倒的な栽培技術を駆使した野菜の生産を土台にして、事業承継問題にも旗揚げをしていきたいと考えています。
私たちが農業法人やビニールハウス事業の継承に注目している理由は、独自の生産技術を土台にしているからです。特に競争優位性を持つのは「土づくり」と「苗づくり」であり、営業利益に大きな影響を与えるのが土づくりです。
私たちは、不耕起栽培という栽培法を採用しており、一度畝(作物を育てる土台)を作ると5年から10年は肥料を使わずに栽培を続けることができます。実際に、3年間手を加えていない畑でもズッキーニの収量は2年目に最も良好でした。これは、私たちが「良い土」とは何かを明確に定義し、その理論に基づいてマニュアル化した結果です。
目指す土壌は、保水性と排水性に優れた耐水性団粒構造を持つものです。この構造により、水や栄養素が作物に効率的に届き、持続可能な栽培が可能になります。一度この土壌が完成すれば、次年度以降の土づくりは不要となり、原価を大幅に削減できます。
そんな生産技術が土台にあり、再現性がとれてきたので積極的な拡大ができると考えています。今後は農業のサーチャーのような立ち位置で自分たちにしかできないサプライチェーンの立ち上げや、農作物もみることもできる漬物会社といったようなところで、後継者問題に関して旗揚げをしていきたいと考えています。
我々のやっていることに少しでも面白いと思ったら、ぜひ投資していただきたいです。
インタビューを終えて
農業の高齢化、事業継承問題は年々深刻化しており、後継者がいないから自分が続けざるおえない農業生産法人も多い。原材料の高騰に伴い、人手不足はさらに深刻化している。一方で農業を新たに始める人にとっては、農作物を育てられる土地の確保が必須となってくるが、見ず知らずの人に土地を貸してくれる人は少ない。後継者がなかなか見つからない企業を、農業生産事業を拡大させていきたい若者が引き継いでいけると、農業に明るい話題を増やすことができるだろう。こうした問題を解消し、農業×スポーツで、人手を集めて農業のイメージをポジティブなものへと変えていけるのが、野菜メーカーであり長田農業生産法人や食品会社のM&Aも行うひじかたのような企業だと言える。
【担当ライター】松見 梨紗
株式会社ひじかた事業概要
2020年9月創業。宮崎県の産地野菜であり年間約7%の成長マーケットであったズッキーニに目をつけ、栽培を始める。栽培1期目は1万株のズッキーニを植えて8トンの収量、2年目は3,500株で約7トンと、高効率で野菜を育てており、現在、宮崎中央卸売市場ではズッキーニ出荷量はひじかたが最多となっている。圧倒的な栽培技術を活かした野菜作りを進めながら、M&Aを繰り返し農業の後継者問題に関して旗揚げをしている。
社名:株式会社ひじかた
設立:2020年9月
代表取締役:土方 康平(社長)・渡邉 泰典(副社長)
本社:宮崎県日南市飫肥6-7-56 Hostel Marika 208
事業内容:農業生産事業・農業支援事業
土方康平氏 プロフィール
1994年生まれ。中学時代中国へバドミントン留学を1年半経験、高校時代は後の世界女王奥原希望と同級生。大学は東京経済大学に進学し、卒業前に学生起業を経験。
卒業2ヶ月後に創業10年の就活情報サイトを運営する企業の執行役員営業統括に就任。
新規事業統括をメインに、就活イベントやバドミントンフィットネスクラブなどを手がける。2018年9月同社共同代表に就任。2020年8月同社退任。
9月株式会社ひじかた創業代表取締役に就任。
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
【前編】トモハッピーはズッキーニ通?!ズッキーニで農業を夢が見られる産業にしたい!【土方 康平】[383人目]令和の虎
【後編】「ただの農家と変わらない」虎の猛攻が志願者を襲う...!ズッキーニで農業を夢が見られる産業にしたい!【土方 康平】[383人目]
よそもの・若者・馬鹿者の本気の挑戦!台風14号からの農園の復旧を目指します!
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41