Published 01 May 2025

【藤原ちはる】「美味しい」が世界を変える。自然とテクノロジーの力で農業の未来を切り拓く起業家

【藤原ちはる】「美味しい」が世界を変える。自然とテクノロジーの力で農業の未来を切り拓く起業家

株式会社巨摩ファーム(以下、巨摩ファーム)は、無農薬野菜の生産を中心に、“食”と“観光”を融合させた多角的な事業を山梨県北杜市で展開している。18年前に東京から移住し、農業未経験からの挑戦を続けてきた代表・藤原ちはる氏は、現在、植物工場を主軸とした新たなステージへと事業を進化させつつある。地域と自然への想い、そして投資家に向けた展望について、藤原氏に話を伺った。インタビュアーはエンジェル投資家の福田和博氏が務める。


「美味しさ」と「感動」から始まった農業人生

福田: 現在の事業内容について、簡単にご紹介いただけますか?

藤原: 現在の事業は、無農薬野菜の生産と販売からスタートし、その後、農業体験ができるキャンプ場や、カフェ、BBQ場、さらにチーズ工房なども運営しています。また、昨年には幕張の展示会「J-AGRI」に出展し、LEDを使った植物栽培装置の開発・販売も始めました。

福田: 事業の幅広さに驚かされます。農業に留まらず観光や食、そして新たなテクノロジーへと展開されていますね。そもそも東京から未経験で農業の世界に飛び込まれたという背景をもう少し詳しく伺ってもよろしいですか?

藤原: 祖母が地域の特産品の「花豆」を作っていたこともありますが、農業を始めたきっかけは少し変わっていて、ある方が作られたマドレーヌを食べた瞬間、雷に打たれるような衝撃を受けたんです。「食べる」ことがこんなにも心を動かす体験になるんだと、心から感動しました。これをきっかけに、自分でも人の心を動かせるような「美味しい」を届けたいと思ったのが農業の始まりです。

正直な話、もともと私は野菜が嫌いで、土に触れるのも苦手でした。でも、自分で作った無農薬野菜を初めて口にしたとき、「今まで私は何を食べていたんだろう」と思うくらい美味しくて。そこから、美味しさを徹底的に追求する農業にのめり込むようになりました。

実は別のきっかけもあります。ある日突然、「農業をやらないと死んでしまう」というインスピレーションが湧いてきたんです。ちょっと変に聞こえるかもしれませんが、目に見えない何かに突き動かされたような感覚で、「これはもうやるしかない」と確信した瞬間でした。

食の感動から、農業×観光への展開

福田: 農業から始まり、現在はキャンプ場やカフェの運営も展開されていると思いますので、その流れについても教えてください。

藤原: 起業当初は、無農薬野菜を作る毎日が本当に楽しくて、苦労を感じることは少なかったです。ただ、人を雇う余裕がなく、海外からの農業ボランティアを受け入れるWWOOF(ウーフ)という制度を活用しました。そのとき、「あの農場はちょっと作業は大変だけど、ごはんがめちゃくちゃ美味しいよ」という評判で人がどんどん来てくれるようになって。食の力ってすごいなと実感した瞬間でした。

その後、近所でキャンプ場を運営していたおじいさんから「跡継ぎがいない」と相談を受け、ご縁を感じて事業承継することにしました。それを機に、農業体験ができるキャンプ場としてリニューアルし、山梨県で最下位のキャンプ場を3年で1位を獲得。現在は年間約1万人が訪れる場になっています。

福田: 1万人はすごいですね。まさに「農業×観光」の成功事例ですね。

藤原: ありがとうございます。農業体験型のキャンプ場というコンセプトで、トラクターに乗って畑を耕し、とうもろこし・さつまいも・じゃがいも等を収穫したりと、季節ごとに様々な農業体験していただいています。「次は何を体験しようかな」と、年間に何度も訪れてくださるリピーターの方も多いです。

福田: では、カフェの展開はどういった背景からだったのでしょうか?

藤原: カフェについても、野菜そのものの美味しさを、調理という形でもっと伝えたいという思いからスタートしました。野菜の魅力をより広く届けたいという一心でした。

気候変動を越えるための挑戦、植物工場事業のスタート

福田: そんな中で、今回新たに植物工場という全く新しい分野に踏み出されていますね。その背景にはどんな思いがあるのでしょうか?

藤原: ここ数年の気候変動の影響は本当に深刻で、このままのやり方では農業は続けられないと危機感を抱くようになりました。そんな折、LED栽培に長年取り組んできた取締役の山下が「今こそやるべきだ」と提案してくれたのが植物工場事業の始まりです。

植物工場市場にはすでに多くの大手企業が参入しており、私たちのような地方の中小企業にとっては決して簡単な領域ではありません。ただ、私たちは他社と明確に異なるアプローチをしています。多くの植物工場は大型で、設備投資も膨大ですが、当社の装置は小型で省スペースです。家庭や事務所など、都市部の限られた空間にも導入できる仕様になっています。

さらに、私自身が農家であるという立場から、農家の副収入にもつながる提案ができる点が強みです。そして何より、私たちは露地栽培の経験を活かして「菌を活用する」植物工場を提案しています。

実際、昨年幕張で出展した展示会では、大手企業から引き合いをいただき、「一緒に大きな取り組みをしていきたい」とのお声もありました。

投資家へのメッセージ:100億円の未来とその先へ

福田: 今回、初めての投資受け入れとのことですが、投資家に向けたメッセージとして、御社のこれからの未来像をぜひお聞かせください。

藤原: 植物を育てて装置を販売するだけではなく、大学の研究機関とも連携し、医療や美容の分野への応用も進めています。たとえば千葉大学との共同開発で、LED植物栽培に関する研究を進めており、モデルルームの開設を準備しています。

また、当社の装置は小型であるため、ロボティクスとの融合によるイベント性の高い農業体験装置にも発展可能です。これまでの農業体験ノウハウを活かし、アクアポニクスや遠隔操作、クラウド連携、VR/AR技術を取り入れた、未来型の農業エンターテイメントを構想しています。

農業は未来を支える産業の一つです。自然とテクノロジー、そして人の想いが交差する場所を育てていきたい。そんな思いに共感してくださる投資家の皆さんとご一緒できたら嬉しいです。

5年以内に世界市場の1%、すなわち100億円規模のシェア獲得を目指しています。そして、日本の農業の未来を変えるこの挑戦を世界へ、さらに10年後には宇宙にまで届けたいと考えています。

福田:今日は貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。


インタビューを終えて

藤原さんの言葉には、農業に対する深い愛情と、未来を切り拓く強い意志が込められていました。美味しさを起点にした感動体験、自然との調和、そして最先端テクノロジーとの融合 -そのすべてが「巨摩ファーム」のビジョンに織り込まれています。
キャンプ場やカフェの運営、植物工場の展開、研究機関との連携、そしてエンタメ性をも備えた未来型農業の構想まで、どれも“農業の再定義”という挑戦の一環です。
地方から世界へ、そして宇宙へと向かう藤原さんの姿勢は、単なる事業家を超えて、次世代の産業創造者としての可能性を感じさせてくれました。
巨摩ファームがこれからどんな新しい循環を社会にもたらしてくれるのか、心から楽しみです。

【担当ライター】中西 祐樹


株式会社巨摩ファーム 事業概要

山梨県北杜市を拠点に無農薬野菜の生産・販売や、農業体験を取り入れたキャンプ場の運営、カフェ・バーベキュー場・チーズ工房の展開など、“食”と“観光”を融合した事業を多角的に展開している企業です。

また、近年では気候変動を受け、LEDを活用した植物栽培装置の開発・販売にも着手。菌を活かした農法や小型設備による省スペース運用、遠隔栽培への技術応用などを強みとし、次世代型の農業・食体験の実現を目指しています。自然とテクノロジーを掛け合わせながら、持続可能な地域モデルを創出し続ける注目のスタートアップです。


会社名:株式会社巨摩ファーム

URL:https://komafarmvillage.com/

設立:2009年

代表取締役社長:藤原 ちはる

本社:山梨県北杜市須玉町小尾7376

無農薬野菜の生産・販売:「森の野菜こまふぁーむ」にて炭素循環農法で栽培された野菜を、直営施設や通販で提供


・キャンプリゾートの運営:「みずがき山森の農園キャンプ場」は瑞牆山の麓に位置し、キャンプサイトやバンガローを備え、農業体験などのアクティビティを提供。


・カフェの運営:「NOUEN CAFE」では、自社農園の野菜や地元食材を使った料理を提供し、ドッグラン、BBQ場などの付帯施設、チーズ工房も運営。


・植物工場事業:気候変動に対応するため、水と電気があればどこでも野菜を栽培できる植物工場事業を推進。「食」と「観光」の新たな融合を目指す。


・出張バーベキューサービス:「BBQ太郎」の山梨県総代理店として、山梨県内へ食材や機材の配達、準備・片付けを行うサービスを提供。



藤原ちはる氏 プロフィール



東京から先祖の地である山梨県北杜市に移住し、18年前より環境に優しい無農薬野菜の栽培を開始。「美味しい」は世界共通の「幸せ言葉」という信念のもと、徹底的に美味しさを追求し、農業体験が可能なキャンプ場運営を通じて年間1万人もの顧客に特別な体験を提供。その他、カフェ、BBQ場、チーズ工房も運営し、「食」と「観光」を融合させた地域特性を活かしたビジネスを展開。昨今の気候変動を受け、「植物工場」事業をメインとし、水と電気さえあれば誰でもどこでも簡単に野菜が作れる事業を推進。株式会社巨摩ファームは2009年設立。未経験であっても、「情熱」さえあれば何でもできる―この信念を胸に、特に女性や次世代を担う子供たちに、希望と勇気を伝え続けています。「山梨を元気に!日本を元気に!そして、世界に日本の素晴らしさを発信したい!」さらにその先に、宇宙を目指して挑戦は続きます。



【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集

巨摩ファームヴィレッジ 公式サイト

 https://www.komafarmvillage.jp/


facebook

https://www.facebook.com/story.php?story_fbid=1207778488019882&id=100063632258279



インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール

東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。

㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。

2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。

(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ 

iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授

NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41