八百富株式会社(以下、八百富)は、無農薬野菜の生産販売、ナチュラルコスメの販売等を行っている企業だ。今回のインタビューでは、八百屋から始まるサステナブルなビジネス展開について、代表取締役の犬飼亮氏に伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。
創業のきっかけと社名の由来
福田:
まずは創業のきっかけや社名の由来について教えてください。
犬飼:
私自身、もともとお祭りが好きで、地域の祭りを盛り上げる活動を創業前から行っていました。お祭りが盛り上がっている地域では、経済も活発になっていることに気づき、その相関関係から、地域資源を循環させるハブのような役割を果たし、地域を活性化させることに興味を持ちました。
そんな中で、祭りで販売した無農薬のきゅうりの一本漬けが想像を超える反響を得たんです。地元の人たちが非常に興味を持ってくれて、小学生が何度もリピート購入する姿を見て、これが人々に伝える価値があると実感しました。その体験が「八百屋をやろう」と決意するきっかけになりました。
社名は、愛知県蒲郡市の観光地「竹島」にある神社『八百富神社』の名前をかりて名付けました。名前を使っていいかどうかは神社に直接確認を取っています(笑)。
副業から本格展開へ
福田:
元々は上場企業で経理の仕事をされていたとお聞きしていますが、そこからどういった経緯で八百屋の事業に進まれたのでしょうか?
犬飼:
上場企業で経理をしながら、NPO法人を立ち上げて地域のお祭りを盛り上げる活動を行っていました。お祭りと八百屋は一見関係ないように思われるかもしれませんが、私の中では地域経済とお祭りの盛り上がりが繋がっていました。なので、サラリーマンをしながら軽トラックを購入して、中学校の同級生と二人で八百屋を始めました。
当初は儲けを意識せず、お祭りを盛り上げることだけを考えていたんです。言ってしまえばノリでした(笑)。
店舗展開の経緯と取引先の拡大
福田:
副業からスタートし、そこからビジネスを本格的に展開されたんですね。店舗を持つまでの過程についても教えてください。
犬飼:
最初は軽トラックを使って移動販売をしていましたが、季節が進むにつれて夏の暑さで野菜の鮮度が保てなくなり、移動販売だけでは限界があることに気づいたんです。そこで、駐車場を借りていた雑貨屋さんが閉店するという話があり、そのスペースをお借りして2010年9月に初めての店舗をオープンすることになりました。
福田:
当初の取引先や農家さんとの関係はどのように構築していったのでしょうか?
犬飼:
現在は100件近くの農家さんと取引がありますが、最初はノリで始めたこともあり、取引先が2件しかなく野菜を集めるのが非常に大変でした。ちなみに当社は、市場から野菜を仕入れることは一度もなく、全て農家さんから直仕入れで行っています。ですので、初期の頃は野菜を集めるのに苦労し、農家を探す時間も限られていたため、店の運営に行き詰まることもありました...。
しかし、直仕入れの無農薬野菜に対する飲食店側のニーズが高く、そこに活路を見出せたんです。もともと私が勤めていた上場会社が飲食の運営会社だったこともあり、当時の経験が飲食店とのスムーズなやり取りや販路拡大に役立ちました。結果的に、店頭販売だけでなく、配達が売上の大部分を占めるようになり、飲食店からの需要に応じて取引農家を増やしていくことが必要となりました。
共に事業を始めたパートナーは農業に興味があり、野菜作りにも積極的に参加してくれましたが、店舗運営よりも農家訪問や野菜作りに集中したいということで、一旦店舗を閉じて農業に専念する決断をしたんです。この決断を機に、私自身も仕入れ先の農家を訪問し、農業について深く学びながら、新しい農家を紹介してもらうなどして、事業を再構築していくこととなりました。
通販事業とBtoBの拡大
福田:
通販事業の方はどのように展開されましたか?
犬飼:
店頭販売だけでは厳しい現実があり、通販と飲食店へのデリバリーを同時に開始しました。特に飲食店へのデリバリーが好調で、BtoBのビジネスがどんどん伸びていったんです。通販の方は、未だに苦戦しています(笑)。
自社生産と農業への挑戦
福田:
そして、自社での生産にも拡大されましたね。特に耕作放棄地の利用や、自社生産のきっかけについて教えてください。
犬飼:
私が新規就農したのは2017年のことです。そのきっかけは、とある2人の農家さんとの出会いと別れにあります。1人は美味しいブロッコリーを栽培していたYさんで、2014年か2015年頃に急に亡くなられました。息子さんは農業を継がなかったため、Yさんの農業技術はそこで終わってしまったんです。これは、まるで無形文化財を失ったかのような衝撃でした。単に商品がなくなるというより、その素晴らしい栽培技術が途絶えたことに大きなショックを受けたんです。
そんな折、YさんのいとこであるSさんという腕の良い農家さんにも同じことが起きかけていました。Sさんも息子さんがサラリーマンで、農業を継がないことがわかっていました。そこで、Sさんにお願いして野菜作りを教えてもらうことにしました。
その後、Yさんのご家族とも話し合い、Yさんの農地を私が引き継ぐ形で新規就農することになりました。今では、Yさん、Sさん、そしてもう1つ、事業を辞めると話していた農家さんの農地も引き継ぎ、3つで私たちの生産拠点が成り立っています。
黄色い絨毯プロジェクトと持続可能な農業
福田:
素晴らしいですね。そういった背景で始まった自社生産はどのように進展していったのでしょうか?
犬飼:
「黄色い絨毯プロジェクト」という事業モデルを考案しました。野菜を作るには多くの手間がかかり、すべての農地に作付けするのは難しいため、菜の花やひまわりを栽培し、その種をオイルに加工してキャッシュポイントを作る方法を導入しています。このオイルは、食用だけでなく化粧品の原料にも転用することで、収益性を高めています。
このプロジェクトは、農地を守りつつ、人材育成にも力を入れるという二つの目標を掲げています。私たちの事業体では、すでに3名が新規で農家として独立しており、菜の花やひまわり栽培でキープしていた良い農地を彼らに引き渡すことで、一つのグループとして事業を広げています。現在、少しずつですが、このプロジェクトを通じて農業の未来を繋げ、事業体を拡大しているところです。
クリーンエネルギー∞グリーンサークル農業
福田:
ありがとうございます。投資家に向けて、取り組みや今後の展望について教えてください。
犬飼:
当社が現在最も力を入れているのは「クリーンエネルギー∞グリーンサークル農業」です。エンジェル投資家さんからの出資を受け、パイロットファームの立ち上げを行い、事業を拡大しています。
当社の強みは、野菜の生産、流通、加工、販売までを一貫して行うことにあります。名古屋市内に野菜をデリバリーしており、その際、飲食店やスーパーから調理に使用した廃油を回収し、トラクターやフォークリフトの燃料として再利用しているんです。すでに約120店舗と提携している中で、使用済み油の需要が増えすぎており、回収した油が自社の使用量の3倍に達しているという嬉しい課題もあります(笑)。
その余った油を、夏の暑さが原因で野菜の生産が困難になっている現状を踏まえ、空気の冷却に必要なエネルギー源として活用する取り組みを始めました。他社さんの設備と掛け合わせ、独自の栽培方法を進化させています。
また、その栽培ノウハウを他社にコンサルティングで提供し、そこでマネタイズしながらJAのように全量を買い上げる形で農業の発展を支援しています。人材育成や気候変動に対応するという、JAが手の届かない部分に勝機を見出して活動しています。
今後の展開
福田:
今後の展開についても教えてください。
犬飼:
今後の展開としては、パイロットファームを福岡県うきは市に設置し、JAや行政と協力しながら、オーガニックかつクリーンエネルギーを活用した農業の新しいビジネスモデル「農業3.0」を構築していくことを目指しています。
福田:
ありがとうございます。農地で菜種を生産し、それを製品として流通させ、さらに野菜の流通時に戻りの便で油を回収し、バイオディーゼルとして再利用するという、まさにサーキュラーエコノミーの連携的なパターンをうまく回し始めていると感じました。
素晴らしいお話をありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。
インタビューを終えて
今回のインタビューを通じて、犬飼さんが展開する八百屋事業が、単なる農業ビジネスを超えた深い意義を持っていることを強く感じました。地域資源を循環させ、持続可能な農業と地域経済の活性化を目指す「クリーンエネルギー∞グリーンサークル農業」への取り組みは、まさにこれからの時代に必要とされるビジネスモデルだと思います。犬飼さんの描く未来がどのように形になっていくのか、今後の展開が非常に楽しみです。
【担当ライター】中西祐樹
八百富株式会社 事業概要
地域農家と連携し、有機・自然栽培による無農薬野菜を生産し、名古屋市内の飲食店やインターネットを通じて販売しています。また、ナチュラルコスメの開発・販売も手がける。
会社名:八百富株式会社
URL:https://www.yaotomi831.jp/index.html
設立:2010年8月
代表取締役社長:犬飼亮
本社:三重県伊勢市本町18番22号本町コミュニティビル1階
半田事業所:愛知県半田市有楽町2丁目82-3
事業内容:
・有機・自然栽培野菜の生産販売
知多半島産の野菜を、名古屋市内の飲食店や百貨店、インターネット通販などで販売する
・ナチュラルコスメの販売
知多半島で育てた菜の花の種から搾るピュアオイルを原料にしたナチュラルコスメを販売
犬飼亮氏 プロフィール
八百富株式会社 代表取締役
2001年法政大学文学部哲学科中退、前職は上場企業の経理マン。2009年11月、知り合いの有機農家から分けてもらった「一本のキュウリ」の味に感動し、野菜流通未経験ながら産直の八百屋になることを決意、軽トラックで産直野菜の移動販売を始める。創業8年目の2017年、ナチュラルコスメの販売も開始。自身が経験したアトピー性皮膚炎との付き合いから「身体の中と外から」の美容と健康を提案中。
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
インタビュー記事
東海若手起業塾
https://tokai-entre.jp/member/%E7%8A%AC%E9%A3%BC%E3%80%80%E4%BA%AE/
HP
https://www.yaotomi831.jp/index.html
スタートアップ情報リサーチ
https://initial.inc/companies/A-TTBLA
東海農政局
https://www.maff.go.jp/tokai/keiei/shokuhin/bunka/organic/shop6_yaotomi.html
インタビュー記事
HIROBA!
https://hiroba-magazine.com/tokai-movement/shikakenin-190401/
経営者・起業家のためのニュースペーパー レイマッククラブ会報誌
https://raymac.jp/wp-content/uploads/2017/07/11ff84049034cc9b119a6644c57b511c.pdf
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41