株式会社カラーアンドデコ(以下、カラーアンドデコ)は、3D・VRインテリアで物件の使い方や暮らしをビジュアルで表現する「バーチャルインテリア」というサービスを展開している。家や家具選びには慎重になるからこそ、暮らしのイメージがしづらいとなかなか決められない。実際、空室状態や商品だけでは10%しか未来の暮らしや使い方を想像できないのだとか。そんな中でこのサービスは、暮らしのイメージを可視化し、さらにはその家を実際に作ることも可能なのだ。不動産や住宅業界にテクノロジーによって新たなソリューションを提供する同社の事業に込められた思いや今後の展望について、代表取締役の加藤望美氏に伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。
イメージ通りの家に住む夢を実現する「バーチャルインテリア」
福田:御社は「テクノロジーとデザインで未来から選ぶ社会を実現する」をミッションに、3DCG/VRによるバーチャルインテリアで住まいや暮らしの未来を可視化し、選択することを支援する事業をされていますね。御社を創業する前にホームステージング事業の会社も立ち上げられていますが、どのような経緯でこの住宅業界で事業を始め、今の事業にたどり着いたのでしょうか?
加藤:23歳でデザイン会社を立ち上げてそれなりに順調に経営もできていた最中、住宅業界での起業のきっかけとなる出来事がありました。ある時、出産を機に、持っていたマンションを売却することにしまして。その際、いろいろな不動産会社さんに査定をお願いしたのですが、「1階だから」「方角が悪いから」「駅から少し遠いから」といった観点でしか評価してもらえなかったんです。
そのマンションは目黒川沿いで庭があり、春になると桜の花びらが入ってきてお花見ができるようなところで、とても気に入っていました。でも、そういう「暮らし」の部分を全然評価に入れてもらえなかったんです。それは、おかしいだろうと疑問に感じました。
そこで、どうにか価値を上げられないかと調べていると、海外では家の価値を上げて売却するために家の中を綺麗にしたりインテリアコーディネートしたりする「ホームステージング」が当たり前だと知りました。私もしたいと思ったのですが、当時は日本でしている方が全くおらず情報もなかったので、海外の情報を参考にしながら自分でアクセントクロスを張り替えたり、インテリアを入れたりしました。すると、2週間でお客さんがついて500万円高く売れたんですよ。
その時に、ホームステージングは絶対にした方がいいと確信しましたし、それをする会社がないなら自分で作ろうと思い、ホームステージングジャパンという会社を立ち上げました。1万ほどの家具アイテムを倉庫に抱えて物流のトラックを走らせ、家を売りたいお客様に家具とコーディネーターをセットにして貸し出して、売れたら撤去する事業をしていました。
ただ、この形態だと物流コストがかかるためにお金がある人にしか使っていただけず、投資向けのマンションを対象としている買取再販業者さんなどが主なお客様になっていたんです。本来であれば、ホームステージングをしたい個人に提供したいと思っていたのですが、どうしてもコストの部分で引っかかってしまうんですね。そこをデジタルの力で何とかしたいという思いがカラーアンドデコの創業につながっています。
福田:事業をする中で新たな課題に気づかれて起業されたのですね。どのようにして事業を立ち上げていったのですか?
加藤:当初はコストがかけられなかった賃貸事業者さんに提供しようとしていたのですが、それでは契約したら終わりで、“点”で終わってしまうんです。私は家を買い、住んでからがスタートだと思っています。だから、点で終わるのではなく、その後までサポートしてあげられるようなサービスにしたいと考えました。そのため、当社では「ホームステージング」を名乗っていないんです。ホームステージングはあくまでも契約を取りやすくするための事業ですから。
当社のサービスでは、バーチャルのイメージで住みたい家を選ぶだけでなく、バーチャル上にあるものは全て購入することができます。つまり、点と点がつながって、イメージ通りの家に住むという夢を実現できるようになっているんです。今は賃貸事業者さんを中心にサービスを提供していますが、売買やリフォームなどにも少しずつ広がってきているので、さまざまな面で生活のサポートをしていきたいと考えています。
福田:実際に暮らす人の理想の住まいをコーディネートし、欲しいものをそのまま買えるように導線がつながっているのですね。利用者からはどのような反響がありますか?
加藤:例えば賃貸の会社さんからは、当社のサービスによってお客さんがイメージできるようになったことで、今まで2年ほど入居者がなかった住まいも問い合わせが増えて契約にもつながったと聞いています。やはりイメージが湧かないと購買意欲が湧かないので、当社のサービスを導入することで圧倒的な速さと契約率の高さを実現できることが、お客様にとっての一番のメリットになっています。
福田:最近は不動産の内見をバーチャルですることも増えてきている中で、お部屋が見られるだけでなく、家具がレイアウトされた状態で見られるとなると、物件での生活をイメージしながら探せるようになりますよね。
加藤:そうですね。実は、営業マンが撮影した空室写真を載せているのは日本だけなんですよ。海外では特に写真にこだわっているんです。理由を考えてみると、日本は営業マンで海外ではエージェントなんですよね。エージェントは自分の利益になるように、お客様のためにできることを必死に考えるのですが、日本は会社員として働いている営業マンがほとんどなので、それくらい必死で考えられているのも一部の企業になるのではないかと思います。
ただ、当社に興味を持ってくださる会社さんは危機感をしっかり持っていることが多いです。不動産が箱を売る時代はもう終わっていて、暮らしにどう付加価値をつけられるかが大事になってきていますから、そこにアンテナを張ってる会社さんに使っていただいています。
暮らす人も不動産会社も豊かで幸せになれる事業にしたい
福田:事業の拡大について、どのような構想を描いていますか。
加藤:まずは、ホームステージングが難しかった賃貸分野にサポートをしていきたいと考えています。その次に、戸建ての事業者さんやマンションの売買仲介などにも広げていきたいです。加えて、最近はリフォーム事業者さんからのお問い合わせも増えているんです。暮らし全体を提供するために、当社のサービスを活用してイメージを見せることを通じてパッケージで選べるようにしたいといったご要望をいただいています。そのようにビジュアルを量産することで、好きだと思えるものを見つける方を増やせたらと思っています。
また、今は新築は非常に高額で家を買えないという話もあり、長く住めるようにメンテナンスが大切になってきています。日本ではまだ根付いていないのですが、海外では自分で家をメンテナンスをするのが当たり前です。日本でもそのようにできるところまで持っていきたいと考えています。そのためにツールやノウハウも提供していきたいですし、最終的に実現したいことのイメージもビジュアルで見せられるようにしていきたいです。
福田:日本では、引っ越しをしても家具はそのまま使うケースが多いと思います。買い替えられる財力があれば素晴らしいですが、そうもいかない中で、今ある家具をバーチャルで配置して暮らしのイメージをつけたいというニーズもあるように思います。とはいえ、それを実現するのは手間もコストもかかると思いますが、何か取り組みのイメージをお持ちでしょうか。
加藤:今まさにそこに取り組んでいるんです。そもそも、私たちは家具を買って欲しいと思っているわけではなく、持っているものを長く使ってもらいたいと思っています。今あるものをどう配置できるか、壁紙を変えられるのか、クッション足せばもっと良くなるのか。そのように今あるものを活かして、ワンランク上の生活を体験してもらえるようなビジュアルを出せるようにしていきたいんです。
そこに関しては、当社は技術的な強みを持っています。最近は「AIで家の中のイメージを出す」といったものが多いですが、AIだと床や建物の形、大きさなどが変わってしまうことがあります。一方で、当社はAIで生成するのではなく、AIにインテリアコーディネーターの配置技術を学習させて、配置は全部3Dの技術を使っているんです。だから、建物や家具のサイズが変わってしまうことがありません。正しく設置、配置できることにこだわりがあるので、サイズを正確に出せるための工夫をこらしています。
福田:素晴らしいですね。その技術があれば、今持っている家具をうまくレイアウトできるようになり、住み替えや暮らし替えももう少しカジュアルにできるようになりそうですね。
加藤:私たちもそれを目指していて、それによってそこで暮らす人も不動産会社さんも豊かで幸せになれるサービスを作りたいと考えています。
福田:持っている家具一覧を見て「この物件に行くとこんな暮らしができます」のように暮らしを提案する不動産営業なんてこともできる可能性がありそうですね。家の中にある家具資産から暮らし方を提案してくれるサービスと一気に未来感を感じます。
加藤:そうなんです。そういうサービスがあると、自分の家の中の資産を管理できたり、引っ越しの際も見積もりが楽になったりといろいろなメリットがあります。そんな未来を実現するためにも、今はまずデータを取っているところです。全国の賃貸管理の会社さんにサービス提供しているというのも、まずは箱の形や間取りを学習させるために不動産事業者さんにサービス提供して日本中の家のデータを取っているんです。
私にしかできないこと。使命を果たすために
福田:サービスを進化させていくにあたり、調達した資金をどのようなところに投資したいと考えていますか。
加藤:2つありまして、まずはこのサービスをさらに広げるために、営業とマーケティングに投資をしたいと考えています。まだほとんどの方がこのサービスを知らないんですよ。しかも、今は営業メンバーが3人しかおらず、そのメンバーで毎月400~500社ものお客様を抱えている状態なんです。今以上に営業活動ができればもっと伸びていくと思うのですが、そのリソースがなく、もったいなく感じています。そこで、投資をすることで一気に広げていきたいです。また、不動産ポータルの事業者さんもバーチャルインテリアにすごく興味をお持ちなので、そこへも広がるとさらに標準化していくと思うんです。だから、今がアクセルを踏むタイミングだと考えています。
もうひとつは、AIの開発への投資です。実は、まだ100%正確なイメージが出力できるわけではなく、出力された後に手作業で修正しているんですよ。その修正作業をなくすことで利益率も上げていけるでしょうし、もっと多くの方に提供できるようにもなると思うので、その開発を急ぎたいと考えています。
福田:加藤さんは子育てしながら起業し、資金調達にもチャレンジして事業を展開されていますが、いつ頃からそのようなイメージがあったのですか。
加藤:実は、資金調達をして事業を拡大させていくということを最近まで全く知らなかったくらいなんですよ。そんな中でも一つ言えるのは、自分が幸せになることよりも、人を幸せにしたい思いの方がだんだん強くなってきているんです。もっと大きなことをしてもっと多くの人を幸せにしたいと。となると、一人の力ではなく、人を巻き込んでいかなければなりません。だから資金調達をして拡大していくことが今の自分の使命だと思っていますし、私にしかできないと思っています。
オンラインインタビューの様子
福田:最近ようやくチャンスが広がってきている中で、その先駆者として活動されていらっしゃるのが素晴らしいなと思います。ご自身もプレヤーでありながら起業家として尽力されていますが、最近のスタートアップ起業家の界隈を見てて何か思うことがあればお聞かせください。
加藤:実は全然交流がないんですよ。というのも、私は最近あまり情報を入れないようにしていまして。情報がありすぎるとあれもこれもって目に入っちゃうじゃないですか。でも、今やれることは本当に少なくて、一つしかできないくらいだと思います。だから、まずは今やるべきことに集中するためにも、SNSは閉じているんです。いろいろなやり方はあると思いますが、それを捨てる勇気もすごく大事だなと思っています。
福田:これからどのような投資家さんと繋がりたい、またはどういう支援を受けたいといったイメージはありますか?
加藤:多様な方からの調達はご相談可能ですし、お客様を紹介していただいたり、日々の業務に対して支援していただけることも大変ありがたいです。でも、一番は事業の可能性を感じて応援したいという思いがある投資家の方が一番嬉しいです。
インタビューを終えて
暮らしや住まいはその人の生活や人生を支える存在だ。だからこそ、それを選ぶのには慎重になる。引っ越しをする前に物件の写真を見たり、内見の時のことを参考にしながら家具やインテリアを選んだにもかかわらず、実際に置いてみると「なんか思ってたのと違う…」となることは少なくないのではないだろうか。思っていたよりも小さかったり、大きかったり、部屋になじまなかったり。安くないお金を払って買ったのにそれでは、地味にショックも受けてしまう。だからこそ、思い描いていた通りの家に住めるというのは、想像するよりも多くの人の暮らしを豊かにするのではないかと思う。さらに、カラーアンドデコはその先で住宅やインテリアの概念を変えるような可能性も秘めている。これから暮らしの常識が変わっていくのかもしれない。
【担当ライター】安藤 ショウカ
株式会社カラーアンドデコ 事業概要
会社名:株式会社カラーアンドデコ
URL:https://coloranddecor.co.jp/
設立年月日:2019年7月4日
所在地:〒108-0074 東京都港区高輪3丁目23-17 品川センタービルディング10階
資本金:1億円
従業員数:32名(契約社員・アルバイト含む)
事業内容:
インテリア空間デザイン、VR・CGグラフィックデザイン、3Dプロダクトデザイン
インテリアプランニング、モデルルーム設置、家具販売
住宅デザイン、店舗デザイン等の企画、制作
広告、宣伝、各種販売促進に関する企画、制作及び広告代理
リフォーム工事の設計、施工、監理、請負及びコンサルティング
ソフトウェア、インターネットに関する研究、企画、開発、システム構築
事業内容:
・3D・VRインテリアで物件の使い方や暮らしをビジュアルで表現し、お客様への提案力をアップするための画像生成・制作サービス「バーチャルインテリア」
・物件内をオンラインでウォークスルー内覧 ビュアー上でシュミレーション可能にするVRバーチャルモデルルーム/メタバース
加藤望美氏 プロフィール
株式会社カラーアンドデコ 代表取締役CEO
1978年生まれ。福岡県出身。23歳から広告、デザイン、WEB制作会社を起業し、12年間経営。女性をターゲットとする大手ブランド、コスメ、アパレル、エンターテイメント企業を中心に、広告、マーケティング、WEBサイト制作・運営などに携わる。2013年、株式会社ホームステージング・ジャパンを立ち上げ、「マーケティング×インテリアで不動産売却を高める手法」を日本で初めてサービス提供。2019年、3DCG/VR技術を活かしたバーチャルインテリアにより、不動産・住宅選びや暮らしづくりを提案していくべく株式会社カラーアンドデコを設立。
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
https://www.instagram.com/color_and_decor/
PR TIMES ニュース一覧
https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/53045
Focus on「加藤望美 バーチャルインテリアで想像可能になる理想の暮らし ― 社会を変えるなら自分の手で」
https://focuson.life/article/view/201
住宅業界特化型ラジオ番組RUN RIG 第77回 - 第80回「インテリアはスパイス!ホームステージングを不動産業界の『当たり前』に。」
https://runrig.jp/podcast/fukuda/kato-2/
加藤望美(2024)「インテリアの常識を変える!自分に合った部屋づくり―パーフェクトシミュレーションで理想の空間に住む」かざひの文庫
http://taiyoshuppan.net/books/cat69/post-624.php
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41