Published 27 Oct 2025

M&AでEXITする際に投資家が受け取る利益とは

M&AでEXITする際に投資家が受け取る利益とは

投資家がM&AによるEXITで受け取る利益に焦点を当て、その具体的な種類や計算方法、利益に影響を与える要因、そして利益を最大化するための戦略について徹底的に解説します。

はじめに

スタートアップや未上場企業への投資において、投資家が利益を確定させるための出口戦略、すなわち「EXIT」は極めて重要です。


 EXITには主に、新規株式公開(IPO)M&A(企業の合併・買収)の2つの手法が存在します。 


近年、日本のスタートアップ市場では、後継者問題の解決や大手企業のオープンイノベーション推進などを背景に、M&AによるEXITが増加傾向にあります。


本記事では、投資家がM&AによるEXITで受け取る利益に焦点を当て、その具体的な種類や計算方法、利益に影響を与える要因、そして利益を最大化するための戦略について徹底的に解説します。


M&AによるEXITを検討している、あるいは既に出資している投資家の方にとって、本記事が有益な情報源となることを目指します。

1. 株式による投資家が受け取る利益の全体像

EXITで投資家が受け取る利益は、単に株式の売却益だけではありません。

その内訳は、主に以下の3つに分類されます。


利益の種類

概要

キャピタルゲイン(株式売却益)

投資時の株価とM&Aによる売却時の株価の差額によって得られる利益。M&AによるEXITの利益の大部分を占めます。

インカムゲイン(配当金)

投資先企業が上げた利益の一部を、株主である投資家に分配するものです。

その他の利益

役員報酬や投資先との事業提携によって生まれるシナジー効果など、間接的に得られる利益も含まれます。


本記事では、特にM&AによるEXITにおいて最も重要な利益の源泉であるキャピタルゲインについて、深掘りして解説していきます。

2. キャピタルゲイン(株式売却益)の計算方法

キャピタルゲインは、以下の計算式によって算出されます。

キャピタルゲイン = 株式の売却価格 - (株式の取得価格 + 売却手数料)


2.1. 株式の売却価格の決定要因

株式の売却価格は、M&Aの交渉過程において、買い手企業と売り手企業(投資家を含む株主)の間で合意された価格です。


この価格は、企業の評価額(バリュエーション)に基づいて決定されます。


企業の評価額を算定するには、主に以下の3つのアプローチが用いられます。


アプローチ

概要

代表的な算定方法

コストアプローチ

企業の純資産価値に着目して評価するアプローチです。

・簿価純資産法

・時価純資産法

インカムアプローチ

企業が将来生み出すと予測される収益やキャッシュフローを基に評価するアプローチです。

・DCF法(Discounted Cash Flow)

・収益還元法

マーケットアプローチ

類似する上場企業や過去のM&A取引事例と比較して評価するアプローチです。

・類似会社比較法(マルチプル法)

・類似取引比較法


実際には、これらの手法を複数組み合わせ、多角的な視点から企業価値を評価し、最終的な売却価格が交渉によって決定されます。

2.2. 株式の取得価格と売却手数料

  • 株式の取得価格:投資家が株式を取得するために支払った金額です。複数回にわたって投資している場合は、それぞれの取得価格を考慮する必要があります。

  • 売却手数料:M&Aアドバイザーへの仲介手数料や、弁護士・会計士などの専門家へ支払う費用が含まれます。これらの費用は利益を計算する上で差し引かれるため、注意が必要です。

3. M&Aにおける対価の種類と投資家の利益への影響

M&Aの対価は、現金だけでなく、株式やその他の形式で支払われることもあります。 


対価の種類によって、投資家が受け取る利益の性質やタイミング、税務上の取り扱いが大きく異なります。


対価の種類

概要

メリット

デメリット

現金(キャッシュ)

売り手企業の株主が現金を受け取る最も一般的な方法です。

利益が確定し、すぐに現金化できます。

買い手企業は多額の資金調達が必要です。

株式交換

売り手企業の株主が、買い手企業の株式を受け取る方法です。

買い手企業の成長による将来的な株価上昇を期待できます。

買い手は資金調達が不要です。

株価変動のリスクがあり、すぐに現金化できない場合があります。

アーンアウト条項

M&A成立後、特定の業績目標を達成した場合に追加の対価が支払われる仕組みです。

売り手は将来の成長を価格に反映でき、買い手は買収リスクを低減できます。

目標未達の場合、追加の対価を受け取れません。

契約内容が複雑になりがちです。

その他の対価

上記以外にも、新株予約権や社債などが対価として用いられるケースもあります。

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投資家は、それぞれの対価の特性を理解し、自身の投資戦略やリスク許容度に合わせて、最適な対価の組み合わせを交渉で勝ち取ることが重要です。

4. 投資家の利益に影響を与える重要な要素

M&AによるEXITで得られる利益は、様々な要因によって大きく変動します。


ここでは、特に重要な要素を5つ解説します。

4.1. 投資契約の内容

投資実行時に締結される投資契約には、投資家の利益を保護するための重要な条項が盛り込まれています。


  • 優先分配権:M&Aによる売却代金が、他の株主よりも優先的に投資家に分配される権利。

  • みなし清算条項:M&Aを企業の清算とみなし、投資家が優先的に投資元本を回収できる権利。

  • 売却請求権(ドラッグ・アロング・ライト):一定数以上の株主がM&Aに賛成した場合、他の株主にも株式の売却を強制できる権利。

  • 共同売却権(タグ・アロング・ライト):経営株主が株式を売却する際に、同じ条件で自身の株式も売却できる権利。


これらの条項を投資契約に盛り込むことで、投資家はM&Aの際に自身の利益を守り、最大化することが可能になります。

4.2. M&Aのタイミングと市場環境

M&Aを実行するタイミングは、得られる利益に大きな影響を与えます。


企業の業績が好調な時期や市場全体が活況な時期は、企業評価額が高くなる傾向があります。


買い手企業の業界動向や競合の動きも価格交渉に影響を与えるため、常に市場環境を注視し、情報収集を怠らないことが重要です。

4.3. バリュエーション(企業価値評価)

前述の通り、バリュエーションはM&Aの価格を決定する上で最も重要な要素です。


売り手側としては、自社の強みや将来性を的確にアピールし、適正な企業価値を評価してもらう必要があります。


そのためには、説得力のある事業計画や財務諸表の準備が不可欠です。

4.4. 交渉力

M&Aは、買い手と売り手の交渉によって最終的な条件が決定されます。 


投資家としても、経営陣と連携して交渉に臨み、自らの利益を主張することが重要です。


複数の買い手候補と交渉を進める「競争入札」方式をとることやM&Aアドバイザーなどの専門家を活用することも有効な戦略です。

4.5. 税金

M&Aによって得られた利益には税金が課されます。


税金の種類や税率は、投資家の属性(個人か法人か)やM&Aのスキームによって異なります。


  • 個人の場合:株式の譲渡所得に対して、所得税、復興特別所得税、住民税が課されます。

  • 法人の場合:株式の売却益は、他の事業の利益と合算され、法人税が課されます。


税金の負担は最終的な手取り額に大きく影響するため、M&Aを実行する前に税理士などの専門家に相談し、最適なタックスプランニングを検討することが不可欠です。

5. 投資家がM&Aによる利益を最大化するための戦略

最後に、投資家がM&AによるEXITで利益を最大化するための戦略を5つのステップで解説します。


  • ステップ1:投資実行前のデューデリジェンスと契約交渉
    将来性のあるビジネスモデルか、優秀な経営陣かを見極め、投資契約に自らに有利な条項を盛り込むことが重要です。

  • ステップ2:投資後の積極的なハンズオン支援
    経営戦略への助言や販路拡大の支援など、積極的に経営に関与し、企業価値の向上に貢献します。

  • ステップ3:EXIT戦略の早期策定と共有
    経営陣と早い段階からEXITのビジョンを共有し、IPOとM&Aの両方の可能性を視野に入れた具体的な戦略を策定します。

  • ステップ4:M&Aプロセスの主導
    M&Aアドバイザーの選定や買い手候補のリストアップを主導し、交渉の場に積極的に参加して投資家としての意見を主張します。

  • ステップ5:専門家の活用と情報収集
    弁護士、会計士、税理士などの専門家と連携し、法務・財務・税務のリスクを管理します。 また、M&Aに関する最新の市場動向や法改正などの情報を常に収集することが成功の鍵となります。

まとめ

M&AによるEXITは、投資家にとって大きな利益をもたらす可能性を秘めた重要な出口戦略です。 


しかし、その利益を最大化するためには、M&Aのプロセス全体を深く理解し、戦略的に行動することが不可欠です。


本記事で解説した利益の種類、計算方法、対価の種類、そして利益に影響を与える様々な要因を正しく理解し、周到な準備と専門家の助言のもとでM&Aに臨むことで、投資の成功確率を飛躍的に高めることができるでしょう。