トレ食株式会社(以下、トレ食)は、廃棄される野菜や植物からセルロースを分解抽出し、その特性を評価して、プラスチックなどに代わるバイオ素材として販売を行っている企業だ。今回のインタビューでは、セルロースの可能性や地域に根差したビジネス展開について、代表取締役の沖村智氏に伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。
セルロース事業の概要と技術の特徴
福田:まずは、事業の概要について教えてください。
沖村:私たちトレ食の事業は、一言で言うと、廃棄されるか十分に利用されていない植物資源からセルロースを“抽出する”事業です。セルロースはプラスチックの代替素材として使用することができ、例えば、自動車の部品や住宅建材、化粧品、食品、さらには紙製品まで、多岐にわたる用途があります。
さらに、私たちは事業系廃棄植物や未利用植物を原料とし、セルロースを抽出する技術開発と製造装置の開発にも取り組んでいます。また、セルロース抽出後の残液を飼料、肥料、エネルギー用途として活用するための研究も並行して進めています。
私たちのポリシーは、セルロースを取り出すだけではなく、植物から分離した他の成分も無駄にせず活用することです。例えば、セルロースを固体として取り出した後、液体となる成分を肥料やバイオマス燃料に転換する方法を研究しています。これにより、植物の全てを活用し、廃棄物をゼロに近づけることが可能です。また、液体成分に薬剤が混ざると使えなくなるため、素材を有効に活用できるように薬剤を使用しないことも大切にしています。
未利用資源の活用と地域特化型ビジネスの展望
沖村:私たちが強調したいポイントは、単に廃棄物を使うことが良いからというわけではなく、事業を永続的に展開するために、未利用なものや捨てられているものを有効に活用することが重要だという点です。この考えに基づき、私たちは技術に焦点を当てています。表面上は、廃棄される植物を他の用途に使ったり、薬品を使わないことからエコな会社として見えるかもしれません。しかし実際には、確実に供給できる原材料を選び、薬剤を使わずに中和コストを削減し、素材の利活用がしやすくなるという非常に合理的なアプローチなのです。
技術開発には多大な時間と資金が必要ですが、これをやり遂げたとき、私たちは唯一無二の会社になると信じています。
福田:素晴らしいですね。具体的にはどのような未利用資源に着目されていますか?
沖村:もみ殻と稲わらです。これらは通常、田んぼに戻されますが、私たちの技術で有効に活用できます。竹についても同様で、非常に成長が早く、持続可能な資源として利用価値が高いです。これらは全国で安定的に供給される素材ですが、地域ごとに気候や産業が異なるため、出てくる素材も異なります。そのため、もみ殻・稲わら・竹に加えて、地域ごとに最も取れる植物を活用し、通年で事業ができる原料選定をしています。
また、私たちは各地域で町工場のような規模で事業を展開できるように、機械のコンパクト化を進めています。
福田:御社は、各地の素材や季節に合わせた設備を開発し、それを地域に配置することで、運搬コストやエネルギー消費を抑え、地産地消型の供給体制を目指しているということですね。
沖村:その通りです。原料の話で余談ですが、現在、セルロースは主に木材から取り出されており、木材の収穫量の約半分がセルロースとなります。一方、私たちが取り組んでいるトマトの葉などの原料は、全体の2〜3%しかセルロースとして取り出せないため、通常のビジネスでは成り立たないのです。
私たちの装置開発は、従来のセルロース製造の100倍程度の効率を求めるような革新的な製造方法が必要で、大変ハードルが高かったのですが、ようやく技術の確立に成功したので、現在は資金調達のフェーズに入っています。
福島県南相馬市での地域循環型プロジェクト
福田:地域経済の活性化にも大きく貢献しそうですね。拠点を福島県南相馬市に選んだ理由やそこでの活動について、お聞かせいただけますか?
沖村:トレ食の事業は、もともと株式会社トレードマークという広告代理店の新規事業部で、私が社員だった当時にスタートしました。しかし、事業規模の構想が大きかったため、スピンアウトして自分で経営することを決めました。また、創業時の母体であるトレードマーク社から「人災のあった地域で活動すること」という命題を受け、福島県の浜通り地域での事業展開を考えました。特に、南相馬市が積極的に誘致してくれたことが大きな要因となり、拠点を南相馬市に決定しました。
私は将来的に、福島で使われなくなった農地や土地を活用し、セルロース用の植物を栽培することで、地域の資源を循環して利用するモデルを構築したいと考えています。この福島流の地域循環モデルは世界にも影響を与え、平和にも寄与する可能性があると信じています。私がIPOを目指しているのは、この取り組みを広く世界に伝えたいからです。福島での取り組みがどのように生まれ、どのような成果を挙げたのかをしっかりと伝え、日本の先進事例として評価されることを目指しています。
セルロースナノファイバーの可能性
福田:南相馬市での取り組みは、地域の復興にもつながる意義深いプロジェクトですね。セルロースについても詳しく教えていただけますか?
沖村:具体的に物質として期待されているのは「セルロースナノファイバー」というもので、最大で鉄の5倍の硬さを持ち、鉄の5分の1の軽さという優れた特性を持つ素材です。国が多額の研究費と時間を投じてきましたが、従来の製造方法ではコストが非常に高く、1キログラムあたり3万円から10万円かかると言われています。
一般的には硬い木材からセルロースナノファイバーを取り出しているためコストがかかるのですが、私たちは捨てられていた植物を活用しており、各植物のセルロースの特性を活かすという研究から、1キログラムあたり1000円から3000円程度で製造することが可能です。
つまりトレ食は、B2Cで素材化(商品化)する方ではなく、“セルロースナノファイバーを上手に作る”技術に特化している企業と言えます。
当社がいま目先で取り組んでいることは、セルロースナノファイバーを用いてゴミ袋や歯ブラシ、コーヒーカップなど、すぐに捨てられるようなプラスチック品の代替物をメインに作るということです。セルロースナノファイバーを用いた製品はプラスチック製品とは異なり、焼却という製造工程がないため、CO2を大幅に削減し環境負荷を減らすことが可能です。
福田:御社はセルロースナノファイバーを安価で生産できることに優れているので、例えば、製品化は他社メーカーさんにお願いし、御社は素材を提供していくというのも一つの手かもしれないですね。
沖村:そうですね。私たちは最近、「セルロースのプラットフォーマー」という言葉を使い始めました。私たちが一つ一つを自社で開発していくには、規模も小さく、時間も足りません。そのため、世界中から多くの人と情報が集まり、パートナーと協力しながら、プラットフォームとして世界に良いものを送り出していく存在でありたいと考えています。
投資家へのメッセージと今後の展望
福田:セルロースナノファイバーの多様な用途は、今後の成長分野として非常に期待が持てますね。投資家に向けたメッセージがあればお願いします。
沖村:社会課題の解決に関しては、その利益が短期的には目に見えにくい部分があると思いますが、広く永続的に世界に影響を与える大きな力があります。投資家の皆さんがこの視点を持って当社を評価していただければ非常に嬉しいです。お金を頂ける頂けないは別として、こうした視点を持つ投資家の方が増えることで、社会課題に取り組むベンチャー企業はさらに成長し、世界に貢献できると信じています。
福田:ありがとうございます。最後に、作りたい未来や今後の展望を教えてください。
沖村:足りないモノがない社会を創りあげたいです。今の生活と同水準で且つ地球に負担のない社会を目指し、その部分に大きな関与をしていきたいと考えています。また、今まで不要とされているものが必要とされる素敵な世界にしたいです。植物だけではなく、極論、不要なモノがないような社会に生きていたいですね。
福田:今日は貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしています。
インタビューを終えて
今回のインタビューを通じて、沖村さんが掲げるビジョンに強いインパクトを受けました。未利用資源から抽出されるセルロースを活用し、環境問題の解決を目指す取り組みは、単なるビジネスを超えた社会的な意義を持っていると感じます。技術開発と地域貢献が交差するこの取り組みで、これからの社会に大きなインパクトを与えていくことが本当に楽しみです。
【担当ライター】中西 祐樹
トレ食株式会社 事業概要
廃材を高速分解処理し、クライアントのニーズに合わせたセルロース原料(セルロースナノファイバー含む)を供給・販売。また、対象物からのセルロース除去方法やセルロースを使用した製品開発などの受託研究を行い、委託料を受け取る。さらに、受託研究の結果を基に、必要な設備の導入支援を行うコンサルティング事業も展開している。
会社名:トレ食株式会社
設立:2018年6月
代表取締役社長:沖村智
本社:福島県南相馬市原町区西町3-461-1
事業内容:
・セルロース原料の供給
廃材を高速分解処理し、クライアントのニーズにあったセルロース原料(セルロースナノファイバー含む)を供給/販売。
・セルロースに関わる受託研究
対象物からのセルロースの除去方法/セルロースを使用した製品開発等を行うことで、委託料を受けとる。
・コンサルティング事業
受託研究の結果を踏まえ、必要な設備の導入支援を行う。
沖村智氏 プロフィール
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
東京海上火災保険株式会社に入社し、損害サービス部門で新規部門の立ち上げを担当。その後長野県筑北村に帰郷し、筑北村役場村づくり推進室の立ち上げ。本室では行政が運営する施設の経営改善、新規事業の立ち上げを行う
2013年〜 村議会議員を1期務め、”地域を耕す村議会議員”として地域改革を推進
村議会議員と並行して農業法人を立ち上げ、ひまわりを栽培。日本最大級のひまわり(花き) 出荷数を達成
2017年〜 株式会社トレードマークで地域創生事業を行い、熊本県の玄米の会社とともに、 玄米ペーストを使用した「かける玄米」シリーズを開発
2018年 トレ食株式会社を創業。現在はトレードマークから独立して、オーナー兼代表取締役社長
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
HP
インタビュー記事
RD LINK「トレ食株式会社 代表 沖村智氏インタビュー」
https://rdlink.jp/company_syokulabo
小高ワーカーズベース「南相馬の「農と食」を考える①-トレ食株式会社 沖村智さん-」
https://note.com/odakaworkers/n/nf9c527d5ce5f
AIST SOLUTIONS「産総研の技術コンサルで研究が飛躍。廃棄される植物からバイオ素材をつくる」
https://www.aist-solutions.co.jp/case_study/page000093.html
fundinno トレ食株式会社
https://www.youtube.com/watch?v=biNBWUSoP2E
ラジオ日経【6月30日】馬渕磨理子の教えて!ベンチャー社長 トレ食 株式会社 沖村 智氏
https://www.youtube.com/watch?v=79fUHBRy4PY
Crewwページ
https://creww.me/ja/account/%E6%99%BA-%E6%B2%96%E6%9D%91
https://creww.me/ja/account/c5afffb7-7852-4e3e-87f7-76d6b3a3bad4
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41