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インタビュー

【真田諒】世界のオンライン学習の再定義に挑む日本人起業家

【真田諒】世界のオンライン学習の再定義に挑む日本人起業家

2021.09.08

日本は、バブル崩壊後の経済停滞に伴い、ローカルでは数々の社会問題に直面し、グローバルでは存在感や競争力が著しく落ち込んだ。そんな閉塞感が漂う日本に問題意識を抱き、未来を変える勇気と覚悟を持って「世界で戦う知られざる日本人たち」がいる。

彼らは、起業家や投資家である。日本人として、日本企業として、日本を代表する気概を持って、世界のプライベートマーケットの第一線で次なるイノベーションに日々挑戦している。彼ら「世界で戦う知られざる日本人たち」のストーリーやアイデアを学び、日本の起業家や投資家が世界で戦うための手掛かりを追う。

世界のイノベーションの震源地、シリコンバレー。スタートアップやテクノロジーに精通している者であれば一度は憧れる聖地である。GoogleやAppleもこの地から生まれた。そんなシリコンバレーに挑む日本人がいる。彼の名は、真田諒

真田は、「WeAdmit」を運営する会社の共同創業者およびCEOである。WeAdmitは、オンライン学習のプログラムを提供する、いわゆるEdtech事業だ。真田は、三菱商事での順風満帆な仕事と生活から飛び出し、自らの信念に従ってシリコンバレーから世界に挑んでいる。そんな真田にインタビューを試みた。「Zypsy」の代表の玉井和佐にご紹介いただき、2021年9月にオンラインで実施。


(画像:真田)

真田諒という男

真田は、1984年に東京に生まれ、会社員の父とパート勤務の母のもと下町でのびのびと育った。高校まで地元の公立校に通い、そこそこにスポーツも勉強もできる平凡な青春時代を送っていたという。高校卒業後、早稲田大学を志すも不合格に終わり、明治大学に入学。大学では、夏休みにオーストラリアを訪れたことで、異国の地の「非日常性」に魅了され、バックパッカーとして世界25ヵ国を巡った。しかし、真田は、大学3年生を迎えるタイミングで、世界放浪旅が異国の地への一時的な逃避行動に感じ始め、「日常の中に非日常を作り出さなければいけないのでないか」という思いに駆られていた。そんな中で、学生団体やNPOと出会い、彼らに触発された真田は、自ら4つの学生団体を立ち上げるまでに至り、自分で物事を起こすことの醍醐味を知ることとなった。

真田は、「普通にお堅く開催しても人は集まらない」という思いから、ナイトクラブなどの会場を貸し切って、お酒とともにエンターテイメント性のあるキャリアイベントやビジネスイベントを開催し、百人・千人単位で人を集めていた。一見チャラいイベントの中で、真田は、お酒や遊びに惚けるわけではなく、VIPルームを訪れては名の通った芸能人や起業家に話しかけて、社会を勉強することに没頭していた。それまで世界を知っていても社会を知らなかった真田にとって、芸能人や起業家との交流を通して社会を学んだ経験は、後の人生にも大きく影響する出来事になった。学生団体を立て続けに立ちあげ、ノリに乗っていた真田は、代々木公園のNHKホール横の屋外スペースを貸し切って、大規模なイベントを仕掛けた。しかし、このイベントが結果的に大失敗に終わり、約500万円の借金を背負うまでに至った。真田は、大学卒業後も団体メンバーと共に起業してイベント事業を続ける気概を持っていたため、就職という選択肢を持ち合わせていなかった。

慌てて就職活動に向き合った真田は、イベントでの失敗から「100年続くベンチャー企業(つまり、大企業)で働いて、一から経営を学びたい」という思いに辿り着いた。その上で、「グローバル」と「金融」に関心を抱いていた真田は、総合商社に最適解を見出し、その中でも最大手・最難関の「三菱商事」に狙いを定めた。しかし、真田が通っていた明治大学から三菱商事への就職となると、ハードルが著しく高い。真田は、同大学にOBがいない中で、ネットで各部署の連絡先を入手して片っ端から連絡し、学生団体で培った営業のノウハウを活かして、次々とアポイントを取っていった。母校のOBの人脈が皆無の中、数週間のうちに30人の三菱商事社員に訪問していたという。その行動力と、学生時代で取り組んでいたバックパッカーと学生団体の経験が評価されてか、真田は1ヶ月という短い期間の中で見事三菱商事の内定を獲得した。明治大学から三菱商事への就職は、4年に1人と言われているという。

三菱商事へ

2007年に大学を卒業し、三菱商事に入社した真田は、当初の希望通り金融の部署に配属され、新興国での投資やM&Aなどに従事していた。そんな中で、半年間の海外研修としてコロンビア共和国を訪れた際に、その後の人生を左右する人物と出会った。派遣先であるコロンビア三菱の所長の息子で、奇しくも同名の「諒君」だ。13歳ながら、父の仕事柄、大人(社会)と接する機会の多い彼と将来の夢について話した時、真田は衝撃を受けた。真田は自身のブログで以下のように語る。

「親と学校くらいしか大人を知らずに育ち、ろくに勉強もせず惰性で中高生時代を過ごした自分が情けなくなる程の衝撃でした。『ロールモデルが存在し、自分は何者で、何に情熱があって、将来何になりたくて、したがって今は何をすべきか分かっている人間は強い』というレッスンをここで得ました。情熱の在りどころを見つけ、世の中を変えていく人を一人でも増やしたい。その想いに駆り立てられるように、日本に帰国後、本業の傍、中高生の心に火をつけるような職業人講話や社会人インタビューWebsiteを提供する、キャリア教育NPO法人のアスデッサンを創業しました。僕が代表を勤めていた7年間で3万人の中高生にキャリア教育コンテンツを提供するに至りました」

諒君が大人から学んだ経験と、前述の学生時代に学生団体で大人と触れ合う中で社会を学んだ真田の経験がリンクしたのだった。真田は、帰国後、飲み会で出会い、その場で日本の教育の行方に関して意気投合した経産省の人物と共に、「誰にも、平等にキャリア教育のチャンスと情報を提供したい」という思いからNPO法人の「アスデッサン」を副業として創業した。三菱商事では、役員、無給、非常勤という条件下では副業が認められていた。真田は、本業と副業の相乗効果もあり、三菱商事では従業員組合の役員に史上最年少で就任し、アスデッサンでは3万人の中高生に教育を届け、順調にキャリアを歩んでいった。真田はさらなるステップアップとして、7年間続けたアスデッサンの代表理事を後任に譲り、三菱商事の社費派遣生としてミシガン大学へMBA留学することを決めた。真田が30代に突入した時期だった。MBAの授業の一環でスタートアップエコシステムを学ぶためにシリコンバレーを訪問する中で、新たな転換期を迎えた。真田は自身のブログで以下のように語る。

「そこで、Love what you do, Do what you loveの精神でめちゃくちゃいい顔して働いている起業家など、素晴らしい人々に出会い、撃ち抜かれました。帰りの飛行機で、取り憑かれたように「そこには希望しかなかった」という旨のメモを書きなぐったのを今でも鮮明に覚えていますその後、派遣を後押ししてくれた上司たちへの裏切り、会社への授業料返納(マセラティ1台分相当也)など、引き止め材料はいくつもありましたが、ここが人生の勝負時との直感を得て、人々の『Find Your Passion, Change the World』を支えるような事業を自ら創ることを心に誓いました。その誓いが本物であるかを確かめるため、MBA卒業前に再びシリコンバレーにやってきました。今度は、住人目線を得るため、1週間ほど起業家・エンジニアのタコ部屋的なシェアハウスに滞在し、住人と昼夜問わず語り合いました。ミートアップイベントにも暇さえあれば足を運びました。そこから見えてきたのは、シリコンバレーにはあらゆるリソース(人材・資金・ナレッジ)が世界から集まっており、さらには溢れ出しているということ。ピッチイベントではスマートな経験者からの鋭い質問が飛び、カフェでは隣の席を見れば起業家が投資家を口説く姿があるなど日常茶飯事。ここでなら、日本に帰るより面白いことが起こせるのではないか。来る日も来る日も晴れという土地柄が、そんな僕の期待(幻影?)を増強し、この地で起業する覚悟をしました」

真田は、三菱商事にも真摯に気持ちを伝えた上で10年間のサラリーマン人生に終止符を打ち、断腸の思いで日本に妻と子供を置いて裸一貫でシリコンバレーから世界に挑み始めた。2017年のことだった。

シリコンバレーで起業

シリコンバレーに降り立った真田は、三菱商事にMBAの授業料を返納しながら、極貧生活の中で起業に向き合った。「大きな鍋で濃度3倍の味噌汁を一度に50食くらい作り、ジップロックに小分けで冷凍し、食べる際は水で薄めて解凍する生活の知恵も編み出しました」という真田の発言から、その生活の厳しさが伝わる。そんな中で真田は、MBAの中で構想していた事業をもとに、現地で出会ったインド出身の優秀なエンジニアと紆余曲折を経た上で意気投合し、共同で会社を創業するに至った。真田らは、高校生が大学受験に関してモバイルアプリで相談ができる人工知能のチャットボット「ConnecPath」をローンチし、東京で開催されていたEdTechのグローバルカンファレンス「Edvation x Summit 2017」で最優秀賞を受賞した上、エンジェルラウンドで15万ドル(約1500万円)の資金調達を実施するなど、順風満帆なスタートを切った。


(画像:左、共同創業者・Pradeep Gaddam、右、真田)

しかし、出来上がったプロダクトをBtoBtoCモデルとして学校にセールスするも、現実的にはその実用性が乏しく、課金する顧客はいなかった。課題に直面した真田は、BtoCモデルへのピボットを決意し、AIではなく人間の大学生に対して高校生がチャットで受験相談ができる、オンデマンドのマッチングモバイルアプリ「ConnecPath(同名)」をローンチした。2018年夏のことだった。真田は、シードラウンドで数千万円の資金調達を実施し、エンジニアサイドもビジネスサイドもグローバルに人材を迎い入れた。全米に放送網を持つニュース番組に取材を受けるなど、再び幸先の良いスタートを切った。

しかしこの度も、新規会員数は月に1〜2千人と安定して獲得するものの、継続率や有料課金率において結果が出ずに、真田は苦しめられていった。同時に、運悪く、トランプ政権による移民政策の厳格化の影響でビザの申請が却下され、渡米の目処がつかない中で日本からリモートで仕事をするはめになった。真田は、時差の影響もあり、過労とストレスに追い込まれ、医者から不整脈の診断を受けるなど、本人が「死の谷」と表現するほど、極限状態で事業に向き合う日々を送っていた(後に重症化し心臓の手術を受けるに至ったが、今では溌剌と働いている)。真田は自身のブログで以下のように語る。

「起業家は皆『死の谷』を超えて成功していく、とよく聞きます。僕にとって最初の死の谷(この先きっとまたもっと大きなものがあると思います)がこの瞬間だったと思います。全てを投げ捨てて逃げ出すことも選択肢としてありました。なぜこんな辛い思いをして、即死リスクまで抱えて起業生活を続けなければならないのか。僕には愛する妻と3歳・1歳の子供達がいます。彼らを置いて死ぬことなど、天地がひっくり返っても許されない。一方で、命を賭してでも成功すると誓って、全てを投げ打って始めたシリコンバレーでの起業をこんな簡単に諦めてたまるものか。なぜここまでしてでも起業しなければならないのか、本気で考えました。金儲けのため?誰かに認めてもらいたいため?シリコンバレーのCEOというそれらしい響きに陶酔したいため?日本の現実から逃げるため?全てNoでした。一つだけYesと胸を張って言えるものがありました。それは、『人々が情熱の矛先を見つけ、最高のアウトプットを出し、その力で世の中がもっと良くなっていく世界観を遠く、遠くまで広めたい』という、僕に与えられた使命感を全うするために他なりませんでした」

WeAdmitの誕生

真田は「死の谷」を乗り越え、変わった。購入者である親と消費者である生徒の声に耳を傾け、彼らの成功を真に考え抜いた結果、本質的なニーズに辿り着き、再びピボットを決意した。真田は、日本に滞在する中で知ったマンツーマントレーニングの「RIZAP」と、当時アメリカで急成長を遂げていた出世払い型のブートキャンプ式プログラミングスクールの「Lambda School」からエッセンスを取り出し、マンツーマン型・出世払い型のオンライン大学受験コンサルサービス「WeAdmit」をローンチした。2019年3月のことだった。同年9月には、そのアイデアが評価され、日本のVCおよびエンジェル投資家から約110万ドル(約1.2億円)の資金調達を実施した。資金調達以後、WeAdmitは順調に事業を拡大し、現在までに約100人以上の生徒を志望大学に送り出し、今日現在も受験準備に励む150人の生徒を抱えている。

業績は伸びていたものの、労働集約型のモデルであるがゆえにスケーラビリティに課題を感じていた真田は、2021年5月頃に「Cohort-Based Courses:コホート型コース(以下、CBCs )」のトレンドを察知し、自らプログラムに潜り込むなどして分析を始めた。CBCsとは、シリコンバレーの最先端で注目され始めている新しいオンライン学習の手法だ。真田のブログによると「これ(CBCs )は、オンラインコースに学習者のグループが同時に参加し、同じペースで学ぶラーニング手法を指します。講師はインストラクションを行ったり場の取り仕切りを行いしますが、学びの多くは、学習者同士がリアルタイムで発見したことを共有したり、お互いに励まし合ったりすることで得られます」という。つまるところ、CBCsとは、既存の学校のようなコミュニティ型のオンラインスクールだ。CBCsの分析を通してその価値に衝撃を受けた同時に、その現存のプログラムに対して違和感を感じた真田は、同分野での「世界一」への勝ち筋を見出した。真田は以下のように語る。

「コホート型コースのトレンドを牽引し、アメリカのトップVC『Andreessen Horowitz』などからシリーズAで約20億円を調達する、凄い勢いで成長中の『Maven』という会社を知り、そのプログラムを自ら消費してみたところ、『なんだこれは。このレベルなら自分の方が全然良いものができる』と思いました。というのも、日本の人材系上場会社の『リンクアンドモチベーション』で大学在学中に2年間インターンをしていたのですが、僕にはコホート型コースが、同社が2000年代前半から得意としてきたユニークな対面式のワークショップをDX化したもののように見えた一方で、同社が精緻に作り上げた高品質の学習体験には遠く及ばないと考えたからです。『Mavenがコホート分野での世界先進事例と言われていてこの品質なら、自分は世界一を取れる。世界一のものを作れる』と冷静な肌感で感じました。彼ら『Maven』は、クリエイターエコノミーという大きな世の中の流れの中で、あらゆる分野のクリエイター達が作ったコホート型コースを流通させるマーケットプレイスとして世界一を目指していますが、私達は、事業ドメインを進学・アーリーステージのキャリアに絞り、コホート型コースのコンテンツ作りにおける品質の高さなら『WeAdmit』が世界一だと言われる地位を築きたいと思っています」

真田はすぐさまCBCsのプログラムを開発し、同年7月にローンチした。ユーザーからの反響は大盛況で、最後にはZoom越しでスタンディングオーベーションが起こったほどだ。ユーザーの修了率も、「MOOCs」という録画コンテンツ型のオンライン講座が5〜10%であると言われていることに対して、同社は80%近くに達したという。ローンチの翌月、かのMavenからWeAdmitのプログラムの品質が評価され、Mavenの現状40人ほどの少数精鋭の講師の1人に真田が選ばれた。プラットフォームが、コンテンツに対して敬意をもって手を差し出した瞬間だった。真田は、自らのビジョンに向かって、着実に羽ばたき始めている。

(画像:Maven公式サイト。右端が真田)

オンライン学習のあり方を再定義

「ビジョンとしては、キャリアに真の自由がある世の中を作りたいと思っています。どんな人でも自分の情熱を見つけて、その情熱の先のキャリアに自分を投じることができる世の中です。そのためにはまず、キャリアの選択肢が広く示されておりロールモデルが見つかること。次に、ロールモデルになるための方法論が透明化されて見えていること。最後に、その見えている道筋を進むサポートが得られること。この3つに尽きると思っています。この3つをどうやって最適化できるかということを、大学受験バージョンでこれまでやってきました。これに、新しい教育手法である『コホート型』を融合して、今事業を進化させているフェーズです。オンライン学習のあり方を再定義できると僕は思っています」

世界のオンライン学習の再定義に挑む日本人起業家、真田諒。真田の一貫した言動・行動から、「人のキャリア」に対する溢れんばかりの本物の情熱が伺える。1人でも多くの若者が、真田率いるWeAdmitと出会い、自らの情熱を見つけることを願うばかりだ。情熱は時に世界を変える。真田のそれのように。


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