Published 26 Sep 2022

【解説】信託型ストックオプションとは。基礎からメリット・デメリットまで

【解説】信託型ストックオプションとは。基礎からメリット・デメリットまで

はじめに

ベンチャー企業やスタートアップ企業での現金以外のインセンティブとして用いられることが多いストックオプション制度ですが、スキーム種類が多かったり、それぞれのメリット・デメリットがあったりと理解が難しいと感じる人も多いと思います。

しかし、上場を考えているベンチャー企業やスタートアップ企業の経営者はインセンティブの選択肢として魅力的なストックオプションについて理解しておく必要があるでしょう。

この記事では弊社が上場を考えているベンチャー企業やスタートアップの経営者に最もおすすめしている信託型ストックオプションについての理解をゴールとして、そもそものストックオプションの基礎知識や種類、それぞれのメリット・デメリットなどを説明していきます。


ストックオプション制度とは

ストックオプションとはあらかじめ決められた価格(権利行使価額)で自社の株式を購入できる権利を指します。購入できる価格や、期間、数量は契約により定められます。

権利行使価額より株価が高い場合、自社の株式を購入後、すぐに市場で売却すれば権利行使価額と株価の差分の利益を得ることができます。

例えば、ある会社がある社員に権利行使価額が1株1,000円として設定されたストックオプションを付与したとします。その後その会社は上場し、株価は5,000円となったとします。社員はストックオプションの権利を行使し、1株1,000円で500株購入し、5,000円で売却したとします。この場合、1株につき4,000円が利益として得られることになり、全体の利益は2,000,000円となります。

このように、ストックオプションは、発行後に株価が上昇すればするほど大きな利益を得られるという仕組みであり、社員が株価の上昇に貢献するモチベーションを向上させることができます。


ストックオプションの種類

ストックオプションの種類は大きく無償ストックオプションと有償ストックオプションに分けられ、さらに無償ストックオプションは税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションに分けれら表にすると以下のようになります。


無償ストックオプション

無償ストックオプションとは発行価額(ストックオプションを発行し付与するときに付与対象者が支払う金額)が無償として付与されるストックオプションのことを指します。

無償ストックオプションのうち、税制適格要件を満たしたものを税制適格ストックオプション、満たしていないものを税制非適格ストックオプションといいます。

税制適格要件を満たさない限り、税務上は給与としてみなされ、売却時に加え、権利行使時に最大約55%の給与課税が適用されます。

有償ストックオプション

有償ストックオプションとは、無償ストックオプションとは異なり、ストックオプションを発行し付与するときに付与対象者が発行価額を支払って購入するストックオプションです。

有償ストックオプションは無償税制適格ストックオプションと同様に給与所得として見なされないため、権利行使時の給与課税は発生しませんが、付与対象者側の金銭的負担があります。

未上場ベンチャー企業でのストックオプション

これらの無償ストックオプションや有償ストックオプションを活用した様々なインセンティブ制度がありますが、未上場ベンチャー企業やスタートアップでは主に無償税制適格ストックオプションまたは有償ストックオプションがインセンティブ制度として利用されています。


従来のストックオプションの特徴とデメリット

このように未上場ベンチャー企業やスタートアップでインセンティブとして利用されているストックオプションですが、「発行のタイミングで”誰に”、”いくつ”のストックオプションを割り当てるか決めなければならない」という大きな特徴となるルールがあり、それによりいくつかのデメリットが生まれています。

デメリットとなるケース

  • ストックオプションを割り当てた後、想定していた活躍をしなかったためフェアなインセンティブとして機能しない。
  • ストックオプションを割り当てた後にその社員が退職してしまい割り当てたストックオプションが無駄になってしまう。
  • ”誰に”、”いくつ”割り当てるか決めずに一度に大量に発行することができず、何度も発行し、その都度割り当てることになるため、コストと手間が大きくなる。
  • ストックオプションは基本的に時価より安い行使価格で発行することができないため、後から発行されたストックオプションは行使価格が上がり、1個あたりの価値・魅力が下がってしまう。それにより、後になって1個あたりの価値が下がったストックオプションで価値のあるインセンティブを与えるためには数量を増やす必要があり、希薄化が進んでしまう。
    • 例)1,000万円分のインセンティブを与えたい
      • 1回目の発行時の1個あたりの価値:500万円→付与すべきSO数:2個
      • 3回目の発行時の1個当たりの価値:100万円→付与すべきSO数:10個


        信託型ストックオプションによる解決策

        前述のような従来のストックオプションのデメリットを解決するために考案されたのが信託型ストックオプションです。

        信託型ストックオプションとは「発行時点で一度すべて信託(受託者)に割り当て、実際にストックオプションを受け取るべき役員・従業員(受益者)には上場時、上場後など任意に契約で定めたタイミングで改めて割り当てる」という仕組みのストックオプションです。

        最も大きな違いは「発行時点で一度すべて信託に割り当てる」ということであり、従来のストックオプションのデメリットを生んでいる要因である「発行のタイミングで”誰に”、”いくつ”のストックオプションを割り当てるか決めなければならない」という特徴と大きく異なっています。

        信託型ストックオプションの発行のフローは以下のようになっています。

        1. 何個のストックオプションを発行するか決める
        2. 発行したストックオプションをすべて信託に割り当てる
        3. 任意に契約で定めたタイミングが来るまでに誰に何個割り当てるか決める(通常人事評価などに基づく)
        4. 任意のタイミングが来たときに実際に信託から役員・従業員などに改めてストックオプションを交付する。
        5. 割り当てられた役員・従業員は契約に基づいて定められたタイミングでストックオプションをを行使、株式を売却しキャピタルゲインを得る。



        信託型ストックオプションのメリット

        ここまでの説明からわかる通り、信託型ストックオプションの「発行時点で一度すべて信託に割り当てる」という特徴は「発行のタイミングで”誰に”、”いくつ”のストックオプションを割り当てるか決めなければならない」という従来のストックオプションのデメリットを打ち消すことができるため以下のようなメリットがあります。

        • 発行のタイミングで実際の受益者に割り当てる必要がないため、予測ではなく実績に基づいてストックオプションを付与することができ、インセンティブをフェアにすることができ、また、ストックオプションが無駄になることを防ぐことができる。
        • 発行のタイミングで実際の受益者に割り当てなくていいので、”誰に”、”いくつ”割り当てるか決めずに一度に大量に発行してしまうことができる。それにより、SOの一個当たりの価値が同じになり管理が楽になったり、希薄化を防ぐことができる。また、時価が低いタイミングでたくさん発行すればその分1個あたりのストックオプションの価値を高めることができる。



        信託型ストックオプションの注意点

        このように、従来のストックオプションの課題を解決できる信託型ストックオプションですが、導入にあたっては以下のような注意点があるため、専門家ときちんと相談したうえで導入を検討する必要があります。

        • コストがかかる

        信託型ストックオプションを発行する際には金銭的コストがかかります。かかるコストは主に

        • 信託フィー
        • 設計コンサルティングフィー
        • 信託拠出金など

        特に3つ目の信託拠出金などは信託の委託者(創業者・株主など)の個人的な負担となるため、委託者となる創業者や株主に十分な資金がある必要があります。

        • 法的な整理が複雑である。

        信託型ストックオプションは比較的新しいスキームであるため、法改正などによりスキームに影響が生じる可能性があります。


        信託型ストックオプションの導入方法

        信託型ストックオプションの導入方法は主に信託型ストックオプションの導入コンサルティングを行っている事業者に相談し、最適な設計を行い、実際に発行のプロセスにすることになります。

        信託型ストックオプションの発行には民事信託を利用するものと、商事信託を利用するものの2つのパターンがあります。

        弊社では現状の商事信託の唯一の選択肢である、コタエル信託による「時価発行新株予約権信託®」を推奨しております。

        コタエル信託は信託型ストックオプションのスキームを考案・設計した松田良成弁護士が代表を務める信託型ストックオプションスキームの提供者であり、多数の実績とノウハウを有しています。


        詳細はこちらからご確認ください。
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