UI/UXにおける「改善」というと、大規模なリニューアルやトレンドに即したビジュアル変更をイメージする人も多いかもしれません。
ですが、実際にはユーザー体験を大きく左右するのはほんの数ピクセルの配置やひとつのラベル文言の違いだったりします。
私、森下景一がこれまで関わってきたプロジェクトのなかでも、劇的な成果につながった改善は必ずしも「目立つ変更」ではありませんでした。
ユーザーの行動データや視線の流れ、心理的なブロックポイント――それらを丁寧に観察し仮説と検証を繰り返すことでUIは“機能”から“体験”へと昇華していくのです。
今回、以下に紹介する3つの事例はそれぞれ異なる目的と構造を持つプロダクトだが、共通していたのは「ユーザーが自然に行動できるデザインとは何か?」を突き詰めたプロセスです。
1、フォーム離脱率を28%改善したシンプルな再設計
ある申し込みフォームでは、完了率が想定より大きく下回っていました。特にモバイルユーザーの離脱率が高く、途中まで入力して離脱するケースが多発していた。
原因を探るために、ヒートマップとセッション録画を分析した結果、フォームの長さと構造に課題があると判明しました。
スクロール負荷が高く、現在どの項目まで完了しているかが視覚的に分かりづらい。ユーザーは「終わりが見えない」状態で入力を続けており、それが途中離脱につながっていました。
この課題に対して行ったのは、以下の3つの改善です:
・入力項目を3ステップに分割し、ページを分ける
・各ステップに進捗バーを設置し、現在位置と残り項目を明示
・重要項目以外は後半に移動し、最初の完了体験をスムーズにする
改善後、申込完了率は全体で約28%上昇。モバイルユーザーの完了率は特に高く、見通しの良さと安心感がユーザーの行動を促す要因であることが明らかになりました。
2、「カートに入れる」が押されない理由と視線の設計
あるECサイトにおいて、商品詳細ページから「カートに入れる」ボタンのクリック率が伸び悩んでいました。
UI上ではボタンが明確に表示されており、ラベルも適切だったがユーザーは意図どおりにアクションしていなかった。
ヒートマップ解析により、視線の流れが画像から商品説明の中段に向かっており、カートボタンがその動線から外れていたことが分かったのです。
加えて、ボタンの色がページ全体の配色と調和しすぎており、視認性が低下していました。
このケースでは、次のようなUI変更を加えました:
・商品画像の直下にボタンを移動し、視線の自然な終点に配置
・ボタンカラーを補色ベースに変更し、周囲との差異を強調
・ボタン付近に「残り在庫:わずか」といった希少性の要素を表示
結果、ボタンのクリック率は約1.7倍に増加。また、回遊率や滞在時間の向上も見られ、ボタンの配置と周辺情報のデザインがユーザーの行動を明確に変化させた例となりました。
3、情報サイトの回遊率を高めた視覚的導線の再構築
ニュース・コラム系の情報サイトにおいて、「1ページ読んで離脱する」ユーザーが多く平均PV数が低下傾向にありました。
記事の質は高く、検索流入も安定していたがサイト全体としてのエンゲージメントが弱い状況でした。
この問題は、視覚的な誘導と情報構造の設計によって解決可能だと私、森下景一は判断しました。
改善のポイントは以下の通りです:
・人気記事ランキングをトップページ上部に常設
・記事一覧をカード型に統一し、サムネイルサイズと余白を再設計
・サムネイル画像の明度と統一感を意識し、視認性と可読性を両立
これにより、ユーザーは「次に読むべき記事」をページ遷移せずに視認できるようになりました。
結果として、1ユーザーあたりの平均PV数は約1.4倍に増加し特にスマートフォンでのスクロール距離と直帰率の改善が顕著でした。
構造の中にある“感情”を読む
これらの改善事例に共通しているのは、単に見た目を調整しただけでなくユーザーの行動の背景にある心理的負荷を減らすことを目的とした点です。
UIは情報の整理であり、意志決定の補助でもあります。過剰な演出は不要ですが、情報の配置や視線の流れや文言の一つひとつには使い手の感情が影響を受けます。
だからこそ、データを読み、構造を整え、そこに“使いやすさ”という安心感を設計することがUI改善の本質だと感じています。
UI改善は、積み重ねが力になる
劇的なビジュアル変更よりも違和感を言語化し、構造を整理するプロセスこそがユーザー体験の質を高めます。
一つひとつの改善が小さくても、それを継続的に積み重ねることでプロダクトやブランドへの信頼が築かれていきます。
UI改善において最も大切なのは、“ユーザーに寄り添う姿勢”を持ち続けること。
その先にある小さな成果こそが、やがて大きな価値になると私、森下景一は信じています。