Published 20 Jun 2024

【山本文和】安心・安全な地域づくりを全国へ。「見守り」に新たな一手を打つ起業家

【山本文和】安心・安全な地域づくりを全国へ。「見守り」に新たな一手を打つ起業家

株式会社otta(以下、otta)は、「子どもたちが安心して暮らせる地域をつくりたい。」という思いから福岡で立ち上げられた企業だ。地域のみんなで見守る街づくりのため、IoT技術を活用した地域参加型の見守りサービスを展開している。拡大フェーズにさしかかってきているという同社が、今の地域社会へ抱く課題感や、それに対して提供しているソリューション、これから目指すことについて、代表取締役の山本文和氏に伺った。インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。


地域みんなで創る安全な街。IoTを活用したタウンセキュリティサービス

福田:最初に、御社が展開する事業の概要を教えてください。


山本:私たちはIoTを活用したスマート見守りプラットフォームを開発しており、その上で、大きく3つのサービスを展開しています。

まず主軸となるのが、自治体と連携したタウンセキュリティのBLE(Bluetooth Low Energy、低電力消費・低コストなBluetoothの規格)見守りサービス。対象地域に住む全ての人が手軽に利用することを目的にしています。

2つ目がGPS端末機能を使った見守りサービス。子どもの安心・安全と親の絆を繋ぎ、万が一の備えと日常の安心や利便性を追求したサービスです。3つ目は、保育園の園外活動時のサポート。園外活動時における見失い対策ソリューションを提供しています。

私たちが一番に考えているのは、地域全体を安心・安全に変えていくこと。個々人の安心・安全を守るためには、地域全体が安心であるべきという理念に基づき、社会的弱者の行動を把握してそのデータを活用しながら、より安心・安全な地域を作っていくための取り組みをしています。


見守りサービスを社会インフラにすることを目指しているotta


福田:BLEの見守りサービスは地域単位での導入をしていらっしゃるので、かなりの規模になりますよね。どれくらいの利用者がいるのですか。


山本:現在は全国38自治体で導入され、アクティブユーザーは15万人を突破しました。加えて、岩谷産業株式会社の配送車両へ導入いただいたり、タクシー配車サービス「GO」のサービスの拡大により「見守りタクシー」として見守りスポットになっているタクシーが増え、移動体のネットワークは4万台以上あります。また、固定のチェックポイントとなる「見守りスポット」は全国に1.5万ヶ所設置されています。


福田:すごい規模ですね。ただ、「地域単位」となると導入ハードルが高いのではないかと思うのですが、それはどのように解消してきたのでしょうか。


山本:昔は自治体が多額の行政予算を用意して導入したり、今もそういう手法を取っている事業会社や自治体があったりするのですが、私たちはそこに真っ向対決していまして。圧倒的な低コストでサービスを導入できるビジネススキームを実現しているのが最大の特徴です。


福田:具体的にどのような切り口からコスト削減を実現したのですか?


山本:不要なものを削り、必要なものだけを残した形でオリジナルの端末を作れていることが一番大きい要素です。また、弊社は今年で10年目を迎えて事業の規模も大きくなってきているので、物量のカバーができていることも大きいですね。


新たな事業や見守り端末に表れる「子どもたちの安全を守りたい」という思い

福田:祖業は小学生を対象としたBLE見守りサービスである中、さらに保育園の園外活動に事業展開をされた背景を教えてください。


山本:きっかけは数年前に発生した登園バスでの置き去りです。「子どもの見守り」をテーマに、小学生を主な対象としてサービスを展開してきましたが、保育園でもたくさんの課題があるとその時気づいたんです。抱えている課題について実際に保育園にヒアリングしたところ、保育士の負担が大きく見失いが想定以上に多く発生している現状が見えてきました。特に都心部では園庭がない保育園が増えており、2人の保育士で15人のお子さんを公園に連れて行って帰ってくるようなことが少なくないのだそうです。少ない人数で目視だけに頼って子どもたちを見ることには限界があり、見失いのリスクが隣り合わせ。そこへ弊社のプロダクト技術がハマると考え、園外活動の際に先生から離れるとアラートが鳴るようなサービスの提供を開始しました。


福田:小学生の場合はランドセルにストラップでつけるタイプや、お守り型のタイプのなどの見守り端末がありますよね。保育園児に関してはどのような端末形態になっているのでしょうか。


山本:保育園児向けには2種類提供しています。1つが子どもたちが身に着けている名札の中に入れる名札型。これは一番利用者が多いですね。もう1つは、腕に巻き付けるパッチンバンド型のものです。


福田:子どもたちの着脱のストレスがないように、かつ保育士の方々にも負担が少ないような形態になっているのですね。そういった端末形態にはどのようなこだわりがあるのでしょうか。


山本:私たちが一番大事にしているのは、「負担がなく使い続けられること」と「持つ理由を親が子に説明しやすいこと」の2つです。負担が大きいと使いづらいのはイメージしやすいかと思いますが、「理由の説明しやすさ」は意外と見落としがちで。例えば「犯罪に遭うことがあるかもしれないから持っていてね」は、一見伝わりやすいようですが、犯罪というものを身近に捉えられていない子どもたちはなかなか理解できず、結果的に持たなくなってしまうんです。でも「お守りだから持っていてね」なら、常に身に着けるものであることがわかりやすいですし、笛型の見守り端末だったら「何かあったときにこれで助けを呼んでね」という目的もわかりやすいですよね。このように持たせる理由があると、親としては説明しやすく、子どももわかりやすいのです。こうした要素は、子どもが持ち続ける上で非常に大事なものであると考えています。


「見守り」が抱える課題と、ottaのソリューション


福田:「地域で子育てする」という意識が希薄になってきている現代だからこそ必要とされている部分もあると思うのですが、「地域で見守る」ことを推進する意義をどのように感じて事業を展開されていますか。


山本:13歳未満の子どもを対象とした犯罪の件数自体はほぼ横ばいなのですが、人口の減少に伴い、犯罪の被害者となる子どもの割合が増えています。その背景にあるのがやはり、地域の繋がりの希薄化。これにより、「見守りの空白地帯」と言われる、子どもしか存在していない空間や時間帯がいたるところで生まれてしまっているのです。それはつまり、子どもを対象とした犯罪が発生しやすい環境ができてしまっていることを意味します。2018年に発生した新潟市西区・女児誘拐殺害事件は、まさにその下校時間帯の通学路で発生しました。ただ、見守りを地域全体で取り組んでいくべきである一方で、その担い手不足により、カバーできない時間帯が増えています。昔は地域住民の繋がりが濃かったので、地域で見たり、高齢者がサポートしたりできていましたが、今はそうはいきません。ですから、少ないリソースでも安心・安全な地域が実現できる構造改革をしていくことが必要なのです。その考えから、私たちは「地域で見守る」に挑戦しています。


「子どもたちが安心して暮らせる地域をつくりたい。」の思いからできたotta


福田:素晴らしいですね。まさに今求められているソリューションだと感じます。「地域での見守り」には子どもたちだけでなく、高齢者も含まれ、2021年のインタビューで「ゆくゆくは高齢者の見守りにも」とお話しされていました。現状はどのようにお考えですか?


山本:高齢者は子どもと行動パターンが違うので、見守りエリアの定義が一番の課題でした。ただ、この10年間のいろいろな取り組みによって現在38自治体までエリアが広がり、徐々にナレッジもたまってきています。それにより、高齢者向けのサービスも実現に向けて動き出すことができており、数年前からトライアルを始めました。実際にやってみて、BLEの技術が高齢者の見守りに想像以上にフィットすることが分かってきています。今まではGPS端末が使われてきましたが、電池寿命の壁やサイズ感、かかるコスト等の問題を抱えていました。いずれも環境が整っている前提であれば、私たちのソリューションが非常にハマることが実証できています。来年からは、もう少しウェルネスに寄った見守りとして、本格的に高齢者向けのソリューションにも取り組んでいきたいと考えています。


地域の安全から、活性化、そして海外へも。ottaの現在地とビジョン

福田:御社はOEM事業として、これまで電力会社などとタッグを組んで広げてこられたと思います。その初期フェーズから変わってきているように見えるのですが、御社の現在地についてどのようにお考えですか。


山本:現在は「otta」という自社のブランディングで広げられるようになり、拡大フェーズに入ってきています。それに伴い、新たに「エリアオーナーモデル」というスキームの展開を始めました。これは、私たちの見守りサービスに協力企業として共同参画いただくモデルで、協力いただいた民間企業の地域貢献と事業展開も実現します。エリアオーナーのブランド名で私たちがサービスを提供することで、その地域にそのブランド名を浸透させ、その会社が社会貢献をしていることを見える化する。他方でエリアオーナーは、行政と連携してそのエリアの全ての子どもたちにリーチすることが可能な弊社のビジネスモデルを生かし、新たな事業展開を検討することができる。そうした、私たちのサービスを核に、地域全体を活性化する取り組みです。現在は、岩谷産業や東北電力、地銀の子会社、ケーブルテレビ局、不動産屋などさまざまな業種業態に興味を持っていただいています。


福田:企業としては、地域の安全や安心を提供することでそのエリアのインフラをみんなで守っていこうっていうメッセージになるでしょうし、将来的な顧客基盤を維持する意味でも非常に面白い仕組みですね。地域という観点で、御社は福岡という地域を拠点とされていますが、地方都市を拠点にスタートアップ企業を運営するメリットをどんなところで感じていますか。


山本:実は、私たちのサービス展開地域は東京都以外が多いんです。というのも、東京よりも地方の方が横の繋がりが強いと思っているんですね。例えば、福岡市で導入すると福岡市近隣の自治体さんにも興味を持っていただけるようなことが結構あるんです。また、子どもや高齢者に関する社会課題に直面しているのも地方なのではないかと思います。特に、子育て世帯を増やすための流入施策に力を入れてるのは東京よりも地方ですから。そういう意味で、私たちのように地方と相性の良い企業があると思います。

インタビューの様子


福田:ちなみに、海外展開は視野に入れていますか?

山本:サービスのフレーズに「タウンセキュリティ」とあるように、弊社のサービスは街単位でのセキュリティアップなので、そういう意味でアジア圏の進出を考えています。それに向けて、特許戦略をしている状況です。

福田:最後に、資金調達や今後の展望についてこの機会に伝えたいことがあれば教えてください。

山本:弊社の現在の投資ラウンドとしては、シリーズA+の位置づけになります。もしかすると最後の調達フェーズになるかもしれないのでぜひお声がけいただきたいです。自分たちの子どもを守るためにも、ネットワークをさらに強化したいと思っているので、様々な連携ができたらと思います。また、近頃はエンジェル投資家の方が非常に増えているんです。というのも、自分の地元への愛が強い方が非常に多くて、「地元のためにこれを導入したい」という思いで応援していただいています。そういった思いのある方も、ぜひお声がけいただけたら嬉しいです。

インタビューを終えて

「地域社会全体での見守り」の重要性を分かっていながらも、仕事や時間の都合でなかなか見守る要員にはなれない。そんなもどかしさを抱いている人は少なくないのではないだろうか。かく言う私もその一人であり、また2018年の事件はまさに私の地元である新潟市で発生したことも相まって、地域のために何かできることはないのかと言う思いを抱えていた。そんな中でottaのサービスの魅力は、より安心・安全な地域をつくれることだけでなく、従来は「見守り」になかなか協力しづらかった人たちが参加できることにもある。仕事中でもスマホ一つ持っていれば「見守り人」になれたり、タクシーや運送業で働く人も「移動」を強みにしながら見守りスポットになれたり、地域企業がエリアオーナーとして貢献したり。それぞれができることの範囲で「見守り」の一員になれることは、地域の課題解決に向けた大きな一手となっていることだろう。


【担当ライター】安藤 ショウカ


株式会社otta 事業概要

子どもから高齢者まで全ての人が安心・安全に暮らせる街「スマート見守りシティ」を実現するために、ottaタウンセキュリティ・BLE見守りサービスを2015年より提供。ottaの見守りサービスは、IoTテクノロジーを活用することで見守る人(保護者)も見守られる人(子どもや高齢者など)も負担なく利用できる仕組みを実現している。手軽に利用できる仕組みが好評となり、現在は東京都や大阪府などの38都市で見守りサービスを提供、日本最大規模のIoT見守りサービスとなっている。


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/companies/otta



会社名:株式会社otta

URL:https://otta.co.jp/

設立:2014年10月24日

代表取締役社長:山本 文和

本社:福岡県福岡市博多区下川端町1-1明治通りビジネスセンター本館6F

事業内容:スマート見守りプラットフォームの開発と運営


事業内容:

・IoTを活用し、BLEビーコン技術によるあんしん見守りサービス「otta見守りサービス」

https://www.otta.me/

BLE見守りサービス:対象地域に住む全ての人が手軽に利用できる見守りサービス

GPS見守りサービス:万が一の備えと日常の安心・利便性を追求したい新しい見守りサービス

・GPSによる位置記録機能を搭載し、ボイスチャットでスマホと会話ができるスマート防犯ブザー「otta.g」

https://www.ottag.jp/

・Home Gatewayや防犯カメラなどを通じ、街中での位置情報を通知するWebサービスのOEM

・保育園・幼稚園と保護者双方で園児の位置がわかる “登園バス見守り(置き去り防止)サービス

https://otta.co.jp/2022-10-19/



山本文和氏 プロフィール


半導体ロボットエンジニア(広島日本電気株式会社)としてキャリアを開始。その後、業務システムのプログラマー・SE、スマホアプリ開発ディレクターを歴任し、組み込み機器からサーバー/クライアントサイドまで、IoTシステム構築に関わる全ての開発を経験。自分の子どもを守りたいという思いから、日本初のBLEを活用したIoT見守りサービスを提供する株式会社ottaを創業。

【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/users/98068404-04cd-47b2-bcbd-97b6e62cd6c2


【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集

otta サービス紹介動画

https://www.youtube.com/watch?v=5m2DAT6Eczs

otta shop

https://otta.shop/

otta blog

https://www.ottag.jp/blog/

関西電力送配電がお届けする新しい見守りサービス OTTADE!

https://www.ottade.jp/

九州電力送配電がお届けする新しい見守りサービス Qottaby

https://www.qottaby.jp/

renew「IoTテクノロジーを活用した、子どもからお年寄りまで安心して暮らせる街づくり|otta 山本文和さん」

https://biz.ncbank.co.jp/posts/557/

INDEPENDENTS「子どもから高齢者まで、誰もが安心して暮らせる“スマート見守りシティ”をつくる」

https://www.independents.jp/article/1801

インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール

東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。

㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。

2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。

(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ 

iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授

NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41