Published 07 Jun 2024

【矢野健太】新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する起業家

【矢野健太】新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する起業家

株式会社パンフォーユー は「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」をミッションに、独自のパン冷凍技術・パン屋さん向けSaaSプロダクト・販路拡大戦略を展開。冷凍パンの概念を覆すようなそのサービスは、多くのメディアにも注目されているが、代表取締役の矢野健太はパン経済圏の現在と未来をどのように捉えているのだろうか。

インタビュアーは、エンジェル投資家の福田和博氏が務める。


【カンブリア宮殿】

https://youtu.be/jzhxuVL_c0I?si=rVZ5n6-npjXONHpO


日本中にパンを届ける技術: 偶然見つけた「冷凍パン袋」

福田: まずパンスクのサービス紹介を知った時に気になったのは、「冷凍パン用の独自の袋」です。こちらは、パンスクの要ともなる技術なのかと思いますが、どのように開発・選定できたのでしょうか?


ー矢野: 実は、パンに使うには勿体無いくらいのかなり高品質な袋を、たまたま使ってみたことによる発見だったのです。

 もともとパンフォーユーは冷凍パンメーカーの販売店として事業をスタートしており、はじめは私が自分で袋詰めを行なっていました。当時扱っていたのが高級パンでしたから、とにかく良い袋に詰めようと、1枚10円ほどするパンに使うにはかなり高価な袋を使っていました。

 しかし、そのパンメーカーと提携が解消されてしまい、袋が余ってしまったのです。そこで、余った袋を他のパン屋さんにお渡しして冷凍パンの袋詰めに使っていただいたところ、偶然にも焼きたてのおいしさをそのまま閉じ込めて美味しく冷凍できるとわかったのです。

弁理士さんに相談してみたところ、特許も取れました。


ー福田: なるほど。こうした背景で、現在は焼き上げたパンを冷凍して送るという事業で、パンフォーユーは競合優位性をもっているのですね。


ー矢野: はい、ただこちらは極めて真似しやすい特徴ということで、投資家さんにはよく質問されるんです。しかし、これは裏返すと、パン屋さんにとって、大きな設備投資や工数がなく導入できるというメリットにもなっているのです。


ー福田: そうですね。冷凍技術というと最近は、お寿司やお魚に対してアルコールの液体で急速冷凍することでディップが出ないようにする技術などが話題ですよね。私も以前、冷凍事業者に投資したことがあるのですが、急速冷凍機というのはかなりコストのかかる設備です。そうした中、お店で汎用的な冷凍庫を使ってサービスに参入できるというハードルの低さが、全国のパン屋さんにパンフォーユーが広がっている一つの理由なのですね。


  パンフォーユー創業翌日の矢野社長


福田: そんな中でも、やはり冷凍パンと聞くと「風味が落ちる」「ぱさぱさしている」といった従来のイメージを持っていらっしゃる方もまだ多いです。パンフォーユーさんでは、パンを冷凍することによるおいしさの調査を行なってプレスリリースなどで発信してらっしゃいますね。ほかにも、冷凍パンのおいしさをお客様に伝えるための工夫は何かされているのでしょうか。


ー矢野: うーん、そうですね。正直、冷凍という言葉はネガティブなイメージを持ってしまう方もいらっしゃいますので、「冷凍パン」という打ち出し方はあまりしていません。それよりも、冷凍することはあくまで手段であり、様々な地域のこだわりのパン屋さんの味がそのまま食べれるという価値をうち出すようにしています。


ー福田: なるほど。パン屋さんの美味しいパンを届けることが、第一のメッセージなのですね。


ー矢野: はい。ウェブ記事ですとなかなか伝わりにくいのですが、対面でお話しするときは、皆様に冷凍パンを袋のままレンジで温めてもらい、袋を開けていただきます。袋を開けたときのパンの香りがすごいんです。このときのパンの香りというのは、パンフォーユーの魅力の一つでもありますので、体験していただくようにしています。


ー福田: では資金調達などのピッチをするときも、パンを持っていって袋を開けてもらう、という演出もされてるのですか?


ー矢野: そうです。袋を開けていただいたとき皆さんわーっと驚かれるのですが、その感動を大事にしています。


パンを作る人、売る人、食べる人の三方よしを実現

福田: toB連携という視点では、従来のパン業界の課題、さらには社会課題も解決する可能性を秘めたサービスだというふうにお話しされていますよね。まさに地元に根差したサービスだと思いますが、改めてそういった活動への想いを聞かせていただけますか?


ー矢野: 地域のパン屋さんは、朝から地元の方に美味しいパンを届けたいという思いで、7時〜9時くらいからお店を開けています。そのために朝3時4時から手作りでパンを焼いているのです。こうした従来のモデルは、誰かを雇って量産することが難しいため、結果オーナーさんが一人でやるしかなく負担が増えてしまう、そういった構造的課題があります。パンスクの配送システムを活用すれば、パン屋さんが忙しい朝から昼までのピークを避けて、午後をパンスクの配送作業に充てることができるなど、時間の有効活用ができ、朝からの店頭販売に注力することもできます。こうしてパン屋さんのライフスタイルをより働きやすくしていくことにも今後寄与できるのではないかと考えています。

 パン屋さんは街になくてはならない存在です。パンフォーユーでパン屋さんがサステナブルに営業できる世界に寄与できると思っています。


パンフォーユーのサービス概要




福田: 最近は冷凍パン生地屋さんも出てきましたよね。生地の生成というパン作りの工程においても手間のかかる部分に対してアプローチしていると思うのですが、こういった流れはどのようにみていらっしゃいますか?


ー矢野: 冷凍パン生地を使ったパンは従来より大手企業を含めて多くあります。しかし、冷凍パン生地を焼くという工程も、手間や慣れが必要なのです。今後ますます人手不足が進む中、焼成冷凍というパンフォーユーの技術はますます需要を増やすのではないかと考えております。


ー福田: なるほど。パンをこねて焼くという工程の生産性向上と、それを商品としてより広い商圏へ出していくという事業では、それぞれ違った価値提供ができるということですね。


ー矢野: はい、例えばカレーパンなど冷凍生地でも対応が難しい特殊なパンは「パンフォーユーBiz」を利用していただくなど、使い分けているお店もありますよ。


ー福田: パン屋さんにとって様々な選択肢を提供する中で共存共栄しているのですね。ところで、カレーパンといえば、矢野さんの3年前のノートに「次はNEOカレーパンブームがくると思う」と書いていらっしゃったのが興味深かったです。矢野さんがいま考える次のパンブームや、それをどうパンフォーユーのサービスに落とし込むのかなど、伺ってみたいです。


ー矢野:NEOカレーパンは、ザクザク食感のカレーパンが人気となりました。パンスクにもよく入っていました。次のトレンドは、超高級惣菜パンなのではと考えています。レストランで出てくるようなレベルの料理がサンドイッチとして挟まっていたり、お肉やバターなどの具材が超高級ブランド食材で、それを全面に打ち出したりした超高級パンが人気になってきているのです。


ー福田: そうなんですね!ちなみに、具体的にはどういった具材の高級惣菜パンがあるのでしょうか?


ー矢野:パテ・ド・カンパーニュや、フランス産の分厚い高級バターが挟まったあんバターパンは、都内や大阪のパン屋さんでも行列ができてますよ。


ー福田: 想像するだけでおいしそうです。そういったパンも冷凍することによって全国のお客様に届けることができるようになっていくという、本当に素敵なパンの楽しみ方が広がってきていますね。しかしパンスクは一定料金でのサブスクリプション形式なので、こうした原価が高いパンを入れるのは難しいのでしょうか?


ー矢野: 今はワンプライスで提供しているのですが、今後はパン屋さんのご要望にお答えして、単品販売なども展開していく予定です。先行例として、京都市とふるさと納税に関して連携しました。「このパン屋さんのこのパン」を指名することができますよ。


ー福田: もともとカスタマイズパンの販売から初めて複数のピボットを経て、改めてカスタマイズにも再挑戦ということですね!非常に楽しみにしています。


矢野社長へのオンラインインタビューの様子


地域経済を活性させるためのエクイティスタートアップ支援

福田: さまざまな記事でもおっしゃっていた「地元への貢献」について伺いたいです。私自身もワーケーションとして様々な地方へ行きますが、行政にも事業者にも地方の活性化は非常に難しい課題です。それをスタートアップとして行うのは相当難易度が高いと感じています。地元で事業をされて2年あまりたつかと思いますが、その間の変化など感じられたことはありますでしょうか。


ー矢野:創業のころは、地方創生は収益が上がりづらいのではないかと、リスクマネーが入りにくかったです。従来の地方起業での成長スピードだと、地域経済の衰退スピードに追いつかないと感じる人が増えました。最近の変化としては、人口減少に歯止めをかけるためにも、リスクマネーを入れなくてはと金融機関や行政が動き出す事例がかなり増えました。

 我々も地域系の金融機関さんやVCに入っていただいています。地域経済を活性化させるためのエクイティスタートアップ支援に関しては、劇的に人々の認識が変わっていると思います。


ー福田: そうですよね。私も、地産地消から地産全国消費みたいな、地方の企業がポテンシャルを発揮しやすくなってきたと感じます。例えばクラフトビールやクラフト酒のブームもそうですよね。これまでローカルに消費されていたものが、非常にプレミアム感を持って全国に広がっているなと。まさにパンも、ローカル性やその店舗の個性が出やすいもので、パンフォーユーによって全国へ広がる可能性がどんどん広がっています。このモデルを参考に、別の商材も全国へ羽ばたいていくと素敵ですよね。ぜひこのインタビューを通して皆さんにお伝えしたいです。

世界中の様々な方と、ローカル×グローバルにおいしいパンの経済圏を創っていきたい

福田: 素敵なお話をありがとうございました。最後に、資金調達や今後の展望についてこの機会に伝えたいことはありますか。


ー矢野:今まさに資金調達を行なっていて、シリーズCの案内を各所にしています(取材を行った2024年5月時点)。事業の特性上、大きなところに一度に投資していただくよりも、様々な方と一緒にパン経済圏を作っていくことをしていきたいです。

 そして、今後は海外展開も進めていきたいです。現在日本のパンはシンガポールと香港へ輸出が始まっています。シンガポールも美味しいパン屋さんが増えてきてはいますが、かなり高価なもので日本から輸入する方が割安なんですよね。そこに日本の美味しいパンを届けるという事業の可能性を感じています。

 実は今年からフランス・パリのパン屋さんもパンスクに登場しますよ。パリから日本の食卓やシンガポールにもお届けしていきたいです。


ー福田: それはすごい!ワクワクしますね。一点、物流コストが上昇する中、採算性は気になるところです。例えば配送拠点を構えて、個別配送ではなくある程度バッチで送ってそこから配送する、などでしょうか?検討されてる方向性はあったりしますか?


ー矢野:実は香港は都市型物流が発展しており、物流コストがとても低いです。共同配送も手段の一つにありますが、まずはこうしたエリアからアプローチしていくのが良いかと思っております。


ー福田: 確かにそうしたエリアの特性もみていらっしゃるのですね。パリからきたバゲットなどを家で食べられるというだけでもワクワクしますし、これからパンフォーユーによって描かれるパンの経済圏、私たちの生活に夢が膨らみます。本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

全国のパン屋さんの可能性も、私たちの食卓の楽しみも解き放たれている、そして同時に地域課題も解決していくというまさに「三方よし」を実現しているのが、パンフォーユーのサービスをここまで魅力的にしているのだと思いました。矢野さんの語り口は穏やかで、パンのような温かみを感じますが、その奥にある「パン屋さんの課題を解決したい」「新しいパン経済を創りたい」という情熱を感じました。家にいながら、全国の美味しいパン屋さんの味を楽しめたり、パリから送られてきたパンが食べられたりといった、パンを巡る新しい世界に、目が離せません。


【担当ライター】Ritsuha Tanaka

株式会社パンフォーユー 事業概要

地域パン屋のプラットフォームとして、地域経済に貢献し、新しいパン経済圏をつくる。」を事業ミッションに、独自の冷凍技術とIT技術を駆使し、地域のパン屋さんの課題解決と新たな挑戦をサポートする群馬発のスタートアップ。地方のパン屋さんが作るおいしい冷凍パンを自宅に届ける「パンスク」や職場に届ける「パンフォーユーオフィス」を主なサービスとして提供している。2020年のサービス開始以来、提携ベーカリーは北海道から沖縄まで約100店舗、会員数は4万5,000人(2023年12月末時点)を突破。

【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/companies/886ed83c-2aa7-4dfc-9b1c-14465616bb79


社名 :株式会社パンフォーユー

URL : https://panforyou.jp/

所在地:本社   群馬県桐生市本町五丁目368番9号

    東京支店 東京都港区南青山三丁目3番3号

         リビエラ南青山ビルA館 WORKING PARK EN 305

設立 :2017年1月17日

代表者:代表取締役 矢野健太

資本金:1億円

企業ビジョン :魅力ある仕事を地方にも

事業ミッション:新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する


事業内容:

・全国のパン屋さんから冷凍パンが届く定期お届け便「パンスク」

 https://pansuku.com/

・冷凍庫を置くだけ!食の福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」

 https://office.panforyou.jp

・事業者向けのパンプラットフォーム「パンフォーユーBiz」

 https://panforyou.jp/biz

・ネットで贈れるパンギフト券「全国パン共通券」

 https://bakery-gift.com

・カジュアルギフトとして「パンスク」を活用できる「パンスクギフト」

 https://gift.pansuku.com/


矢野健太氏 プロフィール

1989年生まれ、群馬県太田市出身。京都大学経済学部卒業後、2011年に株式会社電通に入社。その後、地元群馬に貢献したいという思いから2014年に退職し、教育系ベンチャーを経て桐生市を拠点とする特定非営利活動法人で事務局長を務めた。地方に貢献できるようなビジネスを立ち上げてみたいと思う中で、とある冷凍パンメーカーと出会ったことをきっかけに、2017年1月に株式会社パンフォーユーを設立。2018年5月に経営陣によるMBOを実施し、地域のパン屋さんのパンを冷凍で配送する事業モデルを確立した。「新しいパン経済圏を作り、地域経済に貢献する」ことをミッションに、地域のパン屋さんが抱えるあらゆる課題を独自の冷凍技術とITで解決し、パン業界のDXを推進している。


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/users/86a63be1-6483-41f1-a5a1-820c49e2db9a


【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集

【関連リンク】

失敗にめげず、楽しみながら新事業開発に挑戦しつづける方法 〜パンフォーユー 矢野健太氏インタビュー|オフィスの考え方 アスクル みんなの仕事場

【インタビュー】冷凍パンが生む共創の連鎖〜パンフォーユーと大企業 - TOMORUBA (トモルバ) - 事業を活性化するメディア

矢野さんのnote

パンのまち・京都のふるさと納税の返礼品に“冷凍技術×IT”活用のパンフォーユーが採用。関係人口の創出と地域のベーカリーを支援

失敗の9割が新しい経済圏をつくる - かんき出版



インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール


東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。

㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。

2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。

(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ 

iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授

NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター


【PROTOCOLプロフィールページ】

https://protocol.ooo/ja/users/55c8607d-f7a1-46ea-94e5-593785e8db41