EagleImmune Inc.は、従来のシングルターゲット型のがん免疫療法の限界を超え、がん細胞の複数のターゲットを同時に攻撃する画期的なマルチターゲット型の細胞免疫治療法「AIRP技術(Aggregated-Immune-Reprogramming-Platform)」を研究・開発している会社だ。「AIRP細胞の力で固形がんと闘う、がん治療の未来を作る」というミッションを掲げ、より効果的かつ持続可能な治療法の実現と、希望の見える医療の提供を目指していきたいと語る。
「生命の可能性を解き放つ、がん治療の革新者たれ」と語る代表取締役のYing Mu氏に、AIRP技術の開発や日本展開の背景、今後のビジョンについて、エンジェル投資家の福田和博氏が話を伺った。
マルチターゲットがん免疫療法の可能性
福田:御社の事業概要を教えてください。
Ying Mu.:当社は、「AIRP技術(Aggregated-Immune-Reprogramming-Platform)」を独自に開発し、マルチターゲットがん免疫療法に特化した細胞免疫治療法を提供します。これは、がん細胞の複数ターゲットを同時に狙う新しい技術です。
既にアメリカの動物実験(SOP基準)において、ヒト型免疫不全マウス(ヒトすい臓がん)を用い、腫瘍を完全に根絶できることが示され、安全性と有効性が検証されました。今後は、事業化に向けた前臨床研究と開発のスケールアップを進める予定です。
福田:マルチターゲットがん免疫療法に特化した治療法に取り組んでいるとのことですが、がん細胞免疫治療とはどういう特徴がある治療法なのでしょうか。
Ying Mu.:本細胞免疫治療は、患者さん自身の免疫細胞でAIRPによってがん細胞を攻撃する治療法です。私たち人間の体内には、もともと免疫システムが備わっており、体内で異常な細胞を見つけると排除する役割があります。しかし、がん細胞は免疫の攻撃を回避する能力を持っているため、自然な免疫力だけではがんを完全に排除することができません。そこで役立つのが、細胞免疫治療です。
福田:固形がんに対して新たながん細胞免疫治療は、どのような役割を担うのでしょうか?
Ying Mu.:主に三つの役割があると思います。
多様ながん細胞への対応:固形がん細胞は多様性と変異性が高いため、一つのターゲットだけでは効果が限定的です。新たな細胞免疫療法は、がん細胞の複数のターゲットを同時に攻撃することで、より包括的な治療が可能になります。
再発リスクの低減:従来のシングルターゲットアプローチでは再発の可能性が高かった固形がんに対照的に、マルチターゲットやマルチパスウェイの活性化を通じて、がん細胞の再発リスクを低減することが可能になります。
副作用の軽減:従来の治療法(外科手術、化学療法、放射線療法)では正常な細胞にも影響を及ぼすことがありますが、免疫療法は副作用が少なく、患者の生活の質を保つことに寄与します。
現状の課題として、がん患者さんの9割以上が、胃がんや肺がん、膵臓がんなどの固形がんに罹患しています。シングルターゲットアプローチで治療可能な血液がんとは対照的に、現在の固形がんの治療は、シングルターゲットアプローチでは固形がん細胞の多様性や変異性に対応しきれず、また他の薬との併用(ダブルターゲットを含む)でも効果が限定的で不十分であるため、現在のアプローチには限界がある状況です。
このように、新たながん免疫療法は、固形がんの治療におけるこれらの課題に対処し、より効果的で患者の負担を軽減した治療法を提供する役割を果たすことが期待されます。
福田:がん細胞免疫治療と、従来のがん治療とで違う点はどんなところですか
Ying Mu.:従来のがん治療は、外科手術、化学療法(抗がん剤)、放射線療法の3つが主流です。これらは、がん細胞を直接取り除いたり、破壊したりする方法であり、正常な細胞にも影響を及ぼすことがあります。一方、細胞免疫療法は免疫細胞をリプログラミングによる活性化にて、がん細胞を攻撃するため、副作用が比較的少なく、患者さんの身体への負担を軽減することができるという利点があります。
福田:なるほど。身体的負担を軽減できるのが免疫療法の特徴だと思われますが、その中で御社が開発している「マルチターゲット細胞免疫療法」とはどういう技術なのでしょうか?
Ying Mu.:弊社独自の「AIRP技術」は、「マルチターゲット細胞免疫療法」であり、がん細胞の複数のターゲットを同時に認識することが可能な技術です。
これまでの細胞免疫療法は、一種類のターゲットのみを認識するシングルターゲット型の治療法でした。しかし、がん細胞は非常に多様であり、一つのターゲットだけを狙っては完全に除去することが難しい場合があります。そこで当社が開発した「AIRP技術」が有用であると考えました。この技術により、免疫細胞がAIRPにリプログラミングされ、強力な免疫細胞ががん細胞を徹底的に探索し、複数のターゲットを同時に攻撃する。リプログラミングされた自己免疫細胞ががん細胞を特異的に追跡し、攻撃し続けることで、がん細胞を体内で死滅させるまでの強力な免疫細胞を生成し続けます。マルチターゲット細胞免疫療法は、固形がんや再発がんに対応し、各々の特性を活かしたマルチターゲットアプローチを組み合わせることで、一回の投与で効果を発揮することを目指す治療法です。
技術保護と特許戦略
福田:御社の技術は、現状では世界唯一の技術でありユニークであることがわかりました。このような最先端技術は、他社から参考にされる可能性があるかと思いますが、どのようにして技術を保護されているのでしょうか?
Ying Mu.:とても重要なポイントです。ご存じの通り、当社の技術は世界で唯一無二のものであり、その公表には慎重な管理が必要だと考えています。特許は独自に開発した技術を他社が使用できないよう保護する有効な手段ですが、一方で出願によって技術内容が公開されるリスクもあります。現段階では、基礎的な部分はパテントで抑え、技術の核心部分についてはトレードシークレットとして扱い、臨床試験が始まる直前まで特許の出願を控える方針です。
福田:公開を遅らせることで、技術を守りながら市場での競争力を維持するということですね。どんな狙いが隠されているのでしょうか
Ying Mu .:製薬分野では、新技術が市場に出るまでに何年もかかることがあります。他社との差別化を図り、模倣されるリスクを最小限に抑えることが目的です。臨床試験の段階に入ったら特許を出願し、必要な部分だけを保護していく計画です。
日本展開の理由と拠点設立計画
福田:AIRP技術ですが、今後は日本で会社を設立し、展開を進めていく予定だと思いますが、その理由を教えてください
Ying Mu.:いくつかの理由がありますが、まずは日本の基礎研究が非常に充実しているという点です。日本には、優秀な研究者や、最先端の研究設備が多くあり、特に免疫療法の分野では世界的にも注目され、幅広く深くデータを獲得できると考えています。また、優れた研究機関が多く、製薬会社との連携も図りやすい環境が整っていると感じるため、技術に臨床応用や、商業化を進める上で大きなメリットがあると思っています。
福田:日本での拠点設立の計画についても具体的に教えていただけますか?
Ying Mu.:日本での法人設立と同時に、神戸にウェットラボとオフィスを構え、現地のパートナー企業や研究機関と密接に連携しながら事業を展開していきたいと考えています。日本市場に適した開発体制を整備し、ネットワークを拡大するとともに、日本の基礎研究と当社独自の技術を融合させ、新たな治療法を実現させていきたいです。日本における拠点の設立は、その第一歩だと思っています。
投資家へのアプローチと今後の展開
福田:技術や日本展開について伺いましたが、投資家へのアプローチについてもお聞かせください。どのように投資家の方々に魅力を伝えていく予定ですか?
Ying Mu.:「AIRP技術」の最大の強みは、メリーランド大学で得られたSOP基準の動物実験データがあることです。このデータは、第三者による検証が可能であり、技術の信頼性を裏付ける重要な証拠となります。もちろん全ての情報を最初から公開するわけではありません。ベンチャーキャピタルの方や戦略的パートナーとNDA(秘密保持契約)を締結した上で、段階的に情報を開示していきます。これは、技術の保護と投資家への透明性のバランスを保つための方法です。
福田:なるほど。それに加えて資金調達については、具体的にどういった状況ですか?
Ying Mu.:日本では、バイオテクノロジーや医療関連スタートアップへの投資が活発になってきていると考えます。これまで欧米市場に集中していた投資家も日本市場に目を向け始めており、海外のみならず日本のベンチャーキャピタルや民間投資家と接点を持ちやすい環境が整ってきました。国内の投資家や研究者とのコミュニケーションを円滑に図っていきたいと思っています。今後の成長戦略として、3〜4年かけて短期的な臨床試験への進展を目指し、4〜5年で主要市場での承認を取得、長期的にグローバルへ展開していく予定です。
福田:具体的な計画が進行中であることが分かりました。最後に、資金調達や今後の展望についてこの機会に伝えたいことがあれば教えてください。
Ying Mu.:主流となっているシングルターゲット型のアプローチ方法では、治療効果が限られるという課題に直面している一方で、AIRP技術を用いたマルチターゲット型の治療法は、治療効果を高めるとともに、がんの再発リスクを下げると考えています。
EagleImmune Inc.は、新しい免疫療法(AIRP)を開発してマルチターゲットとマルチパスウェイ活性化の免疫細胞により課題解決に取り組んでいきます。目指すは、固形がん患者さんの生存率向上と、生活の質を改善、個々の患者さんに合わせた、より効果的で持続可能な治療法の実現、希望が見える医療です。Single-Cellプロテオミクス技術によるバイオマーカーで、がん細胞だけを狙い撃ちする「ユニバーサルスマートCell」の研究開発も前進しています。日本の製薬会社や投資家の方々にも、ぜひ注目していただきたいです。
インタビューを終えて
EagleImmune Inc.が手掛ける「AIRP技術」の可能性に大きな期待を感じました。従来の治療法に限界を感じている医療現場にとって、がん細胞を同時に攻撃するマルチターゲット型細胞免疫療法は、患者さんにとっての新たな希望となるはずです。この技術が今後、どのように患者さんの治療に貢献していくのでしょうか。日本での拠点設立や研究機関との連携計画にも力強い意志が感じられました。少しでも多くの方に、この新しいがん治療技術が届けば幸いです。
【担当ライター】平野芹奈
EagleImmune Inc.事業概要
EagleImmune Inc.は、固形がんに潜む多数の標的を徹底的に突き止め、死滅させる次世代の細胞免疫治療を提供する企業です。独自に開発した新しい細胞免疫療法(AIRP)を用い、マルチターゲティングとマルチパスウェイの活性化を通じて、固形がん治療の課題解決に取り組んでいます。
目指すこと:
・固形がん患者さんの生存率向上
・生活の質の改善
・個々の患者さんに合わせた、より効果的で持続可能な治療法の実現
・希望が見える医療の提供
【PROTOCOLプロフィールページ】
会社名:EagleImmune Inc.
URL:EagleImmune
設立:2017年5月
代表取締役社長:Ying MU PhD, DABT
本社::アメリカ合衆国メリーランド州ボルティモア
事業内容:AIRP(Aggregated-Immune-Reprogramming-Platform)技術による細胞免疫治療
Ying MU氏, PhD, DABT プロフィール
医師の資格を持つ元外科医。NIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)、京都大学再生医科学研究所にて再生医学、免疫学研究に従事した後、渡米。カーネギーメロン大学、ピッツバーグ大学で教鞭を執り、30年以上にわたりバイオマーカー、免疫研究、毒性学・薬理学に携わる。 新薬申請や生物製品のライセンス申請を分析し、製品の安全性と有効性を評価するアメリカ食品医薬品局(FDA)の審査官として活躍。バイオテクノロジーの専門知識と、アメリカの薬事・規制・承認申請プロセスに関する深い理解を有する。
【参考】既存記事や各種SNSへのリンク集
HP https://www.eagleimmune.com
インタビュアー 起業支援家/エンジェル投資家 福田和博氏 プロフィール
東北大学工学部機械知能工学科→大学院情報科学研究科を修了。
㈱東芝 研究開発センターでICT分野の研究開発に従事後、ソニー㈱でオーディオ商品の企画・戦略・事業開発を担当。
2015年に横浜で起業し、複数の新規事業の立上げとM&A Exitを経験後、起業支援家/エンジェル投資家としてハンズオン型で支援中。
(一社)日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
iU(情報経営イノベーション専門職大学)客員教授
NEXs Tokyo(東京都スタートアップ支援施設)投資家メンター
【PROTOCOLプロフィールページ】
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