Published 31 Jan 2024

私がロボット義足を作るまで~BionicM CEO 孫小軍 part3~

私がロボット義足を作るまで~BionicM CEO 孫小軍 part3~

私は、新卒で入社したソニーを退社後、東大情報理工学系研究科を経て、2018年12月に弊社BionicMを創業しました。

なぜBionicMを起業するに至ったか。

シリーズに分けてBionicM創業までに至ったヒストリーをご紹介します。

※本コラムは全3回のうちの第3回となります。


目次

  1. SXSW 2017 Interactive Innovation Awardを受賞
  2. 研究開発成果の実用化に向け、BionicM株式会社を設立
  3. 未来・ビジョン

1.SXSW 2017 Interactive Innovation Awardを受賞



SXSWにプロジェクトチームを派遣するTTTに受かったものの、SXSWに出展するまでの半年間でプロトタイプを仕上げなければならないという、非常にタイトなスケジュールでした。

応募した際のプロトタイプ1号機は、サイズや機能面等でとても実用的なものではありませんでした。

そのため、半年間で実用的な物を作るにはどうすれば良いかを出発点として、2号機の製作に着手しました。機能実現のためのデザイン改修にはじまり、軽量性と強度のトレードオフ検討やパーツの設計・テスト等を行っていきました。

しかしながら、どの工程も非常に難易度が高く、多くの時間を要しました。SXSW直前に納入となるパーツもあったため、出展用の義足は出発の前夜ギリギリまで組み立てていました。できたての義足を次の日、そのままアメリカに持って行きました。

そして、到着後、現地でソフトウェア書き込みやテスト、動画撮影、そして編集・・・と展示開始の直前まで準備に追われていました。

本当に多くの方のご協力をいただき、SXSWを通じてプロトタイプを世界に発信することができました。

グローバル展開の足がかりとして、SXSWで発表できたこと、そこで様々な方から期待の声をかけていただけたことだけでも大きな収穫だったのですが、ここで文字通り運命を変える大きな出来事がありました。

Interacrive Innovation Awards(※)という、SXSWにおける非常に大きな賞を受賞したのです。出展への思いが伝わったと感じ、非常に嬉しく感じました。この賞は、過去にはTwitterやAirbnbなども受賞しており、グローバル展開するスタートアップとしての登竜門としても位置づけられるようなもので、その賞を、日本からの参加チームとして史上初めて受賞することができました。

受賞時のスピーチでスタンディングオベーションを受けたことは、今でもはっきりと目に焼き付いており、何が何でも事業化して、この技術を世の中に届ければならないと、責任を強く感じました。

※SXSW Interactive Innovation Awardsとは
前年に新しく立ち上げられたプロジェクトや製品を応募対象としてとくに優れたものを選出する名誉ある賞。複数の部門があり、各部門からそれぞれ5組ずつのファイナリストが選出され、そこからアワードが決定される。

※詳しいストーリーはこちら
https://medium.com/@todaitotexas/interview02-831d5891926



bionicMオフィスに飾られたトロフィーの数々。
Interactive Innovation Awardsのトロフィーも。


ファイナリスト専用ブースにて2号機目のプロトタイプを装着している孫氏




Interactive Innovation Awardsの受賞式でスピーチする孫氏

SXSWを通じ、多くの人にBionicMのビジョンに共感していただけました。

また、受賞したことにより認知度は大きく上がりました。メディアにもたくさん取り上げて頂き、投資家の方も含めて興味を持ってくれる人や協力してくれる人が大きく増えました。

これは、世界に対して「BionicMが義足を作っていますよ」と大きくアピールする大きな一歩で、BionicMのスタートポイントとなりました。

スタートアップは何か良いものを作っても、なかなかデビューするチャンスに恵まれないことが多くあります。ですが、その点、わたしたちは非常に運が良かったと感じています。




東京大学の公式サイトトップページ(当時)を飾った受賞のニュース




2.研究開発成果の実用化に向け、BionicM株式会社を設立

SXSWで受賞を果たした後、2018年12月にBionicM株式会社を設立しました。研究開発成果の実用化に向けて、より利便性の高い製品の開発を開始しました。

いよいよビジネスとして大きく動き始めました。




創業当時のメンバー写真

パワード義足の開発

BionicMでは「パワード義足」という動力を持った義足を開発しています。

通常の義足は支えとしての骨の役割は果たしますが、体を動かす「筋肉」としての役割は不足するため、お伝えしてきている通り、生活する上で不便なところもありました。

この不便をロボティクスの技術を活用して、義足が筋肉の役割を担うことを可能としました。

こうした動きを実現するためには、ユーザの行動分析が重要となります。もし分析が出来ないと、自分の意志に反して義足が勝手に歩き出しかねません。
そのためBionicMの義足には様々なセンサが埋め込まれていて、ユーザの体勢や状態を計測し、ユーザがやりたい動作をアシストしています。

また、動力部にも秘密があります。実は人間の筋肉はとても優秀で、大きなパワーを生み出せる一方で柔軟性も併せ持っています。既存のモーター技術ではそうした動きの再現が難しかったため、独自のアクチュエータ技術と制御技術を開発し、筋肉の動きにより近い可動を実現しました。

BionicMの義足は、他にも様々なコアテクノロジーを活用することで、より筋肉に近い動きができるよう開発を図っています。


3.未来・ビジョン

安価かつ高品質な義足の提供を目指して

今日市場に流通するほとんどの義足は動力を持たず、BionicMのように動力を持つ義足は非常に稀です。あったとしても非常に高価で、これまで普及に成功したモデルはありませんでした。

BionicMでは自社で研究開発を進めてきた技術を軸に、現在販売されているパワード義足よりも低価格で、より高品質な製品を世に送り出すことを目指しています。

圧倒的に使いやすいパワード義足を、従来の義足と変わらないコスト感で提供することで、義足業界にイノベーションを起こそうとしています。


ウェアラブルデバイスへ

我々は、義足をウェアラブル・デバイスであると考えています。人間の歩行に関してこれだけ緻密にデータを取得できる接点はありません。義足の動作データをアシスト制御の精度向上だけでなく、付加価値の創出に活かせないかと考えています。

例えば、義足ユーザの健康管理を考えています。1日の歩数はもちろん、左右の荷重バランス、健足側にかける負担の度合いが分かる。それによって、より健康的な歩き方や、必要なサービスの提案ができるようになるかもしれません。

あるいはリハビリシーンでの活用です。データの可視化を通じて、一人一人にあったプランを提案する。専門家の方の知識と経験に定量的なデータという要素を加えることが大事だと考えています。


障害の意識を「ゼロ」へ

義足を隠すことを自分の生活スタイルの一つとして捉えている人もいますが、義足を自分の弱みだと思って隠している人もいます。

そういう人に、無意識に、義足を自分の足、自分の一部として認めて、生活していただきたい。障害を無くしていくのは難しいと思うのですが、障害の意識を減らすことはできるかもしれない。

少しずつ普段の生活で無意識になっていって、気づいたら自分は義足を使っていた、というような世界を実現できたらと思います。
メガネに近いイメージです。昔は目が悪いことが障害だと思われていたのが、今では目が悪くない人も、ファッションの一部としてメガネをかけたりする。我々はまず、障害の意識をできるだけ減らして、ゼロにしたいと思っています。

障害の意識なく、自由に移動でき、自然に生活が送れること。当たり前のようで、実はとても高度なその「ゼロ」に、BionicMは挑戦しています。


今後の想い

まずは、今本当に困っている、義足を必要としている多くの方たちのちからになりたいと思っています。技術の力を活用することで、高機能な義足をユーザーへ届けたいと考えています。
実現は困難な道のりであり、これからも様々な工夫をしないといけません。しかし、それを乗り越えていくことが私たちの使命だと思っています。

また、現在は下肢切断者のモビリティを拡張する義足に注力していますが、ゆくゆくは、もっと様々な人の”歩くこと”を支えていくモビリティカンパニーになっていきたいです。

たとえば”もっと早く走りたい”とか、”もっと楽に歩きたい”とか。外出が遠のいていた高齢の方が、どんどん外に散歩するようになったりとか。いろんな人が自分の足で、いろんなところに歩いていけるようになる、その支えとなる技術を提供していきたいと思います。それが、弊社の掲げるMission”Powering Mobility for All”にかける思いです。

これからどんどん技術が進化していき、様々なソリューションが出てくると思います。私たちも、多くの人のモビリティを拡張出来るものを作り、モビリティカンパニーとして、イノベーションを起こしていきたいです。

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