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【千住光】世界の投資家が注目するハーバード卒の日本人起業家

【千住光】世界の投資家が注目するハーバード卒の日本人起業家

2021.06.29

日本は、バブル崩壊後の経済停滞に伴い、ローカルでは数々の社会問題に直面し、グローバルでは存在感や競争力が著しく落ち込んだ。そんな閉塞感が漂う日本に問題意識を抱き、未来を変える勇気と覚悟を持って「世界で戦う知られざる日本人たち」がいる。

彼らは、起業家や投資家である。日本人として、日本企業として、日本を代表する気概を持って、世界のプライベートマーケットの第一線で次なるイノベーションに日々挑戦している。彼ら「世界で戦う知られざる日本人たち」のストーリーやアイデアを学び、日本の起業家や投資家が世界で戦うための手掛かりを追う。

世界のイノベーションの震源地、シリコンバレー。スタートアップやテクノロジーに精通している者であれば一度は憧れる聖地である。GoogleやAppleもこの地から生まれた。そんなシリコンバレーの第一線で戦う日本人がいる。彼の名は、千住光。

千住はハーバード大学卒業後、在学中に立ち上げた事業を売却し、人工知能で広告を自動生成する「Omneky」を立ち上げた。起業3日目にして「Village Global」という世界的な投資ファンドからラブコールを受けるほど、千住の動向は注目されていた。千住を一言で表すと「天才」だ。そんな千住にインタビューを試みた。「Potlatch」の代表の小林大河にご紹介いただき、2021年6月にオンラインで実施。

千住光という男

1993年に東京で生まれた千住は、父親の仕事の関係で5歳でニューヨークに移住した。当時の世界の最先端を行くテクノロジー企業でディレクターとして働く祖父のもと、千住は新しいコンピューターやデバイスで溢れる環境で育ち、ハードウェアを自ら分解するなどして、幼少期から「テクノロジー」の価値に魅了されていた。千住は「テクノロジーへの関心がDNAの中にあります」と言う。テクノロジー同様に幼い頃から「リーダーシップ」にも関心が向いていた千住は、高校生の際には外国人ながら全生徒を代表する生徒会長を務めたという。高校卒業後、テクノロジーに対する関心が留まらなかった千住は、ボストンに構える言わずと知れた名門校のハーバード大学に入学してコンピューターサイエンスを専攻。大学にて、千住は人工知能を学びながら、テクノロジーの社会実装の手段としてスタートアップを立ち上げた。ハーバード生として無限の可能性と無数の選択肢を持ち合わせる環境の中でスタートアップに着目した千住は、その理由を「テクノロジー」と「リーダーシップ」としてキーワードを挙げた上で以下のように語る。

「小さい頃から決心がありました。IBMでテクノロジーのリーダーを務める祖父の影響はもちろん、母の弟が起業したスタートアップでインターンを経験する中で、『スタートアップを僕の人生でやりたい』と決心していました。ハーバードに入ってからもずっと『テクノロジーリーダーとして活躍し、テクノロジーを使って世界をより良い場所にしたい』という思いが僕のミッションでした。テクノロジーとスタートアップはほとんど似たものなんです。本当にテクノロジーに興味があって、ビジネスにも関心があれば、大企業で働くよりも、スタートアップとして開発するほうが早い。スタートアップはテクノロジーの一番先なんです。テクノロジーリーダーは、アメリカの場合ほとんどはスタートアップに行きます。特に若い人としてアドバンテージがありますよね」

千住は以上の思いのもと、数度の起業を経て、優秀な教師と学生を結び付けるオンデマンドの家庭教師アプリを開発する教育ベンチャー「Quickhelp」を大学4年生の際に立ち上げた。同社は、立ち上げ3カ月の時点でハーバード大学やイェール大学などの一流私立大学の学生のMAU(月間アクティブユーザー)が3万人を達成し、驚くべきスピードで成長したという。千住は2015年に大学を卒業した後も、企業に就職せずに引き続き同社の成長に邁進し、最終的に同様のサービスを展開する「Yup」という企業に売却するに至った。2017年3月のことだった。千住は、売却と同時にマーケティングの責任者として同社に入社し、サンフランシスコに移住することになる。

Omnekyの誕生

同社にて1年半ほどインターネット広告の業務に向き合う中で、千住は「広告デザインのブラックボックス」に問題点を見出した。広告を制作し評価する上で、デザインのプロセスとパフォーマンスが曖昧だったのだ。2018年5月、千住はYupを後にし、人工知能で広告を自動生成する「Omneky」を立ち上げた。


(画像:Omneky)

千住は立ち上げの経緯について、NewsPicksのインタビューで以下のように語る。

「(前略)僕はそのYup.comで、1年半ほどマーケティングの仕事をしていました。そこではデザイナーと話して『こういう色が良いかな』とか『こういうメッセージが効くかな』とか、ライバル企業を見比べてオンライン広告を作っていました。ところが、そのオンライン広告がどう効いたのか、よくわからなかったんですね。一度、キャンペーン広告が成功すると、それはそれで『成功したね!』というだけで終わってしまう。なぜ成功したのか、そのブラックボックスがわからないことが、僕のペインポイントでした。もともと出身はコンピュータ・サイエンスだったので、AIとコンピュータの進化のスピードがものすごく上がっていることは気が付いていました。その中で、どうすれば広告のデザインを最も効果的に打てるのかを考え始めたのです。コンピュータビジョンのレベルが向上したおかげで、そのデザインのどこがいいのか、というのを数値で割り出すことができます。デザインをどう数値に落とし込むか、それが今のOmnekyのスタートになりました」

Yupを辞めた次の日、世界的な投資ファンド「Village Global」から資金を調達した。当ファンドは、サンフランシスコに拠点を置き、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグなどの世界有数の起業家から資金を集め、アーリーステージのスタートアップに投資するVC(ベンチャーキャピタル)だ。


(画像:Village Globalウェブサイト)

前述のQuickhelpのトラックレコードを持つ千住の動向に、世界の第一線の投資家が注目していたのだ。千住はVillage Globalの他にも、SalesforceでチーフサイエンティストとSalesforce Researchの所長を務める、ディープラーニング研究の第一人者のリチャード・ソーチャーからも投資を受けているが、基本的に外部資金を受け付けていない。Village Globalの投資に関して、千住はNewsPicksのインタビューで以下のように語る。

「起業して3日ほどで投資を受けたのですが、その金額はとても少ないもので、12万ドル(1300万円)です。僕が欲しかったのは、資金ではなくシリコンバレーのコネクションでした。彼らはものすごくコネクションの強いファンドで、そこを通じて、客、アドバイザーを紹介してもらえるのが最大の魅力だったのです。僕が感じているのは、特にスタートアップ初期にお金があまりあり過ぎると、いろいろと都合の悪いことをしてしまう。ハッキリ言って、結構お金を無駄にしてしまうのです。お金がない状態だと、ハングリーに問題解決に挑めるという感覚がありました」

2020年1月に「Omneky」は正式にローンチし、1年以内に100万ドル(約1億円)の利益を越えた。OmnekyのAIは、全ての顧客に最適な広告を表示するために、何百万もの広告を作成する。多くのデータを基に統計的に判断し、顧客に最適なデザインとテキストの広告を作成し、広告のROI(費用対効果)を高めることができる。その高いクオリティと低いコストが評価されたOmnekyは、FacebookからFMP(Facebook Marketing Partner)として公認の代理店に認定され、アメリカのみならず、ドイツ、スイス、イギリス、フランス、イスラエル、インド、インドネシア、シンガポール、オーストラリア、そして日本など、世界中に顧客を抱えている。

千住は、今後の展望として、Omnekyの現状のサービスに留まらず、得たお金とデータを活用して挑戦者に融資するサービスを計画している。毎年10億ドル、100億ドル以上の利益を出し、「世界をポジティブに変える会社」を目指し、千住は現在も世界に向けて事業を拡大させている。千住は自身のミッションに関して、「挑戦の民主化」という名のもと、「テクノロジーとビッグデータの力を使って、良いアイデアや良いビジネスがあれば誰でも成功できるようなチャンスを作っていきたい」と語る。

日本人として

千住は、アメリカという世界のイノベーションの震源地の第一線で、外国人ながら、持ち前のテクノロジーとリーダーシップの力をもって本気で世界を変えようと励んでいる。千住は日本の国籍を持っているものの、前述の通り人生の大半をアメリカで過ごしているため、言語的にも思考的にも日本人よりアメリカ人に近いカルチャーを持つという。しかし千住は、日本人としてのアイデンティティに強い想いを抱いている。アメリカで生まれ育つ中で、外から見続けてきた母国の日本について、千住は以下のように語る。

「日本は今が出番だと思います。なぜかと言うと、グローバルトレンドがシフトする中で、日本はアジアとウェスターンの真ん中にある特別な国だからです。未来のタレントもビジネスもアジアに集まりますよね。何より、日本人はグローバルシティズン(グローバル市民)です。世界的に好かれていることが日本のパワーだと思います。日本人ほど世界に好かれている人類はもしかしたらいないかもしれません。それをチャンスにして国をもっとオープンにし、世界がアンチグローバリズムに傾く中で、日本はグローバリズムをEmbraceする(受け入れる)べきです」

実際にアメリカでスタートアップとして挑戦する上でも、内藤聡小林大河など現地で起業する多くの日本人が言うように、日本人としての恩恵を受けていると千住は言う。

「日本人でラッキーだったとよく思います。世界を怖がる必要はないです。ホンダやセガなど、日本の小さい企業が日本のお金と人材を使って、アメリカのマーケットを通じて世界にアクセスしたことは何回も起こっているので、日本企業にはクリアな道があります。ただ、先人が長年頑張った結果の今なので、私達が頑張らないと次の世代に続かない」

その上で、千住は「日本の美意識」に注目している。千住は、日本画家の父親からインプットした日本の美意識を、自身が持つ最先端のテクノロジーの力を通して世界に広げようとしている。それが「Omneky」なのだ。

世界の投資家から注目されるハーバード卒の日本人起業家、千住光。千住は「毎日が苦労です。友達の家の床に泊まり込んでいるので腰が痛い」と言っていた。立派な家柄と華々しい経歴を持ちながら、その恵まれた環境や才能に甘えることなく、謙虚に真摯に、日本人として世界の次なるイノベーションに日々挑戦している。千住は日本と世界を照らす「光」になるかもしれない。


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